11話 遭遇
「『高橋』──っと、ここだな」
このゲームの主人公『高橋幸助』の家に着く。
家の外観がゲームに出ていたので、すぐに見つけることができた。
あと1分もすると、主人公の携帯にメインヒロインからメールが来るはずだ。
そして、ゲームの通りなら。
「行ってきます!」
主人公が家から出てきた。
「あいつから連絡が来たってことは──やっぱ、そういうことなのかな」
主人公はこの時点で、告白されることが分かっているような言葉を発するのだ。
メッセージをスキップして選択肢だけチェックしてきたから、ちゃんとゲームをプレイしたって訳じゃないけど、なんとなくは把握している。
──この主人公、メインヒロインのことが前から好きなはずなんだ。
それなのに、主人公は告白を断ることになる。
何が原因なんだろうか。
……まあ、その辺は。
「よ、高橋」
「い、厳島?」
主人公に、直接訊いてみるかな。
◆◆◆
主人公の家の近くの公園まで、歩いて行く。
ゲームだから場面がワープするのかと思ったが、そんなことはなかった。
「で、一体なんだ?俺は急いでいるんだが」
「なんでそんなに急いでいるんだ?女子にメールでももらったのか?」
「え──」
なんでお前が知っているんだ、と言いたそうな顔をする。
だが、すぐ元の顔に戻り、話し始める。
「……お前、エスパーか何かなのか?」
「エスパーなんかじゃねえよ。──なあ、高橋」
公園の遊具で遊ぶ子供を見ながら、話す。
「告白されたら、断るのか?」
「……お前は知ってるだろ?去年、俺が星が見えるあの場所で、女子にフラれたのを」
「え?……あ、ああ、そうだな」
そんな過去、ゲームの中じゃ出てきていないし、説明書にも書いていなかったはずだ。
突然、周囲が暗転する。
『俺はあの日、一人の女子に告白した』
──ああ、回想か。
『その女子は、笑ってこう言った。
──騙されてることに、まだ気付かないんだね、って』
──へ?
『好きなふりをしてあげていただけなのに、気付かないって、頭大丈夫?──って言われたんだ。
俺はそれ以来、女子から距離を取るようになった。
当然、女子は俺から離れていった。
でも、あいつは違った』
ああ、よくある話だな。
『あいつは、ずっと俺についてきた。
すぐに分かった。
こいつは、俺のことが好きなんだ、って。
でも、不安なんだ』
──周囲が、明るくなる。
「俺は、あいつのことが好きだ。でも、俺は──」
つまり、だ。
告白時の選択肢が悪かったってことか。
告白された時の選択肢には、『ずっと前から好きだった』みたいなことが書かれていた。
1年前に違う女子のことを好きだったんなら、この選択肢はおかしいだろう。
それと、自我を持ったというよりも、『過去を持った』という方が正しいのかもしれない。
さすがに、このバグはゲーム会社の人には見つけられなかっただろう。
──適当にアドバイスしておくか。
「なあ、高橋」
「……なんだ?」
といっても、恋愛経験は皆無なので、簡単なことしか言えないが。
「お前の今の気持ちを、そのまま言ってこいよ」
「今の、気持ち──」
「ああ。ずっと好きでいてくれたあの娘と違って、お前はまだ少しの時間しか、好きだと感じたことはないんだろう。だけど、その気持ちは本物なんだろ?」
「──ああ、本物だ!」
力強く、主人公は頷く。
「お前のおかげで決心できた。──俺は、駄目だなあ」
「あはは、確かに駄目かもな。でも、あの娘を思う気持ちだけは、誰にも負けていないだろ?」
「ああ!じゃ、行ってくる!」
立ち上がり、主人公は走って公園から出て行った。
(過去を持った、ゲームの登場人物、か。──面白いこともあるんだな)
そんなことを考えながら、数分後。
また、周囲が暗転する。
そして、軽快な曲が流れてくる。
(お、ハッピーエンドかな?)
予想通り、ハッピーエンドの文字が流れてくる。
「ふぅ。これで依頼達成ですか、竹部さん?」
……。
あれ?
「竹部さん?寝てるんですか?」
……返事がない。
ひょっとして、竹部さん、このシナリオに泣いていたりするのかな?
それなら、数分だけ待ってあげるか。
◆◆◆
数分待ってみたが、うんともすんとも言わないのだが。
こっちはエピローグも見終えて、タイトル画面でずっと待っているっていうのに。
「竹部さん?俺、もうゲームから出ますよー?」
……やはり、返事は帰ってこない。
トイレに行ってたりするのかな?
それなら、仕方ないか。
目を閉じて、帰りたいと念じる。
目を開けると、そこは研究本部の一室──
◆◆◆
──ではなく、廃墟と呼ぶべき建物の中だった。
「……は?」
目の前には、瓦礫の山。
その上に、見知った顔の女性の──横たわる姿。
「竹部さん? ……竹部さん!?」
呼んでも返事がない。
駆け寄ってみるが、何の反応も示さない。
「し、死んでる──」
「……こら、勝手に、殺すな」
よかった、息絶え絶えだが、生きているようだ。
「一体何があったんですか、竹部さん。──ここ、現実ですよね?」
「ええ、現実の、研究本部よ。……ごほっ」
よく見ると、竹部さんの頬に、血を吐いた跡がある。
「誰がこんなことを……」
「……あいつよ」
「あいつ?一体誰なんですか!」
「──逃げて」
え?
「逃げて。あたしのことはいいから、逃げて。あいつは、手加減を知らない。殺すことしか考えていない。──頼むから、逃げて」
「そんな……そんなことできません!竹部さんがこんな状態なのに、俺だけ逃げることなんてできないですよ!」
「……やっぱり、あんたは凄いよ。能力者としては、弱いかもしれないけど。でも、人間としては──」
俺の手を握る力が、弱まっていく。
「竹部さん!しっかりしてください!竹部さん!」
「……逃げ、て……」
竹部さんの手から、力が抜ける。
「そん、な……」
瞬間、気付く。
俺の後ろでする、足音に。
まずい、やられる──!
◆◆◆
「──五十嵐君?」
「る、瑠璃さん?」
俺の後ろに立っていたのは、瑠璃さんだった。
「瑠璃さん!竹部さんが、死んでしまって──どうすれば、俺、どうすれば──!」
「落ち着きなさい、五十嵐君。私の能力は、死人も生き返らせることができるのよ」
そう言って、瑠璃さんは竹部さんのそばに座る。
「──『回復』」
よ、よかった……とにかく、これで一安心だ。
それにしても、酷い有様だな。
ここから見える範囲だけで言うと、研究本部の半分ほどが壊滅している。
よく見てみると、壁に横たわっている研究員もいる。不思議なことに、全員死んではいないようだが。
なぜ、全員死んでいない?
──ま、まさか!
「あ……」
「瑠璃さん!」
竹部さんを治療していた瑠璃さんが、後ろに倒れた。
「瑠璃さん、どれだけの人数を生き返らせたんですか!?」
「……100人を過ぎてからは、数えていないわね」
「そ、そんな……」
最初に瑠璃さんと会ったときに、『重症の人を治すときは、それなりに疲れる』と言っていた。
そのときの言葉が本当なら、今の瑠璃さんは相当な疲労を感じているはずだ。
「……五十嵐」
「た、竹部さん!大丈夫ですか!?」
「ええ、第五能力者の、おかげね。──五十嵐」
「な、なんですか?」
俺の目を真っ直ぐに見て、竹部さんは話す。
「ここまで来たら、あんたも巻き込むことになるけど、それでも、いい?」
「もちろんです!」
当然だ。
「俺だって、能力者なんです。俺にできることがあれば、言ってください!」
「……じゃあ、言うわね。──第九能力者を、倒してきて」
……第九能力者。
瑠璃さんが言っていた、気を付けなければいけない能力者、か。
──面白い!
「分かりました!竹部さんと瑠璃さんは、ここで休んでいてください。……では!」
「頑張ってね、五十嵐!」
「はい!」
これ以上被害を出さないために、戦わなければ。
◆◆◆
手掛かりがなかったので、とりあえず駐車場まで出てきた。
広い場所なら、相手も俺を見つけやすいだろう。
『……やめなさい、新庄君』
(──!)
近くで神林さんの声がした。
あ、神林さんの車の横に、神林さんと──誰かが向かい合っている!
「神林さん!」
「い、五十嵐君!?」
「……」
神林さんが気付いたので、当然、その『誰か』も俺に気付く。
「……アアアアア!」
「な、なんだ!?」
『誰か』が吠えたと同時に、『車が現れた』。
──俺の頭上、5メートルほどに。
「うわっ!?」
咄嗟に左に跳ねたので、避けることができた。
危なかった、あと1秒遅ければ、ペチャンコになっていたところだった。
「──ア?」
『誰か』は、俺が避けたことを不思議に思っているのか、首をかしげて俺を見ていた。
──間違いない、こいつだ。
「お前が第九能力者、だな?」
「──アハハハハ!!」
そいつは、大きな声で笑い始めた。
俺の言葉に喜んだのだろうか、感情が掴めない。
「五十嵐君!君じゃこの子には勝てない、早く逃げてくれ!」
「嫌ですよ、神林さん」
逃げることなんて、できないだろう。
「みんなをここまで苦しめてくれたんですから、その分はきっちりとお返ししなければ」
「まだ分からないのか、五十嵐君!君まで犠牲になってしまっては、もう後が無くなってしまうだろうが!」
「分かっていないのは、神林さん、あなたですよ」
「な、何を言って──」
何にも、分かっていない。
「目の前にハードルがあったら、飛び越えたくなるんです。そういうタイプの人間なんですよ、俺は」
「五十嵐君、いい加減に──」
「アアアアア!!」
「──っ!」
第九能力者(たぶん)が俺めがけて突進してくる。
チャンスだ。
「第九能力者、こっちだ!」
「アア!?」
誘導するような真似をした俺を、不思議に思ったのだろうか。
奇怪な声を上げながら、第九能力者は追いかけてきた。
さっと見た限りだと、『あの場所』は無事らしい。
ひとまず、あそこに向かおう。
◆◆◆
多目的室。
「ふぅ、なんとか誘導できたな」
「アアアアア!!」
誘導している途中、後ろで爆発音が聞こえていたので、かなり怖かった。
──だが、その怖さも自分の物にしないと、こいつには勝てない。
「拘束してくれ、『円滑』!」
「──!?」
俺とこの部屋の全ての機械を繋ぐ。
1秒後、室内の全ての機械が、第九能力者に向かって一斉に電磁波を放つ。
機械たちは、一瞬で俺の考えを読み取ってくれたみたいだ。
「竹部さんのを真似してみたけど……これ、結構便利だな」
「アアアアア!」
塵も積もれば山となる。ことわざ通りの技だ。
「……アアアアア!!」
「何!?」
第九能力者が、こちらに向かって歩いてくる。
拘束が効いていない?
……いや、電磁波での拘束を受けながら、歩いているんだ。
あいつ、死ぬつもりか──?
「やめろ第九能力者!死にたいのか!」
「アアアアア!!」
『『痛いよ、痛いよ、痛いよ』』
まずい、機械たちが悲鳴を上げている!
「もう大丈夫だ、機械たち!あとは俺が何とかする!」
『『ごめんね、拘束を解くよ』』
「気にするな!──さて、と」
第九能力者は──あれ?
「アアアアア!!」
「う、後ろ!?」
背中を殴られ、吹き飛ばされる。
受け身を取ったので、壁に激突するのは避けられた。
「な、何が起こったんだ──?」
一瞬目を離した隙に、後ろに回り込まれていた。
瞬間移動でもしたのか──第九能力者の能力の一つなのか?
「──俺、第九能力者の能力、一つも知らないじゃん!」
しまった、こんなことなら竹部さんから聞いてくればよかった。
どうしよう、こんな状況で第九能力者を倒せるのだろうか。
「冷静になれ、俺!何か方法があるはずだ、何か──あ!」
「アアアアア!!」
「うわっと!」
また背中を殴られそうになった。
また、回り込まれていたのか?
っと、それよりも。
「今はこの方法しかない。はっ!」
「アア──!?」
俺が一瞬で消えたことに、驚いているのだろうか。
第九能力者は、目を真ん丸にして『パソコン』を見ていた。
──妙な動きはしないでくれよ、第九能力者!




