別れ
俺の三歳の誕生日に、シャルが死んだ。
その事実は、俺こと、ロイド・ユースタンスと、その父親、ミスタ・ユースタンスの心に癒えることの無い傷跡を残した。
シャルが死んだ次の日。
ユースタンス家では、家族会議が開かれることになった。
二人は今、庭にある簡易的な椅子に座り、机をはさんで向かい合っていた。
家の中で行わないのは、臭いが酷いからだ。
人の焼けた臭いが。
最初に口を開いたのは、ミスタだった。
「ロイド、大丈夫か?」
ミスタは心配そうに尋ねるが、それはこっちの台詞でもある。
ミスタの目は赤く腫れ上がっており、泣いた事が見てとれる。
目の下には隈があり、昨夜一睡もしてない事が伺える。
「大丈夫です。」
俺は機械的に答える。
このやり取りは、昨日から何十回もやっており、もう答えは分かっている。
だが、それでしか会話が続かないのは、今からする話が切り出しにくいからだ。
しばらくの沈黙が訪れる。
この沈黙も、昨日から何十度か続いてる。
しばらくして、ミスタが口を開く。
だが、言葉が出ない。
口が開きかけては閉じ、また開きかけたら閉じる。
それを何度か繰り返した後、ミスタが決心したように口を開いた。
「俺たちはお母さんを失い、家も失った。家はまあ…住めない事は無いが、あの様だ。ここはお母さんの墓にしようと思う。」
ミスタはできるかぎり優しい声で話してくる。
「はい… 僕もそれが… いいと思う…」
もう、子供の振りをする余裕も無い。
一人称は僕であるが、喋り方は前世とほぼ同じで、子供として限りなく怪しい。
ミスタはそれを気づいているのかいないのか、何も言わない。
また、沈黙が訪れた。
今度は、先程よりもずっと長く。
そしてまた、ミスタが口を開く。
「色々な問題が山済みだが、ロイドはとりあえず、修道院に預けようと思う。」
「!!!!!!!!」
唐突に告げられた事実に俺は驚きを隠せない。
この世界の事はよく分からないが、俺は一つの事を確信した。
ミスタとは離れ離れになる。
「修道院には、お前と同じくらいのガキが大勢いてな。きっと友達も出来る。」
ミスタに一言言おうと思って、俺はミスタの顔を見たが、とても辛そうな顔をしていた。
それでも俺は、一縷の望みをかけて、ミスタに尋ねる。
「お父さんも… そこに行くんですよね?」
俺に尋ねられた時、ミスタは一瞬顔を俯かせるが、真っ直ぐに俺の目を見て、はっきりと言った。
「お父さんは…」
「お父さんは、ロイドとは行けない。」
その言葉をきいた瞬間、切れた気がした。
この世界で生きていくために張り詰めていた糸が。
「じゃ、じゃあ、僕は… 僕はどうすればいいんですか!?」
俺は突然、ミスタに向かって怒鳴る。
ミスタはそれに目を大きく見開き驚いていたが、すぐにキリッとした顔になり、はっきりと言った。
「お父さんは、やらなければいけない事がたくさんある。
ロイドは、修道院のシスターさんを頼れ。」
ミスタの声は優しかったが、俺は突き放された気分になった。」
「僕もお父さんも一緒に行きます!!」
「駄目だ。」
必死に訴えかけたが、ミスタにピシャリと断られる。
「ロイド、お前はその年で魔力を操る天才だが、まだ三歳だ。それに、お前を守りながら生きていく自身も俺にはねえ。」
ミスタのその言葉はこれまで聞いたこと無い冷たい声で、俺は何も言えなくなった。
「………」
俺が押し黙っていると、ミスタがさらに続けた。
「まあ、今すぐじゃないんだ。それまで、精一杯甘えろ。」
ミスタはふっと息を吐き、いつものような優しい口調で言う。
すると、目頭が熱くなる。
駄目だと思いながらも、止められない。
俺はその言葉で泣いた。
声は漏らさなかったが、涙が留めなく零れ落ちた。
一週間後、俺は修道院へ行く事になった。
俺たちが住んでいるユクゼリアという村から、馬車で半日程進んだ先に、リオンド王国という所まで行く。
ユクゼリアもリオンド王国の支配下であるらしく、国内を移動するだけらしい。
そして一週間後、俺が修道院へ行く日が来た。
「じゃあ、元気でな。」
俺が馬車に乗り込もうとしていると、ミスタが笑顔で見送りの言葉をかけた。
その言葉に涙が出そうになるが、ぐっとこらえ、ミスタの方を向く。
「はい。お父さんも、お元気で。」
俺は包み隠すことなく、自分の本心を伝えた。
子供の振りではなく、素のままの自分で。
それを聞いてミスタが安心したように微笑むと、俺は馬車に乗り込んだ。
馬車は進みだす。
ロイド・ユースタンスを乗せて、リオンド王国へ。
進みだした馬車の中でロイドは一週間前の事を思い出していた。
ミスタと離れ離れになると知り、ワガママを言っていた時の事を。
あのワガママは、俺が子ども扱いされたからじゃない…
俺が、一人になる事が怖かったからだ。
なんて嫌な奴だよ…
己の弱さを恨みつつ、ロイドは新たな決意をする。
大切な人を守る事の出来る力を手に入れる…!!
同時刻、ミスタもロイドと同じ時の事を思い出していた。
俺が弱いせいで、ロイドを一人ぼっちに…!!
そう言って、無意識の内に拳を握りしめる。
俺に、全てを守るだけの力があれば…!!!
二人ぼっちの家族は、それぞれの思いを胸に抱き、同じ決意をする。
二人がまた再開できる事を信じて。