19話 再戦
10分間の休憩中、自販機の前にて。
「あの、すみません」
「はい?って、あの時の……」
食堂で会った高校生が、話しかけてきた。
「能力者、なんですよね……?」
「ええ、そうですよ。第十能力者です」
自分のことを『第十能力者』なんて風に紹介したことはないので、違和感バリバリである。
「第十──ってことは、一番最近に発見された方ですよね」
「そうですね、新人ですよ」
まだ4か月くらいしか能力者をやっていないから、新人ってことでいいだろう。
「あの、これから戦う方は、強いんでしょうか?」
「かなり強いですよ。ま、見ていれば分かります。そろそろ始まりますので、俺はこれで」
「あ、手合わせ、頑張ってください!」
「ありがとうございます、頑張ります」
グラウンドへ向かう。
◆◆◆
グラウンドの中心に、俺と新庄が向かい合って立つ。
「精一杯遊ぼうぜ、五十嵐!」
「遊びじゃなくて手合わせだって……ま、いいか。分かったよ、遊ぶか!」
神林さんの『始め』という合図で、俺と新庄は同時に構える。
「早速行くぜ、『惑星』!」
「ん? ──おっと!」
俺の後ろに、分身の新庄が現れる。
ま、これくらいなら簡単に避けられ──
「まだだ、『惑星』!」
「なっ!」
避けようとした俺の身体を、更に現れた分身の新庄が拘束する。
分身の新庄が、俺の首に手を伸ばしてくる。
多分、俺の首にあいつの手が触れた瞬間、俺の負けが決定するのだろう。
「そうはいかないよ、『円滑』、風たち、お願いします!」
「うおっ!」
新庄本人とその分身2体が、俺を中心にした風の渦に巻き込まれて、吹き飛んで行った。
分身は消えたみたいだ。
グラウンドの端の方まで飛んで行ったので、風たちと話す時間はなんとか確保できた。
「風たち、頼みがあるんですが、いいですか?」
『何でしょうか?』
「えっとですね……」
ちょっとした作戦を、風たちに伝える。
◆◆◆
「かなり遠くまで飛ばされたぜ……油断したな」
新庄が走って俺の近くまで戻ってきた。
「ん、五十嵐、右手に持っているのはなんだ?」
「見れば分かるだろう?葉っぱだよ」
道に落ちていた葉っぱを、前もって拾っておいたのだ。
ルークさんがペットボトルを持っていたのを見て、これもセーフだと思ったからだ。
「葉っぱ一枚で何ができるってんだ?」
「色々……はできないけど、ちょっとしたことならできるさ。風たち、頼みます」
俺の左手を中心に、超ミニサイズの竜巻が発生する。
「へえ、そんなことができるのか」
「これだけじゃないぜ。この竜巻に葉っぱを入れると……ほら」
葉っぱが左手の上でくるくると回転しているように見える。
「面白い手品だな、で、それで終わりか?」
「そんなわけないだろう? ──最後に、こうするのさ!」
竜巻の回転数をさらに上げて、葉っぱは平べったくて丸い、緑の塊になった。
「手裏剣みたいだろう?」
「形はメンコみたいだぜ」
「でも、殺傷力はバッチリだ……よ!」
回転する葉っぱを、竜巻ごと新庄に投げつける。
「遅いね、簡単に避けられるぜ!」
「避けていいのか?」
「は?何を言って──って、え?」
新庄はうなじに違和感を覚えて、手で触る。
何かを掴んで、目の前で手を広げて、新庄は驚いた。
「な、なんで葉っぱが俺の背中に──」
「おいおい、いつ俺が『葉っぱは一枚だけだ』って言った?」
新庄が避けた方向に、あらかじめもう1つ、葉っぱを巻き込んだ小さな竜巻を発生させていたのだ。
もちろん、当たっても怪我をしない程度の回転にしておいたが。
「……俺が避ける方向を、コントロールしたってのか」
「そういうことだ。上手くいってよかったぜ……」
気付かれていたら、俺の負けは確定していたからな。
「──俺の負けだ!ああ、こんなにあっさりと負けちまうなんてな」
「殺し合いだったら、俺が負けていたと思うぜ。新庄、お前本気を出していなかっただろ?」
グラウンドの隅まで吹き飛ばされたときでも、俺の周囲に分身を出現させることはできたと思う。
「本気を出したら、俺か五十嵐、どちらかが死ぬからな。それはやめておいたぜ」
「助かるよ。……神林さん」
「ああ、分かっている。──この手合わせ、五十嵐君の勝ち!」
再び、歓声。
◆◆◆
「すごいじゃない、五十嵐!」
「いえいえ、まぐれですよ」
新庄の、手加減のし過ぎもあって、なんとか勝てたんだ。
「俺の場合、自分の能力を使うというより、誰かに手助けしてもらう感じですから。風たちが俺の意図を完璧に読んでくれたおかげで勝てたんです」
「風とも話せるようになったんだっけ。ほんと、楽しそうな能力ね。風ってどんな声なの?」
「優しくて、温かい声ですね。色々なモノと会話できるのは、確かに楽しいですよ」
ゲームの中に入れる能力も、十分楽しそうだと思う。
「五十嵐クン、キミ、風以外とも会話できるのかい?」
「はい、機械の声も聞けますよ」
「オウ!そんな能力があったなんて……キミとも戦ってみたいね!」
「あ、あはは……」
俺は遠慮したいです。マジで。
「ルークさん、明日は俺と戦うんだぜ?忘れないでほしいね」
「分かっているよ。キミは純粋に強そうだからね、キミと戦うのも楽しみさ!」
人格が治っても、好戦的なことには変わりないみたいだな、新庄。
「神林さん、今日はこれで終わりですか?」
「うん、そうだよ。グラウンドを野球部に引き渡して、僕らはホテルに戻ろうか」
「分かりました」
こうして、2日目も無事に終わった。
明日は午前中に手合わせをするだけで、俺は休んでいればいいから、だいぶ気が楽になった。
◆◆◆
翌日、午前10時。
最終日なので、車の中には大きな荷物が置いてある。
買った物も入っているので、かなり大きくなってしまった。
今は、トレーニングセンターの体育館に来ている。
「新庄もルークさんも、頑張ってください!」
「2人とも、頑張れ~」
新庄とルークさんが、体育館の中心に立っている。
野球部と卓球部が来るのは午後からなので、今日はほぼ貸切状態だ。
俺たち観客は、体育館の2階から見ている。
研究員の『始め』の合図で、2人が構える。
ルークさん、早速ペットボトルを取り出して、『海洋』と呟いた。
水が、浮かび上がる。
「早速仕掛けたわね、第一能力者」
「さて、新庄はどう出るかな……?」
新庄はポケットからピンポン玉を取り出し、ルークさんに向かって投げて、『惑星』と叫んだ。
「──おお」
投げられたピンポン玉は、空中で数十個に増えた。
そのまま、ルークさんに飛んでいき、ぶつかるかと思われたが。
「すごいな……」
ルークさん、水の盾でそれを弾いた。
よく見ると、盾の形になった水が、地面に垂直に高速回転している。
「流水、ね」
「ただの水の塊じゃ止められないだろうが、あれなら確かに止められるな。考えたな、第一能力者」
竹部さんと貫太さんの説明のおかげで、なんとなく分かった。
ルークさん、本当に自在に水を操れるんだな。
「あ、ルークさん、ピンポン玉を拾った……」
そして、左の手のひらに水の渦を作った。
その渦の中に、ピンポン玉を入れて、さらに渦の回転数を上げた。
「なあ、あれって五十嵐が昨日やったことだよな」
「あんなに簡単に真似できるなんて……さすがルークさん、ですね」
ルークさん、ピンポン玉の入った水の渦を、新庄に投げつける。
新庄は避けたが、案の定、避けた先にもピンポン玉の入った水の渦。
これはまた、新庄の負けだろうか。
「──お、動いた」
新庄、今度は分身を自分の傍に出現させて、その分身に弾き飛ばしてもらって、もう一つの水の渦から逃れた。
強引な手だが、新庄らしい。
そして、油断していたルークさんの後ろに、分身の新庄が出現する。
「あ……」
次の瞬間。
ルークさんの首に後ろから、新庄の手が触れた。
◆◆◆
「新庄クン、中々面白い避け方をしたね!」
「ああするしか方法がなかったからな。五十嵐との戦いで学んだんだよ」
楽しそうに話している、ルークさんと新庄のもとへ行く。
「面白い戦いでした。ルークさん、本気で戦ったらとてつもなく強そうですね」
「そう言ってもらえると、嬉しいね!」
昨日と今日のルークさんは、知的かつ大胆な戦い方をしていた。
そういう戦い方をする人が、敵にしたときに一番厄介だろう。
「新庄も凄かったわよ、あの避け方は想像できなかったわ。分身に突き飛ばしてもらって避けるなんてね」
「強引だけど、新庄らしい戦い方だと思うよ」
「褒め言葉として受け取っておくぜ。ほら、最後は第二──貫太さんと竹部さんの番だぜ」
そうだ、次で最後なんだ。
「よっしゃ、今度こそ勝ってみせるぜ!」
「ただじゃ負けないわよー!」
竹部さん、最初っから負ける気なのか。
失礼だが、俺も勝てるとは思っていないので、何も言わないでおく。
◆◆◆
体育館の外の通路で、竹部さんと貫太さんが向かい合って立つ。
地面は土なので、貫太さんの方は問題ないが、竹部さんにはかなり不利だと思う。
俺たち観客は、体育館の中から見ている。
研究員の合図で、貫太さんが構える。
竹部さんも、遅れて構える。
「貫太さん、早速動いたな」
貫太さんの周りに、土の塊が浮かんで、竹部さんに飛んでいく。
竹部さんは、かろうじて避けている。
やっぱり竹部さんの方は、戦い慣れていない感じがある。
「あ、勝負あったかな?」
竹部さんの後ろの地面から、土の拳が出てくる。
竹部さんの首に触れるかと思われた、その瞬間。
「た、竹部さんが消えた!?」
「違うな、下だぜ」
新庄に言われて、竹部さんが立っていた地面を見る。
そこには、ゲーム機が落ちていた。
そして、そのゲーム機から竹部さんが出てきた。
「ゲーム機の中に入って、土の拳を避けたのか……」
「中々考えた戦い方をするじゃねえか」
戦闘向きの能力でない分、頭を使って戦わなければ勝てないものな。
「あれ、竹部さん、自棄になったのかな?」
竹部さんが、ゲーム機を持って貫太さんに突進していく。
当然、貫太さんはそれを簡単に避ける。
──が。
「あ、貫太さんの後ろに──」
貫太さんが避けた先の地面に、ゲーム機が落ちていた。
よく見ると、竹部さんの手にはゲーム機はなかった。
「あれ、また消えた?」
貫太さんの目の前から、竹部さんの姿が消える。
そして、貫太さんの足元のゲーム機から、竹部さんが出てくる。
竹部さんの手が、貫太さんの首に触れそうになったが。
「……すげえな」
貫太さんが振り返って、竹部さんの腕を掴み、後ろに回って竹部さんの首に触れた。
──貫太さんの勝ちだ。
◆◆◆
「お疲れ様です、貫太さん、竹部さん」
「やっぱ強かったわ、第二能力者」
「竹部さんも、トリッキーな戦い方で、最後勝てそうだったじゃないですか」
「それすらも読まれていたっぽいけどね……」
まあ、それは仕方ないだろう。
貫太さんの方が、場数を踏んでいるだろうし。
「皆さん、これで強化合宿は終わりになります」
「ルークさんとは、ここで別れるんですか?」
「いや、ボクは研究本部に行くから、キミ達と一緒の飛行機に乗っていくよ」
「あ、そうなんですか」
よかった、話したいことがまだまだあったんだ。
「では、荷物を持って車に集合してください」
神林さんたち研究員に続いて、歩いて行く。




