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第十能力者『円滑』  作者: イノタックス


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17/41

17話 開始

目的地の空港に着き、俺と新庄は機長に呼ばれ、制御室の隣の部屋に行った。

待っていた警察官から色々と話を聞かれ、15分後。


「後日警視庁で表彰式を行いますので、ぜひ来てください」

「そんな、表彰なんてしてもらわなくてもいいですよ?」


大勢の人を守ったということで、表彰式が行われるらしいが、そんなつもりでやったことじゃないし、してもらわなくてもいいと思うのだが。


「そう言わずに、ぜひ」

「そうだぜ五十嵐、こういうのは素直にもらっておくべきだぜ」

「……はあ、分かりました。表彰式、出ます」


表彰なんて、俺には似合わないことだと思うが、まあ、たまにはいいか。


「では、日程が決まり次第、連絡します。ご協力、ありがとうございました」

「あ、いえ……では、俺たちはこれで」


部屋を出て、貫太さんたちのもとへ向かう。


◆◆◆


貫太さんたちと合流し、預けていた荷物を受け取り、空港から出た。

現地の研究所がワンボックスカーを2台用意してくれていたので、4人ずつ乗って、今はトレーニングセンターに向かっているのだが。


「竹部さん、あの2人、大丈夫ですかね」

「んー、大丈夫じゃない?」


前を走る車に、貫太さんと新庄、それと担当の研究員が乗っているのだ。


「喧嘩とか、ならないですかね」

「心配ないって。第二能力者は無駄な戦闘は避けるし、第九能力者だって今はもう好戦的じゃないでしょ?だから、大丈夫よ」

「……ま、そうですね」


新庄は落ち着いているし、貫太さんは新庄を恨んでいたりはしない。

あまり心配し過ぎるのもよくないか。


◆◆◆


10分後、トレーニングセンターに到着。

各自荷物を持って、建物に入っていく。

──すると。


「ハーイ!研究本部のみなさんデスネ!」

「は、え?」


ベンチで休んでいた外国人が、声をかけてきた。

貫太さんより背が高いな。

もしかして、というか間違いなく。


「第一能力者──ですか?」

「イエス!そういうキミは、噂の第十能力者、五十嵐クンかな?」

「あ、はい、そうです」


──噂?


「あの、噂って一体……」

「第九能力者を倒したのがキミだって噂だよ!あれ、本当でしょ?」

「へ!?」


そんな噂が、流れていたのか。


「で、後ろのキミが第九能力者かな?」

「ああ、そうだ。新庄新という」


初めて会った年上の外国人にも、タメ口。

新庄、ぶれないな、本当に。


「って、あの!本当は俺、新庄に負けたんです。色々あって引き分けってことになってますけど……だから、俺は新庄を倒してはいないですからね」

「オウ!そうだったのか、キミは正直だね!」


なぜか褒められた。


「皆さん、今日のタイムスケジュールをお渡しします」


神林さんが、ホッチキスで綴じられた書類を能力者に配る。

今日の予定のところを見る。



・軽食を用意してあるので、まずはそれを食べる。

・ロッカールームで着替えて、簡単な検査を行い、健康に異常がないか調べる。

・検査が終わり次第、トレーニングルームに行って、軽い運動を行う。

・そのあとは、5時まで自由行動。



──えっと、だな。


「こんなに簡単でいいんですか?」


強化合宿っていうから、もっとこう、戦ったりするんだと思っていた。


「移動で疲れていると思ったからね、今日のメニューは軽めにしておいたんだ」

「じゃあ、明日からはきつくなるんですか?」

「ある程度はね。明日は午前中にトレーニングメニューをこなしてもらって、午後は手合わせをしてもらうよ」


あ、やっぱり俺も手合わせをすることになるのか。


「なあ、神林」

「何でしょうか、貫太さん」

「この『自由行動』ってのは、何をしてもいいのか?」

「はい。この施設の中で、ということ以外は特に縛りはありません」


なるほど。


「よっしゃ!ずっとトレーニングルームを使ってもいいんだな?」

「はい、今日は貸切ですので」

「え、神林さん、近くの高校の野球部と卓球部が来るんじゃないんですか?」


そう言っていたよな。


「それは明日と明後日だけ。今日は貸切だよ」

「あ、そうなんですね」


じゃあ、今日は変に緊張する必要もないか。


「では、食堂に行きましょう。こちらです」


研究員の人に案内されて、食堂へと向かう。


◆◆◆


用意された弁当を食べて、ロッカールームでジャージに着替えて、神林さんに検査してもらう。

検査はそれぞれの担当が行うようだ。

採血、体重と体温の測定、などを終え、トレーニングルームに集合。


「おお……」


そこには、ランニングマシンやエアロバイクなどのフィットネスマシンが何十台も置いてあった。

やっぱり、大きなトレーニングセンターというだけある。


「プロのスポーツ選手が使うこともあるくらい、ちゃんとした施設だからね。色々なマシンがあるでしょ」

「す、すごいですね……」


ここまでとは思っていなかった。


「では皆さん、トレーニングを始めてください。人によって難易度は変えてありますので、自分のペースでやってくださいね!」


そうして、トレーニングが始まった。


◆◆◆


「ふぅ……疲れた」


1時間半後。

渡された紙に書かれていたトレーニングメニューが終わったので、着替えてぶらぶら歩いていた。

さすがに、30分連続で走るのはきつかった。


「あ、第一能力者」

「お、五十嵐クン。キミも終わったのかい?」

「はい、終わりました」


第一能力者は、ベンチに座って休んでいた。


「そういえば、ちゃんとした自己紹介がまだでしたね。俺は五十嵐武彦です」

「ボクはルーク・ラッセルだ。よろしくね。五十嵐クン!」

「よろしくお願いします」


握手をする。


「それにしても、驚いたね。キミ、英語を流暢に話せるんだね」

「え、俺は今日本語を話しているんですが……」


英語は話していないと思う。


「オウ、嘘はいけないよ、五十嵐クン。ボクらは今英語で会話しているじゃないか」

「え?」


……え?


◆◆◆


詳しく話を聞いてみて、ようやく事態が掴めた。


「キミは、日本語を話していたのか……」


そう、俺は日本語を話している。

しかし、第一能力者にはそれが英語に聞こえていた。

そして、俺も第一能力者の英語を、日本語だと思っていた。


「たぶん、俺の能力が影響していたんだと思います」

「キミの能力?」

「はい。俺の能力は『人と人とを繋ぐ能力』なんです。だから、違う言語同士でも、意思疎通ができたんだと思います」

「なるほどね」


まさか、こんなところで能力が役に立つとは思わなかった。


「キミの能力は、とても平和的で、優しい能力だね」

「優しいかは分かりませんけど、平和的だとは思いますね。じゃあ、俺はこのことを担当の研究員に知らせてきます」


異常がないか、検査してもらおう。


◆◆◆


検査をしてもらったが、やはり異常は見つからなかった。

今はトレーニングセンターを出て、ホテルに来て、自分の泊まる部屋にいる。


「……ふぅ」


なんか、どっと疲れた。

夕飯まで30分くらいあるから、テレビでも見てみよう。

リモコンを手に取り、テレビを点ける。


『正解は……1番です!』

『やった、正解だー!』


「……はあ」


バラエティー番組のノリが鬱陶しくなってきた。

それほど、疲れているのだろう。


「荷物の整理でもするか……」


カバンのチャックを開けた瞬間、ふと思い出した。

去年の夏休みに、家族で旅行に行ったことを。


「……もう、行けないのかな」


出かけている最中に他の能力者に襲われる可能性もある。

家族は絶対に、巻き込みたくない。


「……あ」


涙が、少しだけ流れた。

この数か月の出来事で、精神がすり減っているのかもしれない。


「……夕飯を食べたら、ぐっすり休もう」


そうしよう。


◆◆◆


翌日、トレーニングセンターの入り口。

神林さんたち研究員はトレーニングセンターの事務所に行ったので、少し暇になった。

自販機で飲み物を買っている竹部さんのもとへ行く。


「竹部さん、少し訊きたいことがあるんですけど、いいですか?」

「ん、なに?」


一緒の境遇の人に、相談した方がいいだろう。


「竹部さんは、どうやって生きていますか?」

「──へ?」


豆鉄砲を喰らった鳩のような顔をする竹部さん。

変なことを言っただろうか。


「……五十嵐、あんた疲れてるの?」

「え?いや、昨日はぐっすり寝たので、疲れはないですけど」

「そういうことじゃなくて……いや、まあいいわ」

「……?」


竹部さんは、ペットボトルのお茶を飲みながら、俺に語る。


「あたしはね、あたしのしたいことをするために、しなくちゃいけないことをしながら生きているわ」

「したいこと、しなくちゃいけないこと、ですか?」


ひどくあやふやな回答だ。


「うん。美味しい物が食べたい、面白いゲームが買いたい、だから働いてお金を稼いで、したいことをしているの。──当たり前なことだけど、小さな夢をかなえるのも、大変なのよ」

「小さな、夢……」


夢、か。


「あんたには、何か夢がある?大きな夢でも、小さな夢でも」

「俺は──俺の能力で、みんなを守りたいです」

「そう。それなら、もっと強くなるために、鍛えなきゃ。……へこんでいる暇なんて、ないはずよ」

「……そうですね」


弱っている暇なんて、ないんだ。

俺は、もっと強くならなくちゃ。

もっと、もっと──


「でもね、五十嵐」

「……?」

「あたしたちは能力者である前に、人間なんだから、たまにはへこんでもいいと思うの」

「……矛盾していませんか?」


さっきと言っていることが、違う。


「いいのよ、矛盾していたって。それが人生でしょ?」

「──そう、ですね」

「ね、五十嵐」

「はい?」


竹部さんが、俺の顔を覗きこんでくる。


「あんた、昨日泣いたでしょ」

「え!?」

「やっぱり、泣いたのね」

「な、なんで知ってるんですか!」


なんで、俺が泣いたこと、知っているんだろう。


「あんたより8年も長く生きているんだから、色々経験したのよ。……あんたと同じように悩んだときもあったわ。訳も分からずに泣いたりもした。──だから、もしかしたら、って思ったのよ」

「……俺は、どうしたら」

「答えはさっき出たじゃない」

「──!」


そうだった。


「みんなを守るために、強くなりたいんでしょ?だったら、失敗してもいいから、考えて、行動しなさい。それでだめだったら、悩みなさい」


悩む、か。


「もし、本当に駄目だと思ったら、またあたしに言いなさい。相談に乗るくらいのことなら、あたしにもできるわ」

「……分かりました、ありがとうございます」


俺は、一人じゃない。

誰かに頼っても、いいんだ。

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