26話 門番
神林さんの車に乗り、隣県にいるらしい第六能力者の元へ向かう。
その途中、第四能力者の口から、気になる言葉が発せられた。
「門番、ですか?」
『第六能力者の住むところには、門番がいる』──そう言ったのだ。
「はい。行けば分かりますから、門番の正体はここでは伏せておきますね」
「第六能力者に、門番──かなり気になるな。俺らを敵視している奴なのか?」
「どうでしょう……私のことは、味方だと思ってくださっていますよ」
それなら多分、襲ってはこないだろう。
「それより、俺まだ、第六能力者について何にも知らないんですけど」
「そうでしたか。では、簡単に説明しておきましょう」
そう言って、第四能力者は説明を始めた。
◆◆◆
話をまとめると、こうなる。
◆
・第六能力者はオーストラリア出身の男性で、一部の人から『神の記憶を持つ者』と呼ばれている。
・その正体は『神の生まれ変わり』であり、前世は『動物を司る神』である。
・『動物』という能力を持っている。
・研究本部のある県の隣の県で、静かに過ごしている。
・住んでいる家には、門番がいる。
◆
だいぶ進んだところで、第四能力者が神林さんに、車を停めるように言った。
停まった車から降り、周りを見渡してみた……のだが。
「公園?」
「正確には、キャンプ場ですね。ここのコテージで、第六能力者は暮らしています。さ、行きましょう」
歩き始めた第四能力者と神林さんに、俺と新庄もついていく。
◆◆◆
10分ほど歩き、キャンプ場のかなり奥の方までやってきた。
辺りは木々が覆い茂る森。
そして──何かの気配。
「誰だ!」
新庄が、先に反応した。
ここはキャンプ場だから、他の人がいてもおかしくはない。
だが、この気配は──『そうよくあるものではない』。
尋常じゃないほどのデカさ。
俺と新庄は、咄嗟に構えて、相手が出てくるのを待った。
──次の瞬間、俺と新庄は呆気にとられたのだが。
◆◆◆
『──来たようだな』
『そうですね』
『見てきてくれるか』
『ええ、もちろんです』
◆◆◆
草むらからゆっくりと、のっしりと出てきたのは。
「ら、ライオン!?」
「だよな……」
金色のたてがみを首にまとった、かなり大きいライオン。
さすがに、この展開はまったく予想していなかった。
だが、まだ驚きの展開は続いた。
「ようこそ、第四能力者、第九能力者、第十能力者、そして研究員。我らの主は、この奥のコテージでお待ちになられている。さあ、我の後に続いて、来い」
──は?
「しゃ、喋ったぁ!?」
「驚いている暇があるのなら、さっさと歩け。これ以上、我らの主を待たせるつもりか」
「あ、すいません……」
思わず謝ってしまった。
言われた通り、ライオンについて行くことにする。
「……なるほど、そういうことか」
「新庄?」
新庄、何かに気付いたようだ。
「ライオンがここにいるのは、第六能力者の能力だと考えれば分かるんだが、なぜ喋れるのか気になってな。少し考えれば分かることだったが」
「どういうことだ?」
『ライオンが喋れるのは、第六能力者の能力のおかげ』だと思っていたのだが、違うのだろうか。
「第六能力者の能力では、動物を喋れるようにはできない。だが、第七能力者の能力があれば、『作り出された動物』を喋れるようにすることができるはずだ」
「『作り出された』?」
ってことは、目の前を歩くライオンは──。
「──我らは作り出された存在。我らの主によって作られ、命を与えられた存在だ。第九能力者の言った通り、第七能力者の能力のおかげで、我らは人の言葉を喋れるようになったのだ」
第七能力者の能力って、『人格』だよな。
新庄の人格を治した人か。
「着いたぞ、ここが我らの主の住む場所だ」
「……ん?」
玄関前の階段に、女性が座っている。
青色の瞳や、白と金色の混じった髪の色から見て日本人ではなさそうだが、もしかして……。
「久しぶりだな、第七能力者」
「久しぶりね、第九能力者」
やはり、この人が第七能力者か。
「報告通り、4人いるわね」
「報告?」
ここに来るまでの間に、誰かに見られていたのだろうか。
前を歩いていたライオンは、誰かと連絡するような素振りはしていなかったし……。
「第六能力者と私が作り出した『喋れる動物』は、ライオンだけじゃないわよ?」
「──え?」
まだいたのか。
そう言えば、ライオンは第六能力者のことを『我らの主』と言っていたな。
「空を飛ぶ小鳥たちに、周囲を見張らせていたのよ」
「なるほど、そういうことでしたか」
「さて、それじゃ……」
第七能力者は立ち上がり、俺ら4人の元へ歩いてきた。
──訂正しよう、新庄の元へ歩いてきた。
そして。
「……うん、人格は完全に治ったみたいね」
「おかげさまで、な」
この人、神林さんから聞いていたのより、穏やかそうだな。
神林さんに口止めしていたらしいけど、そんなことをするような人には見えないけどなぁ。
「そういえば、第九能力者、あなた──第十能力者に私のこと、ばらしたらしいわね」
あれ、一気に雰囲気が変わった。
「ああ、俺は口止めされていなかったからな。何も問題はないだろう?」
「ええそうね。でも、神林君にした口止めの意味がまったくなくなっちゃったのよね。本当、どうしてくれるのかしら」
……まさかとは思うけど、ここでいきなり戦い始めたりはしないよな?
すごく面倒くさいことになるから、やめてもらいんだけど。
「第七能力者、我らの主がお待ちなのだろう?そろそろ、この者たちを中に入れてやってもいいのではないか?」
予想していなかった方向からの助け船!
ライオン、本当にありがとう。
新庄が本気になったら、この辺り一帯が壊滅しそうだからな。……まあ、今の新庄は暴れたりはしないだろうけど。
「……分かったわ。じゃあみんな、中に入ってくれる?」
第七能力者に続いて、俺らもコテージに入っていく。
◆◆◆
コテージの中は、不思議な空間になっていた。
外観からは考えられないような、凄まじい光景。
「すげぇな……」
新庄も、その光景に驚いていた。
暖炉の傍の椅子に座る、セーターとチノパンを身に着けた、茶髪の男性を中心に、様々な動物が『話し合っていた』のだ。
耳の垂れた茶色の犬と、耳をピンと立てた黒い猫は、犬派と猫派について議論していた。本人たち(人ではないけど)が話して、なにか収穫があるのだろうか。
お尻の赤い猿は、天井に吊るされた縄にぶらさがり、ぐっすりと寝ているナマケモノに、とても忙しなく説教していた。
土の色のモグラと、真っ白な体で黄色のくちばしを持つペリカンは、地中と空中、それぞれのよさについて討論していた。犬と猫よりは仲がよさそうだ。
──まさに、楽園だった。
そんな光景に俺と新庄が圧倒されていると、暖炉の傍の男性が立ち上がり、新庄の前に立った。
身長がそれなりに高い。鼻の高い顔立ちから見ても、日本人ではなさそうだ。
「はじめまして、第九能力者、新庄君。君の話は聞いているよ」
「はじめまして、第六能力者。あんたの話も聞いている。神の生まれ変わりらしいじゃねぇか」
新庄、もうその話切り出すのか。
俺も気になるから、別にいいけども。
「おや、第四能力者から聞いたのかな?それなら自己紹介はいらないかな」
「あんたの名前は知らないから、教えてもらえるか?」
「名前、名前……ねぇ」
第六能力者、言い渋っている。
その様子に、新庄も気づいたらしく。
「何か事情があるようなら、言わなくても構わないぜ」
「忘れてしまったのさ」
「は?」
わ、忘れた?
「人間になってからまだ日が浅くてな、神の頃の記憶の方が強いのもあって、忘れてしまったんだよ」
「日が浅いって……30代には見えるが」
「たったの30年だろう?何百年も神をやったから、仕方ないことなんだけどね」
「……なるほど」
『たったの』30年、か。
やはり、感覚が違うみたいだ。
「そっちの君は、第十能力者、五十嵐君だね」
「あ、はじめまして。俺のこと、知ってるんですか?」
「もちろんさ!能力者になって早々に、第八能力者に勝ったって聞いたよ。一度戦ってみたいものだ!」
「機会があったら、ぜひ」
どういう風に戦うのか、気になる。
「第六能力者、現在起きている異常について、ご存知でしょうか」
神林さんが、本題を切り出した。
「少しだけなら、動物から報告を受けているよ。第一能力者の身に異常が起きたらしいね」
「ええ。その他にも、第二能力者と第五能力者にも異常が出ました」
「……大変な事態みたいだね。もう少し詳しく教えてもらえるかい?さ、座って」
テーブルの周りの木の椅子に座り、会議が始まった。




