20話 2人の能力者
駐車場に戻る途中。
「──そうですか、分かりました」
神林さんが、誰かと電話で話していた。
なんか、深刻そうな顔をしている。
電話が終わったらしいので、訊いてみる。
「神林さん、誰と話していたんですか?」
「研究本部にいる研究員だよ。どうやら、新しく能力者が見つかったみたいでね、その件について少し話していたのさ」
「新しい能力者、ですか……」
ってことは、俺は先輩になるのか。
なんか、ドキドキするな。
「でも、それならなんで深刻そうな顔をしていたんですか?」
「実はその能力者、以前から他の能力者と知り合いだったみたいでね。知り合いの能力者と協力して、3時間前に研究本部を抜け出しちゃったみたいなんだ」
「えっと……抜け出すだけなら、問題はないように思うんですが」
また後日、検査すればいいだけだろう。
「問題大有りなのさ。その人たち、『能力者の頂上を取る』なんて風に言っていたらしいんだ。もしかしたら、こっちに来ているかもしれないんだよ」
「そんなまさか、たった3時間でここまで来れるはず……が……」
駐車場に着いた俺の目に飛び込んできたのは。
車の前に立ちはだかる、2人の女性の姿だった。
◆◆◆
「ハーイ!能力者の皆さん、ハロー!」
「へ?……は、ハロー」
金髪ストレートの髪型の女性は、やけにテンションが高い。
「初めまして、皆さん。十一番目に能力者になりました、ベイリー・パウエルと申します」
もう1人の、茶髪でパーマの女性は、かなり日本語が上手い。
「あ、ワタシの名前はリア・パーカーです!ヨロシクね!」
「ど、ども……」
リアさんの方は声も大きいので、押され気味になる。
「十一番目──ということは、あなたが『駅』の能力者なんですね?」
「ええ、そうですよ」
神林さんの問いに、ベイリーさんが答える。
ベイリーさんの能力は『駅』と言うのか。
電車を動かせたりするのかな?
「いいえ、電車は動かせませんよ」
「ああ、そうなんですか……え?」
あれ? 俺、今喋ったっけ?
もしかして、読心術の持ち主なのか?
「ええ、そうですよ。『駅』なんてややこしい名前を付けられてしまいましたが、ただの読心術なんですよ、私の能力は」
「へえ、そうなんですか」
俺も心を読むことはできるから、仲良くなれるかもしれないな。
「へえ、あなたも読心術が使えるんですか」
「真似事ですけどね。よく使う能力は、別にありますから」
「なるほど、『人と物とを繋ぐ能力』ですか」
俺の心の中、ダダ漏れである。
「面白い能力ですね。──早めに潰しておきたいですね!」
「え!?」
ベイリーさんが、俺に向かって殴りかかってくる。
これくらいなら、簡単に避けられ──
「『駅』」
「──っ!?」
景色が、一瞬だけ真っ白になった。
次の瞬間。
「ぐはっ……」
鳩尾を殴られていた。
マズイ、この人本気だ。
「五十嵐!? ──ベイリーさん、何をやってんだ、あんた!」
「新庄……お前は、リアさんの方に集中しろ」
「は? 何を言って……って、おわっ!」
新庄の身体が、浮かび上がる。
風たちの仕業ではない。
──リアさんの能力だ。
「アハハ!吹き飛ばすのって楽しいネ!」
「あんたら……俺らを倒すつもりか?」
「イエス!あなた達を倒して、能力者の頂上を取ります!」
風たちの言っていた、『空気を操る能力者』ってのは、リアさんのことらしい。
「五十嵐!新庄! ──リアさんとベイリーさん、覚悟はいいわね?」
「やめろ、竹部さん。ここは俺と五十嵐に任せてもらえないか?」
「何言ってるの!? あんたを吹き飛ばした、リアって人は第三能力者なのよ!?勝てるわけないわ、やめなさ──」
「勝てるわけない、と言いましたか?」
立ち上がって、ベイリーさんを真っ直ぐに見て、構える。
「俺が何のために強化合宿に参加したか、竹部さんは知っているでしょう?」
「それは……そうだけど」
「安心してください、リアさんは新庄に任せるので、怪我はしないと思いますよ」
「五十嵐、さらっと酷いことを言ったな、おい」
新庄のツッコミは無視して、話を続ける。
「竹部さんたちは離れていてください。……そういうことでいいな、新庄?」
「どういうことかイマイチ分からねえが……ま、いいぜ!」
新庄も、リアさんに向かって構える。
竹部さんたちは、少し離れた場所に行った。
「後輩として、しっかり下剋上をするぜ、リアさんよぉ!」
「先輩として、色々と教えてあげますよ、ベイリーさん!」
俺と新庄が、一斉に反対方向に走り出す。
「マテ、新庄!」
「待ちなさい、五十嵐さん!」
リアさんが新庄を、ベイリーさんが俺を追ってくる。
◆◆◆
グラウンドの隅まで、ベイリーさんを連れてくることができた。
さて、どうやって戦おうか。
「『どうやって戦おうか』なんて考えても無駄だと思いますよ」
「無駄? なぜですか?」
ベイリーさんは、腕を組んで余裕そうに語る。
「あなたはすでに分かっているはずです。私の能力が『読心術』の他にもあるということを」
「──さっきの、景色が真っ白になったやつですか」
景色と言うより、視界と言った方が正しいだろう。
「そうです。こんな風に!」
「──!」
また、景色が真っ白になった。
マズイ、何も見えない。
「おや、避けないのですか?」
「え? がはっ……」
腹に衝撃。殴られたらしい。
さっきと違って、今度はずっと見えないままだから、何が起きているのか分からない。
こんな力を持っているのか……思っていたより、強いな。
「視界をジャックする技は、私の能力のおまけの力なんですけどね」
「こんなに強いのに、おまけの力なんですか。もう何も言えないですよ……ぐはっ」
また、腹を殴られたみたいだ。
まだ視界は真っ白のまま。
どうする、どうすれば見える? ──そうだ!
「『円滑』!風たちお願いします!」
『分かりました。相手は後ろにいます、前に走ってください』
言われた通り、前に5歩ほど走る。
「な、なぜ避けられるのですか!」
風たちの言った通り、後ろから声がした。
──お、視界が元に戻った。
振り向くと、呆気にとられているベイリーさんの顔があった。
「心を読めば、分かるんじゃないですかね?」
「言われなくても、読んでますよ!なのに、読めない……どんな細工をしたのですか、五十嵐さん!」
「細工なんて、1つしかしていないですよ?」
そう、たった1つの細工で、ベイリーさんは俺の心を読めなくなった。
「俺も、あなたの心を読もうとしているんですよ」
相手の心を読もうとしているのを、読もうとしているのを、読もうとしている……という無限ループを作り出したのだ。
能力のことには詳しくないから、勘でやったことだけど……成功してよかった。
「そ、そんな簡単なことで、私の能力を使えなくしたって言うんですか!?」
「ええ、そうですよ。……さあ、どうしますか? 降参するか、それとも──俺に倒されるか」
「わ、私の能力は、読心術だけじゃない!」
また、視界が真っ白になる。
「これで、私はどこにいるか分からないでしょう!」
「また後ろに回りましたね、ベイリーさん?」
「っ!? な、なんで……」
「先輩として、特別に教えてあげましょうかね」
振り向いて、ベイリーさんがいるであろうところに向かって歩き出す。
「どんな状況か、風たちから聞いているだけですよ」
「か、風……『人と物とを繋ぐ能力』を使ったんですか!」
「正解です。その能力で、こんなこともできるんですよ」
目の前に、俺の身長と同じサイズの竜巻を作ってもらう。
見えないけど、風が顔に当たっているので、サイズはなんとなく分かる。
「り、リアの能力まで使えるの!?」
「真似事ですけどね。あっちは『空気を操る能力』なので、若干違うんですよね」
「──はあ」
あれ、視界が元に戻った。
「私の負け、ですね」
「あれ、案外あっさりと負けを認めるんですね」
「そりゃあ、私の2つの能力の、どちらを使っても敵わないんですからね……認めますよ」
「そ、そうですか」
何だろう、拍子抜けというか、なんというか。
「あ、1つ教えてもらえますかね」
「なんでしょうか? 負けなら認めましたが……」
「そうじゃなくて、ベイリーさんの能力のことです。読心術と、もう一つは何なんですか?」
「……なんだ、そんなことでしたか」
そんなこと、って言われた。
俺的には、とても興味があるのだが。
「もう一つの能力は、『自分のイメージを相手に伝える能力』です。読心術とあわせて『駅』なんです」
「あ、視界を操る能力じゃなかったんだ……」
真っ白な景色をイメージして、それを相手に伝えていただけなのか。
「そういえば、たったの3時間で、どうやって研究本部からここまで来たんですか?電車と飛行機を使ってもそれくらいかかると思うんですけど……」
「リアの能力で、一緒に飛んできました」
そんなこともできるのか、『空気を操る能力』。
「新庄さんは、リアには勝てませんよ」
「なんでそう思うんですか?」
「新庄さんと違って、リアは初期に発見された能力者です。当然、リアの方が強いに決まっています」
胸を張って、自慢げにベイリーさんは語る。
「当然、ですか」
「なんですか、にやけたりして」
「いや、分かっていないな、と思いましてね」
「分かっていない……? リアの強さなら、十分に分かっていますが」
そこじゃないんだな。
「新庄は、強いですよ。俺の何倍も、ね」
強化合宿の手合わせとは訳が違う。
これは、本気の戦いだ。
あいつは、絶対に勝つ。




