27話 第六能力者
神林さんと第四能力者の簡潔な説明と、第六能力者の『一を聞いて百を知る』と言っていいほどの理解力のおかげで、会議は15分ほどで終わった。
瑠璃さんの様子が気になるから、短く済んだのはありがたかった。
「僕らはこれで失礼します。何かありましたら、すぐに連絡してください」
「分かったよ。神林君、新庄君と五十嵐君をよろしくね」
「はい。それでは、またお会いしましょう」
そう言って、神林さんと第四能力者はコテージを出て行った。
「第六能力者、俺らも失礼するぜ」
「うん。また会おうね」
「ああ、またな」
「失礼します」
新庄に続き、俺もコテージから外に出る。
◆◆◆
駐車場に戻り、神林さんの車に乗り込み、水面家に向かう。
「あの、第六能力者って動物に変身出来たりするんですか?」
ついさっき思い出したので、神林さんに訊く。
「よく知ってるね。うん、そういう能力も持っているよ」
「じゃあ、あの噂は本当だったんだ……」
案外、きちんとした情報が回っているようだ。
「噂って?」
「俺に能力があるって分かる前に、聞いた噂です。『動物に変身できる人がいる』っていう」
「そんな噂が流れていたのか……情報を制御するのも必要だね。今度警察に掛け合ってみるかな」
「そ、そんなことしないでくださいよ!?」
かなり本気のトーンで言われたから、思わず反論してしまったけど。
「冗談だよ。そんなつまらないことはしないさ」
「分かりづらい冗談やめてくださいよ、もう……」
ああ、マジで驚いた。
──何度も思ったことだけど。
「『警察に掛け合う』っていう発想が至るあたり、神林さん、やっぱり……研究者としての地位、すごく高いんですよね?」
「さあ、どうだろうね」
はぐらかされた。何度目だろう。
こんな感じの、非常に緩い会話をしながら、水面家に向かったのだった。
◆◆◆
同時刻、第六能力者のコテージにて。
「おや、誰か来たのかな」
「え、報告は来ていませんが……あら、ドアが」
「うん、開いているんだよ」
コテージのドアが、外側に開かれていた。
「ドアを閉めきれていなかっただけかな」
「外には誰もいないようですね」
「そうだね──」
「危ない!」
「え?」
◆
第六能力者がドアに意識を取られている最中、第七能力者は『偶然』ドアと正反対の位置にある暖炉に目を移していた。
薪が少なくなっていたな、と思っての行動だったが。
結果的に、その行為は──吉と出て、『凶とも出た』。
「誰ですか!」
「──ほう、偶然気付いたか」
暖炉のそばに現れた『影のような何か』の右手が第六能力者の頭に触れそうになり、思わず間に入ったのだが。
「──っ!?」
「気付かなければ、苦しまずに済んだのにな、『第七能力者』」
「な、なによ、これ……!」
『何か』の右手が触れた右腕が、崩れ落ちていく。
「どうした!──貴様、何をした」
「そう怒るな、第六能力者。お前もすぐにこうしてやるから」
「──ふざけるな!『動物』!」
第六能力者の右腕が、ゴリラの右腕になり、暖炉や壁ごと『何か』を外に吹き飛ばした。
「おい、しっかりしろ、おい!」
「──第六、能力、者」
「おい、おい!」
◆◆◆
出会いは、ひどくあっさりとしたものだった。
『神の生まれ変わりって、本当ですか?』
神の生まれ変わりである俺の能力が、『動物』と名付けられて、すぐのこと。
超能力研究本部の隣県で、ひっそりと日本の生活を満喫しているところに、彼女は訪ねてきた。
『私、七番目に発見された能力者です』
俺の次に能力者だと判明した彼女は、超能力研究本部で俺の居場所を聞き、俺の元へと来たのだった。
なぜ来たのか、理由を問うと。
『恩返しをしたいと思ったから、です』
彼女は昔、スイスで殺されそうになっているところを、俺に助けられた──らしい。
彼女が力を持っていることが不良にばれて、『魔女狩り』なんて名目で殺されそうになっていたんだとか。
──ああ、俺は彼女を憶えていなかった。
誰かが殺されそうだったから、『人間らしく』助けた。
人間になったのだから、人間らしく生きようと思い、人間らしく助けた。
それだけのことだった。
その日から、俺は彼女と暮らすようになった。
◆
彼女は、精一杯尽くしてくれた。
門番の仕事だけでなく、家事全般も手伝ってくれた。
『私、あなたといれて嬉しいです』
そんな言葉を口にされたことがあった。
彼女は、俺に好意を持っていたのだ。
俺もその気持ちに、精一杯応えようと努力した。
『超能力者の夫婦がいるらしいですよ、第六能力者』
そんな言葉を口にされたこともあった。
その時ばかりは、さすがの俺もたじろいでしまったな。
そんな俺を、彼女は満面の笑みで見つめてきた。
かけがえのない存在だった。
永遠に共に生きたい、そう思った初めての存在。
『彼女さえいれば、他の何もいらない』。
くだらないと思っていたそんな言葉さえも、輝いて見えた。
だから。
だから──っ!
◆◆◆
「俺の大事な人を傷つけたお前を、許さない!『動物』!!」
怒り狂った俺に勝てる者など、誰一人としていない。
殴られ倒れた『何か』の頭上に、巨大なゾウを出現させ、『何か』を押し潰す。
「待ってろよ、第七能力者!すぐにこいつを殺して、右腕を治してやるからな!」
俺の能力『動物』は、欠損した部位を作り直すことができる。
だから、第五能力者の『回復』には及ばないが、簡単な治療ならできる。
「無駄だ、第六能力者。お前の能力では、俺には勝てない」
「なっ!?」
出現させ、『何か』を押し潰したはずのゾウは、消えていた。
そしてそこには──陰に包まれた『何か』が立っていた。
「ならばもう一度、『動物』!!」
「無駄だと言っただろう、第六能力者よ」
「どういう意味だ、貴様、──!?」
『何か』の影も形も、俺の視界から消えていた。
──背後に気配!
「遅い」
「ぐっ……」
気付いた時には、すでに背中を殴られていた。
「神の生まれ変わりだと聞いていたが、この程度だったか」
「貴様、何を──いや、今はそんなことどうでもいい」
「ほう、まだ立ち上がるか」
立ち上がるに決まっているだろう。
「貴様を倒して、第七能力者を治さなくちゃいけないからな」
「なるほどな。ま、そういうことなら」
「二人とも、すでに手遅れだと思うがな」
「は?何を言ってるんだ、貴様……」
「特別にヒントを出してやる。『俺がお前より先に触れた者を見てみろ』」
「だから何を──……まさか!」
コテージの方を見る。
俺が壊した壁の傍に倒れた、第七能力者は──目を瞑っていた。
「第七能力者!」
駆けよって、彼女を抱きしめる。
「お、おい、どうしたんだよ、眠っちまったのか?冗談だろ、おい、たちの悪い冗談はやめろって、おい、第七能力者?おい、目を覚ませって、おい、頼むよ、目を、目を開けてくれよぉぉおお!」
彼女は、冷たかった。
「神の生まれ変わりともあろう者が、そこまで取り乱すのか。まったくもってくだらない」
「──ふざけんな!貴様、第七能力者に何をした!」
「そんなことも分からないのか。仕方ない、教えてやろう」
俺の元へと歩いてきながら、俺を見下しながら。
「能力を奪ったのさ」
そんな衝撃的なことを、『何か』は口にした。
◆
「神であった貴様なら分かるだろう。能力を失った存在がどうなるか」
「──死、ぬ」
そうだ。
俺も能力を失って、一度死んだ。
つまり、神ではなくなった。
俺の場合は、信仰を失ったから、能力も失ったわけだが。
──こいつは、意図的に能力を奪えるのか?
「くっ……」
な、なんだ、急にめまいがした。
──ま、まさか!
「その表情、『二人とも手遅れだ』と言った理由が分かったようだな」
「まさか──」
「ああ、お前の能力も奪わせてもらった」
「そ、そんな、そんなことが……」
めまいはひどくなり、視界は既に機能していなかった。
「だ、だが!貴様の能力はおそらく『物質を破壊する』といったものだろう!?ならなぜ、能力を奪える!」
超能力を複数持つ能力者が、いないわけではない。
第十一能力者は、二つの能力を持っているらしい。
だが、『物質を破壊する』といった強大な能力を持つ者が、『能力を奪う』という、さらに強大な能力を持てるはずがない。
「強大な能力を複数持てる存在など、いるはずが──」
「複数持ってなどいない」
『複数持ってなどいない』?
そんなはずはない。
──いや、もしそれが本当だとしたら。
「貴様、一体何なんだ」
「さあな。さてと、おしゃべりはここまでにしようか。さらばだ、『最終終焉』」
「何を──な、なんだ……?」
『何か』は、消えていた。
「ぐは……っ!」
マズイ、もう持ちそうにない。
地面に膝をつける。──ここまでか。
周りを見渡すが、作り出した『人格を持つ動物』は、消えていた。
──いや、まだ一頭だけ、傷だらけだが、いた。
「……我が主よ、申し訳ない。他の動物はすでに、奴に消されてしまった」
「いいんだよ、ライオン。──一つ、頼みを聞いてくれるか?」
「なんだろうか」
大事な大事な、頼み。
「第四能力者たちに、このことを伝えてくれ。それと、『最終終焉』という単語も」
「分かった。──主よ、あの世で会おう」
「ああ、またね」
ライオンは、駐車場の方へ駆けていった。
◆
「よい、しょ、っと」
残り少ない力を振り絞り、第七能力者をベッドに寝かせる。
俺は、ベッドの横の椅子に座り、第七能力者の頭を撫でる。
「──ありがとう、俺を守ってくれて」
おかげで、第四能力者たちに、危機を知らせることができた。
ああ、安心したら、眠くなってきた。
「なあ、第七能力者」
贖罪のつもりではないけれど。
この言葉を、言っておこう。
「好きだよ、第七能力者」
俺も、君の元へ向かうよ。




