22話 第十二能力者
色々とあった夏休みが終わり、授業が始まり、少し経った9月半ば。
古典の授業を受け、難しさからの退屈さに眠りそうになっていたが、突如開いたドアの音で眠気は吹っ飛んだ。
黒板側のドアから教室に駆け込んできたのは、クラスの担任。
「い、五十嵐はいるか!?」
「……どうしたんですか?」
クラスメートの視線を無視しつつ、ドアの近くで息を切らしている担任のところへ行く。
「の、能力者、が……」
「能力者って……まさか、襲撃でもしてきたんですか?」
当てるつもりで言ったわけではなかったのだが。
「そうだ、能力者が、攻めてきた」
「あ、そうですか……」
当たってしまった。
「多分、というか間違いなく、狙いは俺だと思いますから、先生が恐れる必要はないですよ」
「そ、そうだな……」
はぁ……授業中だけど、仕方ないか。
「その能力者は、どこにいるんですか?」
「校庭で、サッカーボールを使って、遊んでいる」
「……へ?」
遊んでいる?
「よく分かりませんが……行ってみます。案内してもらえますか?」
「あ、ああ、分かった」
担任に続いて、俺も教室を出る。
◆◆◆
「え、あれか?」
確かに、サッカーボールを、ゴールに向かって蹴って遊んでいる人は見つけた。
──人と言うより、『子供』と言った方がニュアンス的には正しいと思うが。
物静かそうな、男の子だ。
とりあえず、近くに行ってみるか。
「ね、ここは高校だから、今は君、来ちゃいけないと思うんだけど……」
「…………」
無視された。
知らない人とは話さないように、という教育を受けているのだろうか。
それはそれで正しいが、限度があると思う。
「見たところ、小学生っぽいけど……今日は学校じゃないの?」
「……あんなところ、つまんない」
つまらない……勉強が、だろうか?
「何がつまらないの?」
「教師の態度、児童の勉強への意思、モンスターペアレント」
「……そ、そうかい」
な、なんか、小学生とは思えない話し方だ。
『モンスターペアレント』なんて言葉も知っているのか、今の小学生は進んでいるんだなあ。
「で、つまんなくなったから、高校に来たの?」
「それもある」
「じゃあ、一番の理由は?」
「……あなた」
俺を指して、『あなた』と言ってきた。
どう考えても、俺のことを言っているのだろう。
「俺はそこまで有名じゃないと思うけど、俺に何か……」
「倒そうと思って!!」
「うわっ!?」
目の前の小学生は、懐から出したカッターナイフを、俺の首元に突き刺そうとしてきた。
間一髪で、なんとか避けられたからよかったものの、もう少しで殺されるところだった。
「何をするんだ、危ないだろ!」
「え、五十嵐さん、おれと同じ、能力者なんでしょ?これくらい避けられると思ったんだけど……」
「──!」
今の言葉が本当だとしたら、この子はやはり──能力者か。
「子供と戦うのは、さすがに気が引けるから……引き分けってことにしない?」
「いやだ、おれは絶対にあなたを倒す」
「そう言われても……怪我をしたくはないでしょ?」
この言葉で、諦めてくれると思うけど……。
「おれには関係ないね、さ、戦いを始めよう!」
「関係ないって、どういう……うおっと!」
目を離した一瞬で、子供は俺の足元に来て、右足のすねを切りつけようとしていた。
これも間一髪、なんとか避けられたが、本当に危なかった。
──なぜ、一瞬で俺の足元まで来られた?
俺は、数秒間目を離したわけじゃない。
ほんの『一瞬』だ。
「遅いよ」
「危なっ!」
また足元で、今度は左足のすねを切りつけようとしてきた。
なぜだ、なぜここまで早く動ける?
──まあ、そういう能力だから、なんだろうけど。
◆◆◆
「え……正太郎が?」
「はい。予想は出来ていたのではないですか?」
超能力研究本部、神林颯の研究室。
神林颯と水面瑠璃が、テーブルを挟んでソファーに座っていた。
「予想はしていたけど、あの子も能力者に……」
「両親が能力者ですから、なるべくしてなったと言えるでしょう。……で、ここからが本題です」
「え、今のが『伝えなければいけないこと』じゃないの?」
「今のは前置きですよ」
そう言って神林颯は、ホッチキスで綴じられた書類をテーブルの上に置いた。
タイトルには、こう書かれていた。
「『神と言う存在』──神?」
水面瑠璃の頭には、疑問しか浮かばなかった。
『神』という単語こそ知っているが、その存在について書かれた書類が目の前に開かれている状況を、上手く整理できなかったのだ。
「ええ、神、です。意味は分かりますか?」
「国によって意味は変わると思うわよ?」
「では、日本でよく使われている意味でお願いします」
水面瑠璃は、書類を見ながら少し考え、答える。
「人々の上に立つ存在、ってとこかしら」
「その解釈で、大丈夫でしょう。では、本題に入ります」
神林颯は、書類の1枚目をめくった。
「この書類には『神』が誕生した経緯と、その『神』の現在についての調査結果が書かれています」
「え、ちょっと待って?」
水面瑠璃は不思議に思い、神林颯に訊く。
「まさか、神は実在したって言うつもり?」
「ええ、そうですよ。能力者が存在するんですから、神がいたっておかしくはないでしょう?」
「そ、それを言われると……」
神林颯は、もう1枚紙をめくった。
「ここから、『神』の生まれた経緯について書いてあります」
◆
この世界は元々、ある1つの存在によって治められていた。
人々はその存在を知らなかった。
力と知能を身につけた人々は、『神』という存在を作り、信仰し始めた。
日照りの夏には雨を、寒波の冬には太陽を、『神』に求めた。
信仰によって生まれた『神』という存在は、冒頭に記した『ある1つの存在』に代わって、この世界を治めはじめた。
『ある1つの存在』は、それを承認していた。
時が経ち、『神』を信仰する人が少なくなり、次第に『神』は消えていった。
『神』が完全に消えた時、その力は、人間に渡った。
そして、『超能力者』は生まれた。
◆
水面瑠璃は、開いたページを読み終わり、ソファーの背もたれに寄り掛かった。
「信じ難い話ね」
「かなり信憑性の高い調査結果なので、信じてもらえると嬉しいのですが」
「『信憑性の高い』って……どういうこと?」
水面瑠璃は、疑問に思った。
こんな現実味に欠けた調査結果に、信憑性なんてこれっぽっちもないと思っていたからだ。
「ある方に協力してもらったんですよ」
「歴史学者とか、考古学者とかに協力してもらったのかしら?」
「正解です。歴史学者で、考古学者でもある、南アフリカ出身の方です」
「南アフリカ?」
神林颯は、書類の一番後ろのページを水面瑠璃に見せた。
そこには、調査に関わった人物の名前が載っていた。
「……なるほど、そういうことね」
「はい。『第四能力者』の彼女自ら、参加すると言ってくださったんです。『能力者のルーツが知りたい』と言っていましたね」
「それで、結果『神』に結びついた、と」
「そういうことです」
神林颯は、『神』に関する調査結果の書かれているページを開き、水面瑠璃に見せる。
「まだページがあるのね、ここまでで調査結果は終わりのような気がするけど」
「ええ、このページで『神』に関する調査結果は終わっています。この後のページには、確実な情報ではなく、『根拠の少ない』情報が書かれています。なので、半信半疑を心掛けて読んでくださると嬉しいです」
「分かったわ。で、一体何が書かれているのかしら?」
水面瑠璃が、1枚紙をめくる。
数秒後、──水面瑠璃の表情が、暗転する。
「これは……信じたくないわね」
「確実なことではないので、まだ信じてもらわなくても大丈夫です。ですが、多少は根拠のある情報である、ということもお忘れなく」
「……これは、貫太には?」
「まだ伝えていません」
神林颯は、水面瑠璃の目を見て、話す。
「貫太さんには、後日僕から伝えます。今日は仕事があるということでしたから、仕方ないとは思いますが……今後は仕事よりもこちらの用事を優先してもらえると助かります」
「ええ、こんなことがあったんだから……そうするわ」
「ご協力、感謝します」
神林颯は立ち上がり、ドアを開けた。
水面瑠璃も立って、研究室から廊下に出た。
「それじゃ、私は橋前高校に行ってみるわ」
「正太郎君は五十嵐君のところへ向かったんですか?」
「多分、ね。あの子に五十嵐君について話したことがあったから、橋前高校に行ってると思うわ。それじゃ、またね」
「はい、お気をつけて」
水面瑠璃が行ったことを確認して、神林颯は研究室に入り、ドアを閉めた。
「瑠璃さん……どうか、お気をつけて」




