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第十能力者『円滑』  作者: イノタックス


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14/41

14話 新庄新

あの後、俺は竹部さんと瑠璃さんが治療を受けている施設に行き、テレビから流れていたニュースを見た。

スタジオで司会とアナウンサー、学者、それとタレントが研究本部で起こった事件について、話をしていた。

『幸いにも死人は出なかった』とか『警察の機動隊が戦って解決した』なんて言っているあたり、まともに調べてはいないのだろう。

まあ、俺が戦ったなんて報道されても、それはそれで困るが。


新庄のことについて、竹部さんたちと語っていると、スタジオから中継先へと場面が切り替わった。

中継先は、なんと研究本部。

一般人を入れていいのかと訊くと、神林さんは『あまり隠し過ぎるのも、変な疑いを招くからね。ある程度は仕方ないさ』と答えた。

神林さん、色々と考えているんだな。


10分ほど話した後、俺は神林さんの車(無事だった)に乗って、自宅まで送ってもらった。


◆◆◆


(──憂鬱だ)


家のドアの前で、立ち止まる。

5月の大型連休に、母さんたちにはかなりの心配をかけたから、もう危険なまねはしないように──と考えていたが、結局また戦っちゃったし……なんて話したらいいんだろう。

──と、そんなことばかり考えていてもしょうがない。

ドアを開け、中に入る。


「ただいま……」


ドアを閉め、靴を脱いでいると、居間のドアが開いた。


「あ、母さん、……ただいま」

「おかえり、武彦。どうしたの、様子がおかしいわよ?」

「へ?え、えっと」


もしかして、研究本部で事件が起こったこと、知らないのかな?

知らせた方がいいんだろうけど……知らないほうがいいのかもな。


「ううん、なんでもないよ。それより母さん、お腹減ったよ……」

「そう言うと思って、もう用意してあるわよ。さ、手を洗って台所に──」


ガチャ、と玄関のドアの開く音。


「ただいま母さん!って、兄ちゃん!大丈夫だったの!?」

「……隆」


バッドタイミングだよ、マジで。


「え、隆?大丈夫って……何かあったの?」

「母さん、ニュース見てないの?超能力研究本部が能力者に襲われたらしいんだよ」

「──え?」


──全部言ったな、隆。

数秒経って、母さんはようやく理解できたようで。


「武彦、あなた……今日はどこに行ったんだっけ?」

「……研究本部です」


思わず敬語になる。

『研究本部に行ってくるね』なんて言って出かけたから、当然母さんは俺が研究本部に行ったことを知っている。


「でも兄ちゃん、今日は戦わなかったんでしょ?警察の機動隊のおかげで解決したらしいし」

「あら、そうなの?……びっくりしたわ、また戦ったのかと思っちゃったわ」

「あ、えっと……」


言うべきだろうか。

頼み込めば、神林さんは話さないでいてくれるだろうし、その方がいいのかもしれない。

──でも。


「ごめん、今日も戦ったよ」


今は正直に言った方がいいだろう。


「……そう、なのね」

「で、でも安心して、怪我は瑠璃さんに治してもらったから」

「怪我をするくらいに、戦ったのね?」

「そ、その、えっと……ごめんなさい」


そう捉えるか。いやまあ正しいんだけど。


「お昼ご飯を食べてから、話してもらうわ。それでいい?」

「うん、いいよ」

「……お腹、空いたでしょ?」

「──」


声が出なかった。

母さんは、俺以上に辛く感じているんだ。

──でも。


俺は、能力者として生きるんだ。


そのことを、ちゃんと分かってもらわなければ。

母さんには、味方でいてもらいたい。


◆◆◆


昼食を済ませ、台所のテーブルに俺と母さんが座る。

隆は居間でテレビを見ている。

空気を読んでくれたようだ。


「……ねえ、母さん」

「なに?」

「俺、さ」


俺の正直な気持ちを、話そう。


「自分が能力者だと分かったとき、『なんで俺なんだ』って思ったんだ」

「そうなの?」

「うん。面倒事に巻き込まれるのは嫌だし、何より危険だと思ったから」


あの時、俺は確かにそう思った。


「周りの人からは崇められるか怯えられるか、そのどっちかだったし、やめられるものならやめたかった。……でも」

「でも?」

「能力者として過ごしていくうちに、考えが変わったんだ。瑠璃さんは自分の身を削って他の人を助けるような優しい人で、貫太さんは犯罪者を嫌う立派な人──まあ、少し行きすぎてる感じはあるけど、そんな人だ」


母さんは、黙って聞いてくれている。


「竹部さんって人は、気さくで明るい人で、俺が最初に戦った人なんだ。それで──今日戦った、新庄って奴は──まだよく分からない。だけど──」

「だけど?」

「これから知っていきたい。新庄だけじゃなくって、他の能力者についても、もっと知っていきたい。だから、母さん」


話しておかなければ。


「俺が能力者として生きていくこと、止めないでほしい。戦って怪我をすることが、これからもあるかもしれない。それでも俺は──能力者でいたい」

「……そう」


母さんは立ち上がり、手をテーブルに置いて、俺の目をじっと見る。


「あなたが自分で決めたことなら、私は反対しないわ。──武彦、一つだけ、約束して」

「ん、何?」

「怪我をしても、危ないことに首を突っ込んでも、それはあなたが決めたことだから私は文句は言わない。だけどお願い。──死なないで」

「……うん、約束するよ」


母さんを悲しませることは、絶対にしない。


「それだけ分かってくれれば、いいわ。……さ、これでこの話はおしまい!武彦、宿題はやったの?」

「あ、まだだ……今日中にやるよ。じゃ、部屋に行くね」

「ええ。……頑張ってね」

「うん、頑張るよ」


そのために、もっと強くならなくては。


◆◆◆


翌日。

竹部さんに呼ばれて、今日も研究本部に来た。

もちろん、今日も神林さんの車に乗ってきた。

駐車場から少し歩いたところで、見知った顔を見つける。


「あ、貫太さん」

「おお、五十嵐じゃねえか」

「貫太さん、片付けを手伝ってるんですか?」


散らばっている瓦礫を、移動させている。


「ああ、そうだ。人手が足りないからな、俺もこうして手伝ってるんだ」

「そうなんですか。……能力で運べないんですか?」


貫太さんの能力なら、瓦礫を浮かべることもできそうだけど。


「『大地(アース)』は土や石じゃないと操れねえんだ。鍛えればこういう瓦礫も操れるんだろうけどな」

「なるほど、そうでしたか」


そんな欠点があったのか。


「五十嵐君、そろそろ行くよ」

「あ、はい。貫太さん、それでは」

「おう、じゃあな!」


竹部さんの待つ部屋に、向かわなければ。


◆◆◆


神林さんに案内してもらった部屋では、竹部さんがソファーに腰掛けていた。


「お、五十嵐、来たね」

「来ましたよ。具合はどうですか?」

「普通に歩けるくらいには回復したよ。第五能力者の疲労も少なくなってるはずよ」

「そうですか、よかった……」


竹部さんも瑠璃さんも、元気でよかった。


「それで、今日はどうしたんですか?」

「この中身を分けようと思ってね。さ、座って」


テーブルを挟んだ反対側のソファーに座る。

神林さんは携帯にメールがあったみたいで、どこかに行った。


「それは──封筒ですよね」

「どこからどう見ても、封筒だね。中はお金が入ってるけどね」

「お金……あ、昨日の依頼の報酬ですか?」

「正解。ゲームのソフトは無事だったからね、本体は壊れたけど」


そう言って、竹部さんは笑う。


「とりあえず、あたしはこれくらいもらうよ」


竹部さんは、封筒から1万円札5枚を取り出して、自分の財布に入れた。

──そんなにもらえるんだ。


「あとはあんたの分だ。受け取りな」

「あ、ありがとうございます」


封筒を受け取る。

──少し重い。中を見てみる。


「おお、1万円札」


1万円札が1枚、2枚、──って、10枚も!?


「た、竹部さん、間違ってませんか?」

「おや、少なかった?」

「ち、違いますって!こんなにもらっていいんですか?」


竹部さんの能力がなければ、そもそも俺はゲームの中に入れなかったんだから、竹部さんはもっともらってもいいと思うのだが。


「いいんだよ。あたしは最初に能力を使っただけだからね。もっと渡してもよかったくらいよ。それに──」

「それに?」

「第九能力者のことを、あんたに丸投げしちゃったからね。そのお詫びも入ってるのよ」

「で、でも、俺にはこんな大金──」


使い方が分からないというか、使い道がない。


「受け取ってくれよ。それで家族に美味しいものを食べさせてやりな」

「あ……分かりました」

「それじゃ、またね!」

「は、はい!」


竹部さんは、部屋を出て行った。

やっぱり竹部さん、いい人だ。


◆◆◆


5分ほど部屋で待ったが、神林さんが戻ってこなかったので、俺は一人で駐車場に向かうことにした。

部屋を出て少し歩いていると、神林さんがこちらに向かってきた。

──昨日、俺と戦った奴を連れて。


「し、新庄!?」

「おお、五十嵐。昨日ぶりだな」

「へ?あ、ああ、そうだな」


あれ?

新庄の奴、昨日よりもはっきりと喋れるようになっている。


「ってか、神林さん!新庄をここに連れてきてよかったんですか?」

「安心してくれ、五十嵐君。新庄君ならもう大丈夫だよ」

「え、そうなんですか?」


確かに、新庄から危険な感じはなくなっているが──。


「五十嵐、昨日はすまなかった」

「え!?」

「何を驚いてるんだ、五十嵐」

「い、いや、だって……人が変わり過ぎてるだろ!」


昨日はあんなに暴力的な奴だったのに。


「人が変わった、か。惜しいな」

「お、惜しい?」

「ああ。『人格が変わった』ってのが正解だな」

「え、人格?」


どういうことなのか、全然分からない。


「神林さん、あんた五十嵐に何にも言ってないんすか?」

「僕は口止めされているからね。何も教えられないよ」

「なるほどね。そういうことなら、俺から言いますよ」


──話についていけていない。


「俺は普通の人格を手に入れたのさ。第七能力者のおかげでね」

「第七能力者ってのが、昨日神林さんが言っていた、協力してくれた能力者なのか?」

「ああ、そうだ。確か『人格(アイデンティティー)』とかいう能力を持ってる」


人格(アイデンティティー)』か。

──あ、今普通に漢字まで分かった。

やっぱり俺の能力、進化しているんだな。


「ってことは、昨日までのお前の人格は普通じゃなかったのか?」

「ああ。俺の人格は壊れていた。昨日までの俺にはそうは思わなかったが、今ははっきりと分かるぜ」

「なるほどね。──トラウマの原因と、壊れていたことに関係はあるのか?」


訊いていいのか一瞬迷ったが、訊くことにする。


「ああ。俺は小さいころから虐待を受けていてな」

「あ……悪い、そんなことを話させちゃって」

「いいよ、別に。ってか、話させてくれ。話すことで楽になるのさ」

「……分かった」


新庄は上を向いて、楽しかった思い出でも語るかのような、明るい口調で話す。

空気を読んだのか、神林さんは駐車場の方へと姿を消した。


「俺は両親から、喋ることを禁じられていた。なんでなのかは分からない。あいつらからすれば、俺の存在自体が邪魔だったんだろう。──それが、高校まで続いた」

「え、高校って──お前何歳なんだ?」

「お前と同い年だよ。16歳、高2だ」

「あ、そうだったのか……」


歳はあまり離れていないと思っていたが、まさか同い年だったとは。


「高校から帰って、毎日欠かさず続いていた虐待を受けていたときに、急に身体に力がみなぎってきたんだ。何が起こったのか、お前なら分かるだろう?」

「能力者として、目覚めたってことか」

「ああ。お前にはその自覚がなかったみたいだが、俺にはあった。一瞬で理解したよ、『能力を使って両親を倒せば、俺は自由になる』ってな」


自由に、か。


「でも、その考えは違った。両親に殴る蹴るの暴行を加えた俺は、警察に逮捕された。もちろん、虐待を受けていた証拠があったから、両親も逮捕されたけどな」

「それで、警察を敵視してたのか」

「ああ。──逮捕された瞬間、俺の人格は崩壊したらしい。研究本部が手をまわしてくれて、俺は釈放されたが、それからの数か月はあまり憶えていない。とにかく他の能力者と戦って、強くなろうとしていたことだけは分かる。そして昨日、お前と戦った」


引き分けた勝負のことだ。


「お前のおかげで、俺はトラウマを克服できた。お前は俺に負けたと言ったが、それは違う」

「……?」

「昨日の勝負、お前の勝ちだ。お前には、他人のトラウマを克服させるだけの力がある。その点で、俺は負けたんだ」

「いやいや、そんな……」


俺の方を見て、新庄は話す。


「俺は、両親の心を正そうなんて、一回も考えなかった。考えようとしなかっただけなのかもしれない。──俺は、お前に感謝しているんだ、五十嵐」

「……じゃ、素直に感謝されておくよ」


それだけの過去を、軽快な口調で語れる新庄の方が凄いと思うが、ま、今日は感謝されておこう。


「そうだ、自己紹介をしていなかったな。俺は新庄新(しんじょうあらた)、さっきも言ったが16歳、高2だ」

「俺は五十嵐武彦、お前と同じで16歳、高2だよ」

「──五十嵐、頼みがあるんだが」

「ん、なんだ?」


新庄から、頼み?


「友達になってくれないか?」

「ああ、分かっ……え?」

「俺には友達と呼べる奴がまったくいない。いたことはあるが、俺が能力者だと知って離れていった。だから──」

「……なんだ、そんなことか」


答えは決まっている。


「もちろんだ。これからよろしくな、新庄!」

「ああ、五十嵐!」


固く、握手をする。


「じゃ、俺は担当のところに行くよ。またな、五十嵐」

「ああ、また会おう。じゃあな」


新庄は、笑顔で研究所の奥へと去っていった。

さ、俺は駐車場へと向かおう。

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