28話 意外な人物、意外な生物
何事もなく、神林さんの車で水面家に到着。
車2台分のスペースの駐車場から伸びる飛び石の上を歩き、玄関のチャイムを鳴らすと。
「はーい、どちら様で……って、五十嵐か」
「……え、竹部さん?」
玄関から出てきたのは、竹部さん。
「新庄たちも一緒か。あんたたちもお見舞い?」
「あ、はい。竹部さんもお見舞いに来たんですね」
「うん。とりあえず、上がってよ。外は寒いでしょ」
「そうですね……お邪魔します」
俺を先頭に、4人で水面家にお邪魔する。
◆◆◆
「あら、来てくれたのね」
「すいません、突然来ちゃって。大丈夫……ではないようですね」
瑠璃さんの顔、かなりやつれてしまっている。
「……正直、かなり辛いわね。私自身に『回復』を使うことができればいいんだけど……」
そうか、瑠璃さんの能力は、瑠璃さん自身に使えないのか。
なんというか……歯がゆいな。
「でもまあ、これでも容体が安定してきた方なのよ。さっきまではもっと酷かったから」
「竹部さん、なんでばらしてるのよ」
「いいじゃんか、こいつらなら」
竹部さん、俺たちのことをかなり信頼してくれているみたいだ。
「正太郎は学校に行ってるんですか?」
「ううん、私のことが心配みたいで、今日は休んだわ。『熱が出たから休みます』って言ったみたい」
「自分で言ったんですか……」
それでよく、学校の先生にばれなかったな。
……能力者だから、何かあったのだろう、みたいに思ってくれたのだろうか。
「それじゃあ、正太郎は……」
「ここにいるよ」
「うわぁ!?」
背後から、正太郎の声。
「正太郎、頼むからそういう登場の仕方はやめてくれ……心臓に悪い」
色んな人との戦いで、背後を取られるのが物凄く怖くなっているのだ。
「すみませんね。……五十嵐さん、ちょっといいですか?」
「ん?……ああ、外に行くか」
正太郎の目線は、玄関の方を指していた。
何か話があるのだろう。立ち上がって、正太郎と玄関に向かう。
◆◆◆
「で、どうかしたのか?」
水面家の庭にて。
一般家庭(俺の家)の庭より断然広い。能力を活かした仕事って、そんなに稼げるのだろうか。
──俺もしてみようかな、なんて考えが頭を廻ったけど……貫太さんと瑠璃さんの能力は仕事向きだからなぁ。俺には向いていないかもしれない。
「……なぁ、五十嵐さん」
「ん?」
「……いや、やっぱなんでもないです」
「はぁ」
そういえば。
正太郎、俺に対して敬語を使っている。
何か思うところがあったのだろうか。
「敬語なんだな」
気になることは、訊くに限る。
「……悪いですか」
「いや、そんなことは……」
「変ですか」
「いや、だからそんなことは……」
正太郎、なぜか顔が真っ赤だ。
起こってはいないようだけど……って、ああ、なるほど。
こいつ多分、敬語を使って間もないんだ。
「敬語に慣れてない、ってとこか」
「……普通、そういうことを本人を前にして喋りますかね」
「いいだろ、俺とお前の仲なんだから」
「一度戦っただけでしょ」
むぅ、反論できない。
「だけど、まぁ」
「ん?」
論破を阻止するべく、脳をフルに使って反論を考えていると、正太郎が口を開いた。
──俺を、真っ直ぐに見つめて。
「そういうところが、人を惹きつけるんでしょうね」
「お褒めに与りあんがとさん。……そろそろ、本題に入ってくれるか?」
「そうですね。もう分かってはいるでしょうけど……お母さんのことです」
まあ、そうだろうな。
「おれはまだ、能力者として生活し始めて、日が浅いです。だから、お母さんがああなったから、その……不安なんです」
正太郎、かなり思いつめている感じだ。
『国土回復』でも治せないほどの、心の傷。
きっと、相当辛いはずだ。
手を差し伸べてやりたい。
「自分以外の能力者が、全員苦しんで死ぬかもしれないから、ってことか?」
「……読心術を使ったんですか?」
「俺の読心術もどきじゃ、単語一句一句を完璧に読み取る、なんてことはできないよ。ただの予想だよ」
「……五十嵐さん、あんたはやっぱり凄いよ」
また褒められた。たいしたことをした覚えはないんだけど。
「五十嵐さんの言うとおりだよ。おれは病気や怪我で死ぬことはない。だから……知り合いが消えるのが、怖い」
「それでいいんじゃないのか?」
「え?」
正太郎の言うことは、尤もだ。
尤もすぎて、反論のしようがない。
というか、反論する必要がない。
「それでいいし、それがいいし、そのままでいい」
「反論するところじゃないんですか?」
「反論しなくていいんだよ。だって──お前の思っている『知り合いが死ぬのが怖い』ってのは、人間にとって当たり前の感情じゃないか」
ほとんどの人が、そう思っているはずだ。
人間なのだから、そういう感情だって許されるはずだ。
「人間、ですか」
「ああ。俺たちは能力者である前に、一人の人間だ。違うか?」
「……いや、違わない」
納得してくれたようだ。よかった。
「ありがとうございます、五十嵐さんのおかげで、悩みが吹っ飛びまし──っ!?」
「な、なんだ!? ──え?」
駐車場から物凄い速さで庭に入ってきたモノ。
見覚えがあった。しかし──なぜか傷だらけ。
庭に入ってきたのは、一匹のライオンだった。




