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2014年/短編まとめ

夏色の僕ら

作者: 文崎 美生

「あーづーいー」


馬鹿みたいな大声を出す親友の肩を思い切り叩く。


教科書のほとんど入っていない黒い革のスクールバッグを肩にかけ、緩くウェーブのかかった髪を一つに束ねた彼女。


ワイシャツのボタンを一つ外してネクタイを緩める。


学校を出てしまえば完全にオフモードに変わっている。


「アイス買ってくべ、アイス」


先程までの堅苦しい真面目キャラはどこへやら。


生徒会長の椅子から降りれば彼女はいつも通りに変わり、私の背中を押してコンビニを目指す。


はいはい、なんて返事をしながらも自転車を押す速度を早める私も、彼女には大概甘いな。


ダブルのソーダバーを買った彼女は、それを半分に折り私に片方寄越した。


ゴミ箱に袋を捨てる彼女の背にお礼の言葉をかけると、ふるりと首を横に振っていた。


その代わりにと私の自転車のカゴの中に、無造作に自分の鞄を突っ込んだ。


そして私から自転車を奪いサドルに跨がる。


口にアイスを咥えたまま。


乗って乗ってと後ろを指さす。


二人乗りは交通法違反なんだけどなぁ。生徒会長の癖に。と私が笑えば彼女は、生徒会長も人間だよ。なんて答える。


私は苦笑を漏らしながら自転車の後ろに跨がる。


「いっふよー」


アイスを咥えながらなので締りがない。


彼女はグッと力強くペダルを踏み込んだ。


風が頬を撫でる。


前でペダルを漕いでいる彼女の匂いが、私を包んでいた。


力を込めてペダルを踏む彼女を後ろで揺られながら見つめる。


アイスを咥えたままなので、彼女は時折もごもごと苦しそうな呻き声を上げていた。


彼女はスピードをつけるために立ち漕ぎをし始める。


危ない、と言いながら私は彼女の腰に手を回す。


片手で腰を抱えて片手でアイスを持つ。


暑さで徐々に溶け始めたそれは小さく手のひらに雫を落とす。


それを舌で舐め取りながら彼女の背中に頬をくっつけた。


心臓の音が少し早い。


この辺で一番長くて険しい坂道に向かって、自転車を漕いでいるのだから当然といえば当然だ。


食べ終えたアイスの棒を歯で噛み締めながら、彼女はペダルを踏む感覚を早くする。


苦しそうな呻き声を上げているので、変わると言うとあからさまに眉を寄せて嫌そうな顔をするのだ。


そして更に力を込めてペダルを踏む。


結い上げた髪が乱れている。


「あっと、少しー!」


馬鹿でかい声でそんな宣言をする。


無理なら変わるのに、と私も彼女を真似てアイスの棒を歯で噛み締めた。


ぎゅっと彼女の腰周りに、振り落とされないように抱きつけば振り返って笑う。


近所の人とすれ違えば「相変わらず仲いいわねー」なんて笑われる始末。


それに対しても彼女は額を汗を浮かべながらも笑顔で答える。


後ろに乗っている私は何とも言えない気持ちになり、会釈をして俯くのだ。


肌とワイシャツの隙間を通り風が体を撫でる。


「登ったどー」


坂道の上まで来ると、彼女はハンドルから手を離して空に向けて突き出す。


小さく息を乱す彼女。


さわ、と吹いた風は少し熱気を帯びていた。


へらへらと締りのない頬だ。


交代しようかと申し出たがそれはあえなく却下された。


「帰ったらシャワー浴びなきゃ」


汗の滲んだワイシャツを見て苦笑する彼女。


仕方ないわ、夏だもの。そう言った私にそうだよねぇ。と頷く彼女。


そしてまた自転車のハンドルを握る。


生温い風が私達の間を横切る。


「よっと」


軽い声を上げて地面を蹴った彼女の足。


ゆっくりと動き出す自転車のペダルに足を乗せて、そのまま坂道を下り出す。


マズイ、と思った。


ザッと血の気が引いて顔が青白くなった気がした。


いや、多分青白い。


彼女は下り坂だというのに、あれだけの上り坂の下り坂バージョンだというのに、ペダルに足を乗せ漕いだ。


勢いが増して事故るのではないかというスピードを出す私の自転車。


夏空には私の悲鳴と彼女の笑い声が響いた。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 文が読みやすいです。 共感というのか分りませんが、主人公たちの気持ちがわかる気がします(坂道を猛スピードで下るのが楽しい気持ちとか)。 PS.コメント下手くそですいません・・・ [一言] …
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