18話 手合わせ
竹部さんが行った後に、ジュースを買ってトレーニングセンターの入口に戻ると、ポロシャツと制服のズボンを身に着けた集団がいた。
近くの高校の野球部と卓球部だろう。
「今日はよろしくお願いします、研究本部の皆さん!」
「よろしくお願いしますね」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
神林さんたち研究員が、野球部と卓球部の顧問の先生らしき人たちと話していた。
「あ、五十嵐君。ほかの人たちはもう中に入ったから、君も入っていてくれ」
「分かりました」
高校生たちからの視線を無視して、中に入る。
◆◆◆
「今日は10時までトレーニングルームを使えるので、それまでにメニューをこなしてください。ほとんどの場所は高校生たちが使っていますので、終わった人は更衣室で着替えて、食堂で休んでいてください。では、始めてください」
神林さんの合図で、トレーニングが始まる。
まずはストレッチ、そのあとはランニングマシンで走る。
隣のランニングマシンでは、貫太さんがすごいスピードで走っている。
「か、貫太さん?そんなに速く走って大丈夫ですか?」
「おいおい、これくらいが普通だろ?お前こそ、そんなに遅くていいのか?」
「俺はこれくらいが限界なんです……やっぱり体力あるんですね」
「おう、あるぜ!」
見かけだけじゃないみたいだ。
「なあ、五十嵐」
「なんですか?」
「神林から聞いたんだけどよ、今日の手合わせは1人としかできないみたいだぜ」
「え、そうなんですか?」
体力が持たないから、それで十分だが。
「今日と明日で、2人と手合わせできるらしい」
「相手は選べるんですか?」
「ああ。俺は第一能力者と戦えればそれでいいんだけどな」
「あはは……俺は怪我しなければ誰とでもいいですよ」
怪我だけはしたくない。
「大丈夫だ、今回は瑠璃がいないから、危険な行為は禁止されているらしい」
「そうなんですか、よかった……」
前みたいな殺し合いじゃないのなら、それがいい。
「というか、さっきの計算だと1日に1人は余りませんか?」
「ああ、だから2人は2日間で1回しか戦えないらしい。もったいないな」
「それで十分だと思いますよ……」
やっぱり貫太さん、好戦的だよな。
◆◆◆
「終わった……」
トレーニングメニューを終わらせ、普段着に着替えて食堂で一休み。
現在時刻は、午前9時45分。
貫太さんは、時間ぎりぎりまでトレーニングマシンを使うらしい。
貫太さんの体力、とてつもないな。
「あ、あの……」
「はい?」
体操服を着た高校生に、話しかけられた。
「今日って、どれくらいの能力者が来ているんですか?」
「5人ですね」
「5人もいるんですか!すごいですね……」
すごい、か。
この人も、能力者に憧れているのだろうな。
「ど、どんな能力者が来ているんでしょうか……」
「えっと……言っていいのか分からないので、研究員の人と相談してみますね」
「え?」
目の前の高校生は、キョトン、とした顔をして、俺を見る。
「あなたは研究員じゃないんですか?」
「ええ、違いますけど……」
「え、じゃああなたは一体──」
ああ、なんとなく話は掴めた。
この人、俺のことを能力者だと思っていないんだ。
「お、五十嵐君。もうメニューは終わったのかな?」
「はい、なんとか終わりました。貫太さんはまだトレーニングルームで鍛えているみたいです」
「あはは、貫太さんらしいね。これ、午後の手合わせに関する注意事項だから、読んでおいてもらえるかい?」
「はい、分かりました」
紙を1枚渡される。
「手合わせの場所は何カ所かあるんですね。あの、戦う相手は選べるんですか?」
「もちろんだよ。貫太さんはルークさんと戦いたがっていたからね、今日はあの2人が戦うから、君と新庄君、竹部さんの3人で話し合って誰と誰が戦うか、決めてくれ」
「そういえば、2日間で1回だけ戦う人が2人いるんですよね。誰がその2人になるんですか?」
「それなんだけど……君と竹部さんかな、と今のところは思っているんだけど、それでいいかい?」
まあ、それが無難だろう。
「大丈夫です。新庄と貫太さん、ルークさんは戦いたがるでしょうし、それがベストでしょうね」
「じゃあ、他の人にも知らせてくるよ。昼食の時間まで休んでいてくれ」
「はい」
神林さんは、食堂から出て行った。
「あの、も、もしかして……」
「はい、俺も能力者ですよ」
「……す、すみませんでしたー!」
「え、ちょ……」
謝りながら、食堂を出て行った。
なんだったんだ、一体。
◆◆◆
昼食を済ませ、俺と新庄は施設内のベンチに座って休んでいた。
誰が戦うかは、すでに決めてある。
「またお前と戦うのか……」
「嫌なのか?」
「嫌って訳じゃないけどさ……俺がお前に勝てるとは到底思えなくてな」
「いいじゃねえか、勝敗はどうだって。戦うことに意味があるんだからよ」
それが強化合宿の意味なんだから、と言って新庄は笑う。
「ま、そういうことにしておくか」
「お、いたいた。2人とも、そろそろ手合わせが始まるから、見に行ってみない?」
「おっしゃ、見に行こうぜ、五十嵐」
「そうだな、あの2人の戦いは見てみたいし、行ってみるか」
施設の外のグラウンドに向かう。
◆◆◆
「随分観客がいますね……」
ポロシャツと制服のズボンの集団も、グラウンドに集まっていた。
「滅多に見れませんから、私たち卓球部は見学することにしたんですよ」
「野球部も同じです」
「あ、そうなんですか」
卓球部と野球部双方の顧問の先生に、話しかけられた。
「あなた方も能力者の方ですよね?」
「はい、そうです」
「あの方々と戦ったこともあるのですか?」
「貫太さん──日本人の方とは、戦ったことはあります」
見事に負けたけど。
「どちらが勝ちますかね」
「どうでしょうね……ルークさん──アメリカ人の方の能力は、まったく知らないので。竹部さんは知ってるんですか?」
「あたしは知ってるわよ。でもまあ、見ていれば分かると思うわ。ほら、始まったわよ」
研究員の『始め』という合図で、双方が構える。
貫太さんの周りの土が、浮かび上がってくる。
「貫太さんが先に仕掛けましたね」
「ってかうるさいな、あいつら」
野球部と卓球部が、歓声を上げている。
超能力を使う瞬間なんて滅多に見れないだろうし、ここは許してやれよ、新庄。
「お、ルークさんが何か取り出したぞ」
「あれは──ペットボトルか?」
ルークさんは、ペットボトルの中身(透明なのでたぶん水)を地面に撒いた。
そして、何かを呟いた、次の瞬間。
「水が、浮かんだ!?」
ルークさんの能力だろうか。
「あれが第一能力者の能力、『海洋』よ。水を操る能力ね」
「そ、そんな能力があったんですか……」
土と水、どちらの方が強いのだろうか。
「あ、貫太さんが動いた!」
貫太さんが、土の拳をルークさんに向かって放つ。
ルークさんは、水の盾を作って土の拳に当てる。
「水の盾なんかで土を弾けるのか?」
「待て、何か様子がおかしいぞ」
水の盾に当たった瞬間、土の拳は地面に落ちた。
「そうか、重さだ!」
土に水が含まれたことで、急激に重さが増して、操れなくなったのかもしれない。
水の盾は変形して、丸い塊になって凄いスピードで貫太さんに飛んで行った。
「勝負あったか?」
「いや、まだみたいだね」
貫太さんは、土の盾で水を防いだ。
やっぱり貫太さん、速い。
だが、土の盾は崩れてしまった。
「第一能力者、またペットボトルを取り出したぞ」
「まだ操れるのか……凄いなルークさん」
今度はペットボトルから出た水が、そのまま空中に浮かんでいる。
「おい、第二能力者がグラウンドの外に行ったぞ?」
「貫太さん、何をするつもりなんだ?」
貫太さんが向かった先には、コンクリートの地面。
貫太さん、『瓦礫は操れない』って言ってたから、コンクリートも操れないと思うのだが。
「──おお」
貫太さんの周りのコンクリートの地面が割れて、コンクリートの塊が浮かび上がる。
──修復、大変そうだな。
「お、ぶつかるぞ」
貫太さんの飛ばしたコンクリートの塊と、ルークさんが飛ばした水の塊が、グラウンドの中心でぶつかり合う。
舞った砂ぼこりが消えていき、そこにあったのは。
「すげえな……」
穴が開いて地面に落ちたコンクリートの塊と、貫太さんの喉元に突き付けられた水の刀。
つまり。
「ルークさんの勝ち、か」
再び、歓声が上がる。
◆◆◆
「やっぱ強いな、第一能力者!」
「貫太サンも、とっても強かったですよ!」
貫太さんとルークさんが、和やかに会話しながら来た。
さっきまで戦っていたとはとても思えないほど、楽しそうだ。
「貫太さん、コンクリートも操れたんですか?」
「さっき初めて操れるようになったんだ。コンクリートを操れないと、第一能力者には勝てないと思ったからな」
結局負けちまったけどな、と言って貫太さんは笑う。
「ルークさんも、水でコンクリートに勝つなんて、凄いですね!どうやったんですか?」
「コンクリートの塊の中心に、水の弾丸を撃ち込んだのさ。その弾丸を貫太サンの近くで刀に変化させて、喉元に突き付けたんだ」
「なんで刀なんですか?」
殺傷能力とかなら、小刀とかでもいいと思ったのだが。
「だって、カッコイイじゃないか!あのフォルム、とてもスマートだよね!」
「そ、そうですね……」
形で選んでいたのか。
なんていうかまあ、ルークさんらしいというか。
「五十嵐君、新庄君、次は君たちの番だよ」
「分かりました。場所はどうするんですか?」
「このまま、このグラウンドでしようと思っているんだけど、やっぱり五十嵐君に不利かな」
「いや、大丈夫です」
ちょっとした作戦もあるし。
「新庄も、いいか?」
「俺は大丈夫だが、本当にいいのか?」
「もちろんだ。神林さん、何分後に始めますか?」
「10分後にしよう。観客はいても大丈夫かい?」
あまり気にはならないし、いいだろう。
「俺は大丈夫です」
「俺もかまわないぜ。五十嵐、あの時の決着をつけようぜ!」
「ああ!」
やるからには、勝ちにいかせてもらうぜ、新庄!




