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第十能力者『円滑』  作者: イノタックス


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15/41

15話 説明

7月中盤から始まる長期休暇、つまり夏休み。

その初日、部活終わりに俺は橋本に誘われ、橋本の家で勉強会をすることになった。

すでに2時間が経過して、今は休憩中。


「橋本、お前の母さん、かなり驚いてたな」

「能力者が家に来たんだから、そりゃ驚くでしょ。お前もそろそろ、ああいう扱いに慣れたほうがいいと思うよ」

「もう慣れてるよ。諦めに近いけどな。──ん、あのゲーム……」

「おお、これか?」


そう言って橋本が手に取ったのは、パッケージに制服を着た女子が描かれているゲーム。

タイトルは『星降る夜に、君を待つ』──俺がバグを直したゲームだ。


「もう発売されてたのか……」

「あれ、五十嵐はこのゲーム、知ってるのか?」

「ああ、ちょっとな。面白いか?」


なぜ知っているのかは言えないので、早々に話を切り替えておく。


「面白かったぞ!主人公の友達の厳島って奴が、最高にいい奴でさー!」

「……そ、そうか」

「ああ!メインヒロインルートの最終日に、いいことを言うんだよ、お前もやってみるか?」

「ど、どうしようかな……」


さすがに『最終日の厳島は俺だ』なんて言っても信じてもらえないと思うので、誤魔化しておく。


「宿題が終わったら自分で買うよ。さ、宿題の続きを──って悪い、着信だ。ちょっと出るわ」

「気にしなくていいぞー」


マナーモードにしている携帯が震えている。

画面には『神林さん』の文字が出ている。

応答ボタンを押して、耳に当てる。


「もしもし、神林さん?」

『あ、五十嵐君。突然なんだけど、明日研究本部に来てもらってもいいかい?』


本当に突然だな。何かあったのだろうか。


「明日ですか?午前中は部活なので、午後なら行けますけど、それでもいいなら……」

『ああ、それで大丈夫だ。じゃあ、明日の2時ごろ、君の家に迎えに行くよ。それじゃあね』

「あ、はい」


電話を切って、携帯をカバンにしまう。


「誰から?」

「研究本部の人から。明日の午後に研究本部に行くことになった」

「研究本部か……憧れるな、俺も研究員になろうかな!」


憧れるようなものなのか。


「理系の科目ができないと、駄目じゃないか?」

「あ、やっぱそうなのか、じゃあ諦めよう!」

「切り替え早いな!」


スパッと気持ちを切り替えられるところは、見習いたい。


「さて、宿題の続きをするかな」

「おう、かなり進めてやるぜ!」


それから2時間ほど宿題を進めて、俺は帰宅した。


◆◆◆


翌日、午後2時半。

神林さんに連れられて、研究本部の一室に入ると、見慣れた顔が2つ。


「貫太さんと竹部さん、2人も呼ばれたんですか?」

「ああ、呼ばれたぜ」

「暇だったからね、来たのよ」


竹部さんは、相変わらずだな。


「それでは、こちらをご覧ください」


神林さんがホワイトボードの前に立ち、ボードをくるっと回す。

そこに書かれていたのは。


「『強化合宿日程表』──強化合宿?」


初めて聞いたので、何が何だか分からない。

まあ、この3人が集まったってことは。


「能力者が集まって、合宿するってことですか?」

「そういうこと!各自の能力を意図的に進化させよう、って試みさ」

「なるほど」


そんなことを考えていたのか、研究本部。


「でもよ、神林、参加するのはこの3人だけなのか?少なすぎると思うんだが」

「そうよね、さすがに少なすぎると思うわ」


え、俺が参加することは決定しているのか。


「あ、やはりそう思いますか」


神林さん、予想していたかのような発言をする。


「実は、現在発見されている能力者10人全員に連絡したのですが、参加を承諾してくれたのは4人だけでして」

「4人……五十嵐は強化合宿があることを知らなかったみたいだし、その数には含まれてないよな。となるとあと2人──誰が参加するんだ?」


誰だろう、まったく予想がつかない。


「第一能力者と第九能力者です。彼らは用事があって今日は来れませんでしたが、あとで僕から詳しい話をしておきます」

「──おい、今『第一能力者』と言ったか?」


貫太さんが、神林さんを睨む。


「え、ええ。何か問題がありましたか……?」

「──よくやった、神林!」


貫太さんは立ち上がって、笑顔でガッツポーズをする。

なんでこんなに嬉しそうなのだろうか。


「第一能力者って言ったら、能力者の中で一番強いって評判の奴じゃねえか!一度会ってみたかったんだ、来ることは確定しているのか?」

「『まだ見ぬ能力者と出会いたい』と言っていたので、キャンセルすることはないと思います。参加者に関して、他に質問はないですか?」

「あたしから質問してもいい?」

「もちろんです。何でしょうか?」


質問の内容は、なんとなく分かっているが。


「第九能力者の精神は、完全に安定しているの?」

「ええ。第七能力者はもう大丈夫だと言っていました」

「第七能力者ねえ。どうも胡散臭いのよね、あいつ」

「竹部さん、第七能力者と会ったことがあるんですか?」


俺は名前しか知らないから、どんな人なのかは分からない。


「研究本部で会ったことがあるのよ。戦ったことはないし、あまり会話もしなかったんだけど、印象は深かったわ。何を考えているのか分からない、って感じね」

「そ、そういう人なんですか……」


不気味な感じの人なのだろうか。


「でもまあ、第七能力者がそう言うのなら、大丈夫なんでしょうけどね。あたしからはもうないわ」

「そうですか。五十嵐君、君からは何かあるかい?」

「あ、じゃあ一つだけ訊きたいんですが……瑠璃さんは参加しないんですか?怪我とかがあったら、大変だと思うんですが……」

「瑠璃は参加しねえよ。できない、って言った方がいいか」


参加できない──?


「瑠璃は子供の面倒を見なくちゃならねえから、参加はしない。俺も家に残ろうと思ったんだが、瑠璃に参加することを薦められてな、今回はそれに甘えて俺も参加することにしたんだよ」

「あら、ついに第五能力者に捨てられたのかしら?」

「──今ここで、お前をぶっ飛ばしてもいいんだぞ、竹部?」

「じ、冗談よ……だからぶっ飛ばさないでください」


さすがの竹部さんも、貫太さんのことは怖いらしい。


「そういう訳だから、瑠璃さんは参加しないんだ。で、五十嵐君」

「はい?」

「君はどうする、参加するかい?」

「そうですね……」


瑠璃さんがいないってことは、怪我を治せる人がいないってことになるけど……。


「参加します」

「お、そうかい」

「はい。もっと強くなりたいんです。だから、参加します」

「分かった、君の名前も入れておくよ。じゃあ、ボードを見てくれ」


神林さんが、ホワイトボードの真ん中あたりを指差す。


「期間は三日間、つまり二泊することになりますから、着替え等は各自で用意してください。場所はここから電車と飛行機で3時間くらいの、海が見える宿泊施設です。もちろん一人部屋ですよ」

「あの、研究本部でやるんじゃないんですか?」


研究本部でやるんだとばかり思っていた。


「たまには違う環境でやったほうがいいと思ったからね。あ、交通費と宿泊代は、もちろんこっちが持つから、安心してくれ」

「ふ、太っ腹ですね……飛行機代とか、高くなかったですか?」


家族で乗ったことならあるが、当然親が払ってくれていたから、飛行機代がいくらかかるのかは分からない。


「研究本部には少し多めに国家予算が組み込まれているからね。心配しなくて大丈夫だよ」

「そ、そうですか」


国家予算──すごい単語が出てきたな。


「『合宿』の方は分かった。で、肝心の『強化』する場所はどこなんだ?」

「近くのトレーニング施設を借りられたので、そこでします」

「屋内だと、俺の能力は強化できないと思うんだが」

「屋外もありますので、ご心配なく」


結構しっかりと計画を立てているんだな。


「貸切なの?」

「それが……予約した際に、手違いがあったらしく」

「手違い──ですか?」

「ああ。ちょうど同じ時間に予約が入ったらしくてね、そこの近くにある高校の、野球部と卓球部も一緒に使うことになってしまったんだ」


そ、それは──大丈夫なのか?


「高校側は、なんて言ってるの?」

「『元々自分たちだけで使う予定ではなかったので、他の団体と一緒になっても問題はありません』……という風に回答してもらえました。なので、参加する皆さんさえよければ、予定通り、そこで行うつもりなのですが……」

「俺はいいぜ、相手が崇めてこなければ、の話だがな」

「あたしもいいわよ、相手が逃げ出さなければ、だけどね」


2人の性格がよく分かる回答だ。


「五十嵐君は?」

「俺は──大丈夫です、相手が怯えてこなければ、ですが」

「そうかい、よかった。皆さん、心配することはないでしょう。その高校は、超能力検査を定期的に行ったり、超能力についての講義も行われている、能力者のことをあまり恐れていないところなんです」

「それなら、安心だな」


よかった、怯えられるのは嫌だからな。


「日にちなんですが、ここに書いてある通り、8月4日から6日までです。当日の朝7時に、担当の研究員が家まで迎えに行き、空港まで送ります」

「俺の場合は神林さんですよね、神林さんも来てくれるんですか?」

「ああ、もちろんだよ。各自の担当になっている研究員は、ちゃんと現地まで同行するよ」


よかった、何かあった時に頼りになるからな、神林さん。

俺より超能力のことについて、詳しいし。


「あ、あと一つだけ訊きたいんだけど、いいかしら」

「何でしょうか?」

「飛行機の座席のランクはどのあたりなの?」


ああ、エコノミークラスとか、ビジネスクラスとか、複数あるんだっけ。


「今回はビジネスクラスです。ファーストクラスも考えたのですが、そこまでいくと予算的に厳しくて──申し訳ありません」

「あ、謝ることはないと思いますけど……俺にファーストクラスなんて似合わないですし」

「あたしも、ビジネスクラスで十分だと思うわ」

「俺もだ。ファーストクラスに乗ることになってたら、さすがに俺も払わなくちゃ気が済まないからな」


俺はエコノミークラスでも、払いたい気持ちでいっぱいなのだが。


「そう言ってもらえてよかったです。──っと、今日説明しなければいけないのは、これくらいでしょうか。──あ、当日持っていく物については、こちらから書類をお送りしますので、ご心配なく。では、今日は解散としましょうか」

「分かったぜ。じゃ、俺は帰るよ。また強化合宿の時に会おう」

「あたしも帰るわ。それじゃあねー!」


そう言って、2人は部屋を出て行った。


「さ、僕が送るから、君も家に帰ろうか」

「あ、分かりました」


こうして、俺は強化合宿に参加することになった。

楽しみというか──ドキドキ、ワクワクするな。

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