25話 異常
10月、11月と何事もなく、平和ボケしそうになる12月。
──の、後半。
つまり、冬休み。
「……暇だな、新庄」
「そうだな、五十嵐」
俺と新庄は、研究本部で検査を受け終え、玄関を入ってすぐの廊下に置かれた椅子に座り、くつろいでいた。
──暇を持て余していた、というほうが合っているかもしれない。
「訊きにくいんだけど、新庄、正月はどうするんだ?」
「どうするかな……家にいても、一人だし」
新庄の両親は、新庄を虐待していたことで、今も牢屋に入っている。
実家で一人暮らしをしている、と新庄は言っていた。
「研究本部に集まって、パーッと騒がないか?」
「パーッと、と言ったって……俺とお前だけで、か?」
「いや、俺らだけじゃないぜ」
ずっと考えていたことがある。
それを、実現させたいのだ。
「能力者全員を集めて、新年会を開くんだよ!もちろん、研究本部の人たちも参加して、凄い規模の新年会を……!」
「夢物語だな」
「えぇ……?それ言っちゃう……?」
「──でも」
新庄は立ち上がり、俺の方を向いて、話す。
「実現できたら、凄いだろうな」
「新庄……!」
「いいじゃないか!やろうぜ、新年会!俺とお前は参加するとして、あと10人の能力者と連絡を取らないとな」
「よっしゃ!そうと決まったら、行動に移すのみ……ん?」
自動ドアが空き、玄関から女性が現れる。
肌が黒い。どこの国の人だろう……と考えていると、女性はこちらに気付き、歩いてきた。
「新庄さんと五十嵐さん、ですね?」
「ああ、俺が新庄で、こっちが五十嵐だ。あんたは?」
「ちょ、新庄、初対面の人と話すときは、敬語で──」
「構いませんよ、五十嵐さん。新庄さんはそう言う方だと聞いています」
ベイリーさんを彷彿とさせる、丁寧な口調。
俺と新庄をしばらく見た後、女性は口を開いた。
「私は第四能力者、『熱と冷』です。以後、お見知りおきを」
「ど、どうも……」
ああ、能力者だったのか。
──能力者と会っても、驚かなくなってきているな、俺。
「で、あんたの名前は?」
「名前は捨てました」
「は?」
新庄、怪訝な顔をしている。
「『悪魔だ』と言われ、親から勘当されてしまいまして。なので、苗字も名前も捨てました」
「……そうか、言いにくいことを訊いてしまったな、すまない」
新庄、申し訳なさそうにしている。
『親』という言葉で、色々と思い出してしまったのだろう。
「それで、第四能力者、俺と新庄に何か用ですか?」
「ええ、伝えなければいけないことがありまして。あなたたちがこちらにいらっしゃると聞いて、来たのです」
「前置きはいい。早く本題へ入ってくれ」
「そう焦らないでください、新庄さん」
急かす新庄をなだめつつ、第四能力者は話を続ける。
「第一能力者の身体に、異常が出ました。自身の能力の影響でしょう」
「……異常?」
異常、って……どういうことだ?
「俺には、その『異常』って言葉の意味がよく分からないんだが、説明してくれるか?」
「もちろんです。ここで言う『異常』は、めまいや吐き気、高熱などが同時に出ることです。つい先ほどできた使い方ですね」
「その言い方だと、ルークさんに異常が出たのは、今朝あたりなんですか?」
「ええ、その通りです」
ルークさん、大丈夫だろうか。
──まあ、心配いらないか。
「瑠璃さんの能力で、治してもらえばいいんじゃないんですか?そのくらいの症状、瑠璃さんならすぐに治せますよ!」
「五十嵐の言うとおりだ。『回復』はどんな症状でも治癒させることができるはずだぜ?」
「──そう言うと思っておりました」
第四能力者、少し俯いた。
なぜだろう、別に、変なことは言っていないような……。
「非常に言いにくいのですが……第五能力者、水面瑠璃の身体にも、異常が出てしまいました」
「……は!?」
◆◆◆
神林さんの研究室に移動して、話を再開する。
「つまり、ルークさんを治すのは、現段階では不可能、ということですね?」
「はい、そうです」
当然、神林さんも話に加わっている。
「さっき、『自身の能力の影響』で異常が出た、と言っていましたよね。どういうことなんですか?」
「……申し訳ありません、それに関しては、その言葉以上のことは分かっていないのです」
「そうですか……」
どういう仕組みで異常が出るのかは、分かっていないのか。
「なあ、第四能力者」
「なんでしょう、新庄さん?」
「瑠璃さんとルークさんに異常が出たってことは、俺や五十嵐もそうなる、ってことでいいのか?」
「断言はできませんが……その可能性はあるでしょう。もちろん、私にも」
──場が、静まる。
「……今入ってきている情報では、異常が出ているのはその二人だけです。第一能力者と第五能力者、つまり『早い段階で能力者だと判明した』二人です。多少の時間差はあるでしょうが、おそらく、『能力者だと判明した順』で異常が出ていくのだと思います。私の勘、ですが」
「勘、ねえ。ってか、神林さん、なんであんたの所に、この情報が入ってきていないんだ?」
「ああ、それは──」
「私が説明しましょう」
第四能力者が、話を続ける。
「最重要機密情報は、すべて私が伝えることになっているから、です」
「そ、そうなんですか」
……なんで、第四能力者が伝えることになっているんだ?
「それは、あんたの『熱と冷』って能力が、機密情報を運ぶのに適しているから、ってことでいいのか?」
「さすが新庄さん、理解が早くて助かります。その通りですよ」
新庄は話に付いていけているのか……さすがだな。
「私の能力『熱と冷』は、本来は温度とリズムを操る能力ですが、進化して『正確に記憶する能力』にもなったのです。なので、最重要機密情報は私が運んでいるのです」
「正確に、記憶?」
どういうことだ?
「五十嵐君、第四能力者は、伝えるべき情報を、そのまま運んできてくれるんだ。言葉を足したり、削ったりは絶対にしない。そういう能力を持っているんだよ」
「そうなんですか……」
ということは。
「嘘を吐けない、ってことですか?」
「はい、そうですよ。もちろん、正確な情報でも、言いたくなければ黙ってやり過ごしますけどね」
一般人に訊かれても、話してしまうことはないのか。だから機密情報を扱っているのか、なるほど。
「で、これからどうすれば……ん?」
「どうした、五十嵐」
「なんか、廊下の方が騒がしくなってきてないか?」
研究室の外が、ざわざわとしている。
なんだろうか──と思っていると、研究室のドアをノックする音がした。
神林さんがドアを開けると、廊下には、慌てた様子の研究員がいた。
「どうかしましたか?」
「か、神林さん!大変です、貫太さんの身体に、異常が出ました!」
「なんですって!?」
おいおい、冗談だろ──?
◆◆◆
神林さんの研究室を出て、研究本部の治療施設へ来た──のだが。
ベッドに寝かされている貫太さん、相当辛そうだ。
「……おお、五十嵐と、新庄か」
「貫太さん、大丈夫ですか?」
「大丈夫……とは言い辛いな。今までに感じた、どんな傷よりも痛いぜ。……って、お前は──第四能力者か、久しぶりだな」
「お久しぶりです、水面貫太さん」
あれ、貫太さんは第四能力者と会ったことがあるのか。
「貫太さん、あんた第四能力者と会ったことがあるのか?」
新庄も、丸っきり同じことを考えていたようだ。
「第四能力者が能力者だと判明した時に、一度戦ったことがあるのさ。完敗したけどな!」
「そうですか……って、負けたんですか!?」
『熱と冷』って、そこまで強いのか──?
「第四能力者、あんたとも一度戦ってみたいぜ」
「遠慮しておきます。私の能力は、あなたの能力と非常に相性が悪いのですよ」
『大地』と『熱と冷』では、『熱と冷』が勝つ。
『熱と冷』と『惑星』では、『惑星』が勝つ──のだろうか。
ホント、相性って難しい。
「あの、瑠璃さんはどうしていますか?」
「瑠璃は家で寝ているぜ。──その様子だと、あいつに異常が出たことも知っているようだな」
「はい、第四能力者から聞きました。正太郎も家にいるんですか?」
「ああ、そうだぜ」
それなら、水面家に向かってみます──と言おうとしたのだが。
「瑠璃と正太郎のところに行く前に、五十嵐と新庄、お前らに会ってほしい奴がいるんだ」
「よく分かりましたね、俺の考えてること。──それで、俺と新庄に会ってほしい人って、誰なんですか?」
瑠璃さんたちより先に会ってほしい人って、よっぽど重要な人なんだろうな。
「『神の記憶を持つ者』──そいつに、会ってきてほしい」
『重要な人』どころの騒ぎじゃなかった!
◆◆◆
貫太さんは倒れるように眠ってしまったので、治療施設から出て、玄関に向かっているところ。
「まだ少し、ざわついていますね」
「『第二能力者』が倒れたんだから、当然っちゃ当然だけどな」
未だに、十数人の研究員が、廊下を慌ただしく走り回っている。
「第四能力者、あんたは『神の記憶を持つ者』とやらに会ったことはあるのか?」
「ええ、何度かありますよ」
「どんな奴なんだ、そいつは」
俺も気になるので、耳を傾けておく。
「そうですね……この世に存在するどんな存在よりも正義感があり、礼儀正しく、優しい人物、ですね」
「神みたいな奴だな」
「神の生まれ変わりですからね」
なるほど、だから『神の記憶を持つ者』って言ってたのか。
「では、瑠璃さんと正太郎君に会いに行く前に、彼に会いに行く、ということでよろしいですね、第四能力者?」
「ええ、その方が、おそらく近道でしょうからね」
……『彼』?
もしかして、神林さん、会ったことがあるのだろうか。
「神林さんは、その人と会ったことがあるんですか?」
「3回くらいしか会ったことはないけどね。少し会話したくらいで、ちゃんと話したことはないよ」
「あの、その人って、どんな人なんでしょうか……特徴だけじゃなく、もう少し具体的に知りたいんですが」
「うーん……どうせ会うことになるんですから、教えちゃってもいいですよね、第四能力者?」
第四能力者は、首を縦に振った。
「五十嵐君、新庄君、君らがこれから会う人物は──」
一呼吸置いて、神林さんは続ける。
「──第六能力者、だよ」




