24話 『国土回復』
超能力を持つ子供──水面正太郎と数分間話をしていると、校門の方から女性が歩いてきた。
『回復』の能力を持つ、女性。
「お久しぶりです、瑠璃さん」
「久しぶりね、五十嵐君。正太郎、やっぱりここにいたのね」
「う、うん」
正太郎、すごく気まずそうだ。
「もしかして、もう戦っちゃったの?」
「うん、負けたけどね」
「そう……怪我とかは──ないわよね、あなたの能力のおかげで」
瑠璃さん、正太郎の能力のこと、知ってるのか。
「で、正太郎?なんで五十嵐さんと戦おうなんて思ったの?」
「え、ち、違うよ!なんとなく高校の近くを通りかかったら、偶然いた五十嵐さんに突然攻撃されたんだよ!」
「は!?」
よくもそんな嘘を、悪びれずに言えるものだ。
──と、感心している場合ではない。
「瑠璃さん、違いますからね。正太郎が戦いを挑んできたんですよ」
「分かってるわ。五十嵐君が好き好んで戦ったりしないことくらい、ね」
「違うってば!五十嵐さんが突然攻撃してきたんだってばー!」
「……もう」
瑠璃さんはしゃがんで、正太郎の目を真っ直ぐに見つめ、問いかける。
「本当に、五十嵐君が突然攻撃してきたの?」
「え、えっと、えっと……」
「本当に?」
「……お、おれが攻撃……した」
おお、やっと認めた。
「まったく……家に帰ったら説教ね」
「そ、そんな……」
……思ったのだが。
正太郎って、父親似だよな。
「でも、よく言えたわね。えらいえらい」
瑠璃さんは正太郎を抱きしめて、右手で優しく頭を撫でた。
「ちょ、離れてってば……」
「あら、お母さんのこと嫌い?」
「違う、けど……」
正太郎、瑠璃さん──というか母親の前だとかなり性格が変わるな。
本当に、父親そっくりだ。
◆◆◆
翌日。
4時限目の英語の授業が終わり、昼休み。
「なあ五十嵐、お前帰国子女だったっけ」
教室で弁当を食べていると、橋本がそんなことを訊いてきた。
ちなみに、何度か席替えをしているので、俺は一番前の席で、橋本は俺の後ろの席である。
「日本生まれの日本育ちだけど。突然どうした?」
「いや、最近のお前、英語の成績かなりいいだろ?さっきの授業のミニテストも全問正解だったみたいだし」
「……気付いてしまったか」
「へ?」
先生には言ってあるが、同級生にはあまり言わないほうがいいだろうと思っていたので、言っていないのだが。
──まあ、こいつなら言いふらしたりはしないだろうし、いいか。
「強化合宿のこと、お前には話しただろ?」
「ああ、俺がはぶられたやつか」
「まだ根に持ってたのか……」
もう1ヶ月以上経っているのに。
「冗談だよ、冗談。で、強化合宿がどうしたんだ?」
「ああ、そこで俺の能力が進化して、日本語以外も聞き取れたり、話したりできるようになったんだよ」
「し、進化するものなのか……って、待てよ?」
何かを思い出したかのように、橋本が訊いてくる。
「俺、お前の能力がどういうものなのか、知らないんだけど」
「……そういえば、言ってなかったな」
能力を手にしてすぐの時に、橋本に訊かれたのを思い出した。
あの時は、機密情報だと思って言っていなかったのだが。
他の能力者はそこまで隠そうとはしていなかったし、話していいだろう。
「超能力検査を受けた時は、『人と人とを繋ぐ能力』って診断された」
「……どんな能力なのか、さっぱり分からないんだけど」
「安心しろ、俺も最初は分からなかった。簡単に言えば、『他人の思考が読み取れる』──読心術みたいなものだよ」
感情の揺れや簡単な言葉なら読み取れるから、便利なんだよな。
ベイリーさんの能力には、到底及ばないけど。
「そのあとに、進化して『人と物とを繋ぐ能力』ってのも使えるようになったんだ。パソコンの中に入れたのは、この能力のおかげだよ」
「……よく分からないけど、なんか凄いな!」
「自分でも凄いと思うよ、この能力」
戦い向きの能力じゃないけど、と付け加えておく。
「普段使いできる能力ってのが、一番便利だと思うぜ?」
「確かにね。俺の能力についての説明は、こんなところかな」
「面白かったぜ!今度、新庄の能力とかについても教えてくれよ!」
無邪気な笑顔で、すごく楽しそうに訊いてくる。
「話せる範囲のことなら、話すよ」
「頼んだぜ!じゃ、俺はジュース買いに行ってくる!」
そう言って、橋本は教室から出て行った。
俺の分も頼めばよかったな、と思ったが、時すでに遅し。
「まあ、いいか……」
「五十嵐、いるかー?」
「ん?」
黒板側のドアから、担任の先生が入ってくる。
「先生、どうしたんですか?」
「お前にお客さんだ。超能力研究本部の神林さんと、水面さん──という人が会議室にいらっしゃっているから、行ってくれるか?」
「はい、いいですけど……水面さんって、水面瑠璃さんですか?」
「名前は分からないが、女性だったな」
じゃあ、瑠璃さんだ。
「分かりました、弁当箱を片付けたら行きます」
「待っていてもらおうか?」
「あ、すぐに行くので大丈夫です」
神林さんと瑠璃さんが、俺に何の用だろうか。
──まあ、昨日のことだよな。
◆◆◆
「失礼します」
「お、来たね。時間は大丈夫だったかい?」
「特に用事はないですから、大丈夫ですよ。──正太郎のことですか?」
それ以外にないだろうけど。
「ああ、そうだよ。っと、その前に、瑠璃さんから君に話しておきたいことがあるらしい」
「瑠璃さんが?」
瑠璃さんは座っていた椅子から立ち上がり、俺の方を向いて、話す。
「昨日のことを、ちゃんと謝っておこうと思ってね」
「ああ、そういうことでしたか……気にしてないですから、瑠璃さんが謝る必要なんてないですよ」
「五十嵐君なら、そう言ってくれると思ったわ。──でも、謝らせて。これは、親としてのけじめだから」
「……分かりました」
瑠璃さん、本当に真面目だな。
もちろん、いい意味で、だ。
「昨日はごめんなさい。正太郎が迷惑をかけたわね。きっちり叱っておいたから、あの子のこと、許してもらえるかしら?」
「もちろんですよ。さっきも言いましたけど、気にしてないですから」
「でも、カッターで切りつけようとしたらしいし……」
「顔を上げてください、瑠璃さん」
顔を上げた瑠璃さんは、辛そうだった。
そんな瑠璃さんに、精一杯の笑顔で話す。
「正太郎は、まだ8歳の子供です。ですが、一人の能力者なんです」
「あ……」
「昨日は、一人の能力者と一人の能力者が、戦った。……それだけのことなんですよ」
「……それだけ、ね」
辛そうな顔から、いつもの笑顔に戻った。
「五十嵐君、ありがとう」
「いえいえ。正太郎はあれから、どうしましたか?」
気になっていたので、訊いておく。
「あの後、研究本部に行って、ちゃんと検査してもらったわ。異常はなかった……けど」
「けど?」
瑠璃さん、言い辛そうにしている。
「言いたくなければ、言わなくても……」
「ううん、言いたくないわけじゃないの。──あの子の能力、自己再生の能力だけじゃなかったの」
「どういうことですか?」
正太郎と戦ったときには、自己再生の能力しか見つからなかったと思ったけど。
「ここからは、研究員の僕が話そう。僕が検査したわけじゃないけど、検査結果は知っているからね。少し長くなるから、座ってくれるかい?」
「あ、はい」
近くの椅子に座り、神林さんの方を向く。
「『国土回復』──それが正太郎君の能力なんだ」
『国土回復』──漢字が分かったのは俺の能力のおかげだから、それは置いといて。
字面を見ても、自己再生以外の能力は思い浮かばないのだが。
「その能力の片方は、君も知っている通り『自己再生』だ。身体的に傷ついても、すぐに治る能力だね」
「片方──もう1つあるんですか?」
「ああ。もう一つは──『精神的に傷ついても、即座に治る』という能力だ」
と、とんでもなく強そうな能力だな。
……あれ?
「昨日見た限りだと、正太郎、俺に負けて落ち込んでましたよね。精神的に傷ついているのに、治っていなかったような……」
「そこが問題でね。正太郎君には、この能力は強すぎるようなんだ」
「強すぎる?」
どういうことなのか、さっぱり分からない。
「正太郎君の能力は、『自然の法則に反しすぎている』のさ」
「……そうなんですか?」
「ああ。超能力というのはそもそも、自然の法則に反するものだ。君や瑠璃さんの能力だってそうだろう。だけど、正太郎君の場合、それが『行き過ぎている』。正太郎君は、『死』という概念から最も遠い存在となってしまったのさ」
「ああ、そういうことですか」
生物は、いずれ死ぬ。
寿命、病気、事故、事件、自殺──原因は色々あるだろうけど、『絶対に死ぬ』。
でも、正太郎は違う。
正太郎の能力は、『不死身』ではない。だから、寿命が来たら死ぬのだろう。
だけど、病気や事故、事件では死なない。
多分、自殺しようとしても、失敗するのだろう。
「寿命では死ぬんですよね?」
「ああ。でも、それ以外の原因では、絶対に死なないだろう。正太郎君の能力は、正太郎君の意思と関係なく、常に使用されているからね」
「難儀な能力ですね……」
「本当に、ね」
メリットが大きい分、やはりデメリットも大きいようだ。
「そういう理由があって、正太郎君はまだ能力を上手く使えていないんだ。だから、落ち込んでもすぐに立ち直れない。──まあ、上手く使えている面もあるんだけどね」
「上手く使えている、面?」
何かあっただろうか。
「正太郎君と話していて、不思議に思わなかったかい?話し方や態度が、8歳とは思えなかったんじゃないのかい?」
「あ、そうです!正太郎と話していて、8歳とはとても思えなかったです。……それが、能力と関係あるんですか?」
「ああ、かなり関係しているんだ」
神林さんは、自分の頭を指差した。
「……頭?」
「頭と言うか、『知力』だね。正太郎君の知力は、すでに中高生のレベルに達しているんだ」
「はい!?」
まだ8歳の子供が、中高生と同等の知力を持っている!?
「え、どうしてそんなことになってるんですか?」
「簡単な話だよ。正太郎君が、『知識が足りていない状態』を『精神的に傷ついた状態』と認識しているからだ。だから正太郎君は、色々なことを学んで、知力を上げたのさ」
「ど、どんだけ意識高いんですか、あいつ……」
俺なんかよりも、頭いいんじゃないのか?
「あそこまで大人びているのは、そう言う理由があったからなんだ。分かってくれたかい?」
「はい、よく分かりました」
二度とあいつと戦いたくないと思うくらいに。
「さて、そろそろ昼休みが終わるようだし、僕たちはこれで失礼するよ」
「五十嵐君、今日はありがとう。また会いましょう」
「はい!」
会議室を出る2人の姿が見えなくなってから、俺は椅子に座りこむ。
「……『国土回復』、か」
本当に、大変な能力だな。
今度、新庄や橋本と遊ぶとき、誘ってみるか。
さて、俺も教室へ戻るとしよう。




