12話 第九能力者
よし、第九能力者は全く動いていない。
──今だ!
「倒れろ、おりゃあ!!」
「……!?──ガハッ!」
第九能力者の後ろのパソコンから出て、思いっきり背中を殴る。
「おお、案外吹き飛ぶね」
ネットワーク上で助走をつけてから出てきたので、それなりの威力があるはずだ。
さて、第九能力者はというと。
「アアアアァァァァアアアア!」
「う、うるさ!」
のどが壊れてるんじゃないのかと思うほどの音量で、叫び始めた。
「近所迷惑だよ、第九能力者」
「……ハッ」
「え?」
背中に、再び衝撃。
う、嘘だろ──?
「「アアアアア!!」」
なんで、第九能力者が──
「2人もいるんだよ!」
「アアアアア!!」
今度は、腹を殴られる。
よろけたところを見逃さず、次は背中。
その次は、また腹。
「かはっ──!」
まずい、このままだと本当に死んでしまう。
竹部さんや貫太さんの時以上の危機感が、俺の頭にまとわりついている。
──死にたくは、ないなあ!
「『円滑』!」
「……!?」
第九能力者を多目的室に残して、俺はまたネットワークの中に入り込んだ。
◆◆◆
研究本部、壊滅した一室。
「五十嵐君になんてことを頼んでくれたのかしら、竹部さん?」
「ちょ、そんなに怒らないでってば……大丈夫よ、あいつなら」
水面瑠璃と竹部洋子が、寝転んで話していた。
両者ともに、満身創痍の状態だ。
「何でそこまで、五十嵐君を信じているんですか?」
「簡単な話よ。──あいつが第九能力者に勝てるだけの、力を秘めてるからよ」
「力──?」
竹部洋子は、笑いながら語る。
「確かにあいつは、第九能力者以上の能力を持ってはいない。だけど、ね」
「だけど……何ですか?」
「あいつは、臨機応変に行動できる奴よ。障害物を壊そうとしか考えていない第九能力者と違って、避けようとしたり、飛び越えようとしたりできるのよ。──あいつと戦って、そう思ったわ」
「──そうですか」
水面瑠璃は、ふふっ、と微笑んだ。
「私も、五十嵐君と戦ってみたいですね」
「おいおい、あんたに怪我されたら、たくさんの人が困るんだよ?それだけはやめてくれると助かるね」
「ふふっ、冗談ですよ。──今は、五十嵐君を信じて待つしか出来ないんでしょうか」
「身体が動かないんだから、そうするしかないでしょ。しかし、本当にひどい状況ね」
辺りを見渡して、竹部洋子はため息をつく。
「第九能力者の奴、また強くなったんじゃないの?」
「怒りの力で、パワーアップしたんですかね」
「少年漫画の王道展開ね。なら、五十嵐はきっと──優しさでパワーアップする」
「……」
一瞬の静寂。
その後に、水面瑠璃が吹き出す。
「竹部さん、あなた意外とロマンチストなのね」
「なっ!?ち、違うわよ!断じて違うわ!」
「顔真っ赤にしちゃって、かわいいですね」
「か、かわいい!?」
竹部洋子の顔が、紅潮していく。
「……何をしてるんですか、ガールズトークですか?」
「あ、神林君!聞いて聞いて、竹部さんって、意外とロマンチストだったのよ~」
「違う!違うったら違うのよー!」
「2人とも、普段と随分雰囲気違いますね……」
若干引いている神林を横目に、ガールズトークはもうしばらく続くのだった。
◆◆◆
ネットワークに入り込んだはいいが、これからどうしたものか。全く方法が浮かんでこない。
神林さんには『目の前のハードルは飛び越えたい』なんて言ったものの、そのハードルが高すぎては、飛び越えたくても飛び越えられない。
──まあ、飛び越えなくてもいいんだけど。
「飛び越えられないなら、下をくぐったり、横を歩いて行けばいいだけの話だもんな」
……とは言ったものの、やはり方法は見つからない。
こういう時は──やっぱり、相手の能力について考えるか。
◆◆◆
第九能力者の能力について、まず考えなければいけないことがある。
一体どうやって分身したのか、ってことだ。
『そういう能力だ』って言ってしまいたいのだが、今回はそれができない。
あいつは、俺の頭上に車を出現させた。
分身する能力って訳ではないだろう。
──ん?
もう少しだけ思い出そう。
あの時俺の頭上に現れた車は、どんな色だった?
どんな形、どれくらいの大きさだった?
──あ、分かったかもしれない。
でも、この答えが正しいかは分からない。
とにかく、もう少しだけ情報を集めてみなければ。
◆◆◆
「アアアアア!!」
「おっと、パソコンを壊すのは勘弁してくれよ、可哀想じゃないか」
「アア?……アアアアア!」
笑顔になって雄叫びを上げる第九能力者。
俺を強敵だと認めてくれたのだろうか。
「──そりゃ、困ったね」
「アア?」
俺が何を言っているのか、分かっているのだろうか。
さて、俺はネットワークから出てきて、『俺の後ろにはスペースがある』。
これで、予想通りなら──
「後ろだ!」
気配を感じる前に振り向いて、拳を空気に向かって突きつける。
──手応えあり!
「ア!?」
俺の拳は、俺の後ろに現れた『もう一人の』第九能力者の腹にめり込んだ。
「……アアアアァァァァアアアア!」
「相変わらず、うるさいね、おい!」
殴られた方の第九能力者は、また大きな声で叫んだ。
悲鳴ではないようだ。痛みを感じていないのか──?
「次は──あっちに向かうか!」
「ア?……アアアアア!」
俺が逃げたと思っているのだろうか、怒っているようだ。
やはり、感情はあるようだ。
◆◆◆
研究所の裏手にある、少し小さめの駐車場に逃げ込む。
「アアアアア!」
「おっと、もう逃げないよ。──さあ、どこからでも攻撃してみろ」
こいつの攻撃方法は、かなり単純なものだ。
さっきと同じなら、こいつは俺の頭上に車を出現させるはずだ。
「ア?──アアアアア!!」
予想通り、俺の頭上5メートルほどに車が現れる。
さっきと同じように、左に跳ねて回避すれば──
「アアアアア!」
「なっ!」
跳ねた地面の上にも、車。
しかもキャンピングカーだ、大きな車で潰そうって作戦か。
「うりゃあっ!」
もう一度左に跳ねたので、潰されるのは避けることができた。
──だが。
「くっ……痛いね、やっぱり」
上手く着地できずに、転んでしまった。
捻挫だろうか、もう右足が腫れてきている。
──でも、さっきので俺の考察が正しいことが分かった。
「お前の能力は、『複製する能力』だな」
「……!?」
なぜ分かったと言わんばかりの、驚いた表情で、第九能力者は俺を見る。
今回は、当たったようだ。
「この駐車場にある車と同じものを、お前は出現させた。──キャンピングカーは目立つからな、それで分かったんだよ」
「──アア!アア!」
第九能力者、飛び跳ねて喜んでいる。
今ので喜ぶのか……ヤバい、全く感情が掴めない。
というか、俺が説明するのを律儀に待ってくれているな、こいつ。
やはりある程度は、人間としての感情を持っているようだ。
「そしてもう一つ、分かったことがある。──さっきまでの俺じゃあ、お前には勝てない」
「……ア?」
そう、『さっきまでの俺じゃあ』勝てない。
「命の危機を感じた時に、能力は進化するようだな。──今度は車を降らせる気か、第九能力者?」
「──!?」
第九能力者は、今まで以上に驚いていた。
自分の作戦を読まれたんだ、そりゃあ驚くだろう。
「ア?……アアアアア!!」
おお、キレた。
──空から10台ほどの車が降ってきた。
さっきまでの俺だったら、ここで死んだだろう。
でも、今の俺は違う。
「無駄だよ、第九能力者」
「アア!?」
車が落ちてこない場所が、分かる。
──第九能力者が避けようとした場所に、先に辿り着く。
「じゃあな、第九能力者」
「アアアアア!!」
車の雨が、第九能力者に降り注ぐ。
◆◆◆
「アアアアア!」
「……やっぱり、そう来たか」
車は第九能力者に当たる前に、『消えた』。
消した、と言った方が正しいだろう。
予想はしていたが、本当に消すとは。
──やっぱり、強敵だな。
「──後ろだ!」
「ア!?」
気配を感じる前に、再び振り返って拳を突き出す。
俺の拳は、『後ろに現れた』第九能力者の腹にヒットする。
「アアアアア!」
「なんで後ろに現れることが分かったのか、知りたいようだな」
「アア──!?」
自分の考えが読まれて、驚いている。
なぜ分かったのか。──簡単なことだ。
「お前が発しているのは、叫び声じゃない。──一種の『言語』だ」
「ア!?」
「今のお前は『アアア』としか発音していないようだが、それでもお前は『喋っている』」
「アアア……」
『アアア』としか喋れない理由については、予想がついている。
発音を『ア』だけにすることで、戦いに集中しているのかとも思ったが、それは違う様だ。
第九能力者の発する言葉には、ちゃんと意味が込められている。
「喋ることに何らかのトラウマがある、ってところか」
「──!……アアアアア!!」
怒りながら、俺に向かって突進してくる。
どうやら、正解だったようだ。
「お前の気持ちまでは分からないが、お前の動きはもう読めている!」
左手で腹を殴ろうとしてきたので、俺は右手でそれを払い、受け流す。
「背中が空いてるぜ、第九能力者!」
「ア!?──ア……アア!」
俺に背中を殴られ、うまく話せないようだ。
「アアアアア!?」
「なるほど、『なんで俺の言葉が分かるんだ』か」
「……!」
教えてやっても、問題はないだろう。
「俺の能力で、お前と俺を繋いだ。だからお前の話す言葉が理解できた。──それだけのことだ」
最近は『人と物とを繋ぐ能力』の方しか使っていなかったが、俺の最初の能力はこっちだ。
『人と人とを繋ぐ能力』が進化したことで、相手の考えや話している言葉も、理解できるようになったらしい。
「……だ、った、ら」
「──!」
第九能力者が、日本語を話し始めた。
「早く、殺し、て、おかないと、な!」
トラウマを乗り越えようとしているのだろうか。
──本当に、強い奴だ、こいつは。
「殺し、て、やる、……『惑星』!」
「『惑星』──それがお前の能力名か、第九能力者!」
「ああ、そうだよ、第十、能力者ぁ!」
──違和感。
漢字まで分かったことについては、俺の能力を使ったと考えればいいので、そのことについてではない。
違和感を覚えたのは、能力名についてだ。
『複製する能力』なのに、なんで『惑星』なんて大層な名前が付けられているのだろう。
──え、まさかとは思うけど。
「第九能力者、お前……惑星も複製できるのか?」
「俺の、近くに、あるものなら、なんでも、できるさ!」
ってことは、地球を複製したことがあるのか、こいつ。
──強敵どころじゃないじゃん!
「……ところでお前、さっき能力名を叫んでいたが──何も起こっていないぞ?力尽きたのか?」
「甘いね、第十、能力者。俺の、能力で──車を一台、降らせたんだ、よ」
「は?車なんてどこにも……ん?」
上空から、妙な音が聞こえる。
燃えているのだろうか、真っ赤な何かが落ちてくる。
え、まさか隕石?
──いや、違う。
あれは──!
「隕石じゃなくて、車!?」
車は、燃えながら俺に向かって落ちてくる。
──あ、これ、やばいかも。
「死ね、第十、能力者!」
「あ、待て!」
第九能力者の奴、俺を置いて逃げやがった。
って、本当にまずくないか。
隕石のことについては詳しくはないが、直撃しなくても衝撃波とかが当たれば、無事では済まないだろう。
「──くそっ!」
竹部さんは、俺の力を信じて送り出してくれたのに。
俺は──まだ弱い。弱いんだ。
──だったら、プライドなんか捨ててしまおう。
「誰か、助けてくれ!──『円滑』!」
目を瞑って、俺の全ての力を込めて、叫ぶ。
誰でもいい、助けてくれ。
俺はまだ、死ねないんだ!
『──私たちが、助けてあげましょう』
叫んだ直後。
誰かの声──否、『何かの声』が、耳に入ってきた。




