21話 相性
時間は少し巻き戻る。
新庄新は、リア・パーカーと戦っていた。
「ちっ……厄介だな、あんたの能力」
「ワタシは強いよー!」
リア・パーカーの能力の前に、苦戦を強いられていた。
「『惑星』……って、おわっ!」
「無駄だよ、新庄!」
新庄新の身体が、宙に浮かび上がり、吹き飛ばされる。
「遅い、ホントに遅いね!」
「あんたが早すぎるんだと思うぜ……」
「アハハ!そうかも……ね!」
「ぐっ……」
近づこうとするが、そのたびに吹き飛ばされる。
「諦めて、ワタシに負けなさい!」
「嫌だね、俺は負けねえよ。『惑星』!」
「無駄だと何度言ったら……ん、暗い?」
リア・パーカーの真上に、分身の新庄新が現れる。
──しかし。
「『空』!」
分身は、吹き飛ばされて消えてしまった。
「アレ、もう終わりかな? ま、ワタシが新庄に負けるはずがないもんネ!」
「……はっ」
「オ、諦めたみたいね」
「──笑わせるな」
「!?」
リア・パーカーの脳裏に、『死』の一文字が浮かぶ。
新庄新の雰囲気が変わったからだ。
「ひ、ひっ……!」
「どうした、リア・パーカー。何を怯えている」
「新庄!あなた、一体何なの!」
「何、とは失礼な。『能力者』に決まっているだろう」
雰囲気が変わったということは、本気を出したということ。
『新庄新』が本気を出したということは、──殺す気になったということ。
「『惑星』」
「……!?」
リア・パーカーの周囲、半径5メートルほどが暗くなる。
──土の塊を出現させたのだ。
土の塊は、リア・パーカーに向かって、ゆっくりと落ちてくる。
「こ、こんなの、ワタシの能力で!」
「無駄だ、リア・パーカー。俺の本気を舐めるな」
「『空』!……!?」
強風で軌道をずらそうとしたが、土の塊はびくともしない。
「土をただ落としているんじゃない。俺が操っているんだ、風なんかで軌道をずらせるわけがねえだろ」
「そ、それなら、避けてしまえばいいだけの話……って、え!?」
リア・パーカーは移動したが、土の塊も移動して、リア・パーカーの上に当たり前のように存在している。
「ラジコンにハマる奴の気持ちが分かった気がするぜ」
「そ、そんな……」
土の塊は、徐々にリア・パーカーに近づいてくる。
数十秒後には、リア・パーカーを押しつぶしているだろう。
──しかし。
「飽きた」
「は?」
土の塊は、消えた。
「な、なんで消したんだ、新庄」
「本気だと疲れるから」
「そ、それだけの理由で……?」
「ああ、それだけ」
新庄新は、駐車場へと歩き始める。
「……けないで」
「何か言ったか、リアさん?」
「ふざけないでって言ったのよ!──『空』!」
新庄新から、5メートルほど離れた位置に、小さな竜巻が出現する。
「ワタシを舐めるな!」
「舐めてなんかいねえよ。あんたは俺の何倍も強い、それは十分に分かってるぜ。──だが、な?」
「……何よ」
新庄新は不敵な笑みを浮かべ、リア・パーカーに教える。
「この勝負には『純粋な強さ』や『踏んだ場数の多さ』は関係ない」
「な、なんでよ……」
「さあな。結果的にそうなっただけだし、理由なんて俺には分からねえよ。で、この勝負に関係すること、それは──」
小さな竜巻を出現させ、すでに発生していた竜巻とぶつけて相殺しつつ、新庄新は呟く。
「『相性』──それだけだ」
直径10メートルの土の塊、板のようなソレをリア・パーカーの上に出現させ、新庄新は──押しつぶした。
◆◆◆
「で、コテンパンにしてしまった、と」
「……そ、そうだ」
まったく、新庄の奴……。
「別に、悪いことじゃないだろ?これは戦いなんだし……」
「悪いことじゃないけどさ、あれを見てみろよ」
俺の視線に気づき、新庄も『それ』を見る。
『り、リア!しっかりして、私がついてるから!』
『もうダメみたい……ソーリー、先に天国に行ってるわ』
『い、いやよ!お願い、生きて、生きてよ!』
『…………ガクッ、チーン……』
『いやぁぁぁあああ!リアぁぁぁあああ!』
新庄と俺は、『それ』から目を離し、グラウンドから少し離れる。
1分ほど歩いたところで、俺は叫ぶ。
「どんなコントだよ!」
「なんで急にツッコんだの!?」
◆◆◆
リアさんはベイリーさんに連れられて、近くの超能力研究所に向かった。
病院よりも、確実に治してもらえるから、だそうだ。
「しかし新庄、よく勝てたな。相手は第三能力者なのに」
「言ったろ?相性の問題だ、って」
「それは聞いたけどさ、それでも不思議なんだよ」
一番疑問に思ったのは、『なぜリアさんは、土の塊を吹き飛ばせなかったのか』ということ。
「なんだ、そんなことか。かなり簡単な話だぜ?」
そう言って、新庄は俺の目の前に、土の塊を出現させた。
かなり小さめの塊だ。
「触っても害はねえから、触って動かしてみろよ」
「ああ、やってみる……って、あれ?」
宙に浮いているし、小さい塊だから簡単に動かせるだろうと思ったけど、全く動かせない。
空中に、完全に固定されているようだ。
「なんで動かせないか、分かるか?」
「俺が能力を使っていないから……ってところか?」
「不正解。そもそも、お前の能力じゃ動かせねえと思うぜ」
確かに、俺の能力は『俺自身の力』ってのは使わないからな。
「俺の『土の塊を固定したい』って気持ちと、お前の『土の塊を動かしたい』って気持ち、そのどっちが強いか、ってことなんだよ」
「ああ、そういうことだったのか」
そこまで本気で土の塊を動かそうとはしていなかったから、動かせなかっただけなのか。
「俺がリアさんに勝てたのも、リアさんと俺の、戦いへの想いの違いが関係してんのさ」
「……つまり?」
「俺の方が、勝ちたがっていた、ってことだよ」
なるほど、確かにリアさん、本気じゃなくて遊びで俺らを倒そうとしていた感じだもんな。
「さ、いつまでも神林さんたちを待たせんのも気が引けるし、早く帰ろうぜ」
「ああ、そうだな」
本当に、新庄は能力に関して、色々なことを知っているな。
◆◆◆
あの後、俺と新庄は、神林さんたちと空港に行き、飛行機で帰った。
ルークさんは空港で別れたので、行きと一緒のメンバーで飛行機に乗った。
帰りは、特に何もなかった……と思う。寝てしまっていたので、何かあっても分からないが。
着いた空港から、車で研究本部に向かい、みんなと少しだけ話した。
貫太さんは『俺、新庄と戦ってないじゃねえか!』と、思い出したかのように(実際忘れていたのだろうけど)言い出して、新庄に決闘を挑んでいた。
疲れていたのか、新庄は『気が向いたらな』なんて言って、上手い具合に貫太さんの『戦いたいアピール』をかわしていた。
いつでも戦いたいって訳ではないみたいだ。
神林さんに送ってもらって、家に着いたのは真夜中だった。
着替えや荷物の片付けもしないまま、俺は睡魔に負け、布団に潜り込み、夢の世界へと旅立った。
◆◆◆
時間は少し進み、8月の終わり。
午後3時、俺の家にて。
「俺だけはぶられた」
やはり、と言うべきか。
橋本の駄々が始まった。
「いや、だって、お前能力者じゃないじゃん」
「ついて行ってもいいじゃん……新庄、お前はどう思う?」
「え、えっと、だな……」
俺と橋本のほかに、今日は新庄も来ている。
合宿の時に、約束していたから、遊びに誘ったのだ。
「能力者と研究員以外の人が混ざっていると、マスコミに見つかった時になんて言われるか、分からないし……それに、他の能力者から狙われて、橋本に危害が及ぶかもしれないから、来なくて正解だったと思うぜ」
「ぐっ……正論だ、新庄も能力者側なのか!?」
「俺は能力者だ」
「そうだったぁぁぁあああ!」
……ホント、橋本は見ていて飽きないな。
「ちくしょう!五十嵐の家の前で、大声で泣いてやる!」
「何その派手な嫌がらせ!?」
その嫌がらせは、橋本も被害を受けると思うのだが。
「泣いてやるからな!……あれ、なんでこんな話になったんだっけ」
「なんでだっけ?」
「……くすっ」
新庄に笑われた。
コントをやっていたつもりはないのだが。
「仲いいんだな、お前ら」
「ちっ、違うから!い、五十嵐と仲がいいわけないでしょ!……で、でも、少しだけなら……」
「コンビニでも行くか、新庄」
「ツンデレの真似をしただけなのに、避けたいと思うまで酷かったのか!?」
橋本にツンデレは、これ以上ないってほど似合わないと思う。
「酷かったかは分からないから、今度クラスの前に出てそれをやってみろよ」
「遠まわしに酷かったって言ってないか、それ……」
「お、俺はよかった……とは思えないかな、うん」
「新庄まで!?」
──とまあ、こんなやりとりを、夕方まで繰り返していた。
新庄、すごく楽しそうに話していた。
橋本のような存在が、能力者には必要なのかもしれない。
また、3人で遊ぼう。




