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剣と魔法の異世界ライフ  作者: 春夏秋冬
ユースタンス一家
7/18

生と死

俺は今、二歳と十ヶ月の赤ん坊だ。

とは言っても、もう自由に歩く事も出来るし、言葉だって喋れる。

なんと言っても、俺は魔力を扱う事が出来る。

この世界でそれがすごい事なのかはあまり分からない。

何でかって?

それは、俺がこの世界に転生したロイド・ユースタンスだからだ。


この頃、俺の魔力の扱いの成長は目まぐるしい。

二歳ちょうどの頃には二分ほどかかっていた魔力を纏う事も、三十秒に短縮された。

魔術も、炎の他に水や風、土などを作る事が出来るようになっていた。

もっとも俺の父親のミスタ・ユースタンスは魔力を纏う事は五秒かからないし、魔法もまだ初歩的なものしか使えない。

だから、俺は、今日も修行だ。

まだ見ぬ何かに、胸を躍らせながら。


修行の内容は最初の頃とほぼ変わらない。

ミスタとは魔力を纏う事をひたすら繰り返す。

最近は少し成長したので筋トレもやっているが、ほぼ同じことの繰り返しだ。

ちなみに、魔力を纏う事を魔装なんて呼ぶそうだ。


俺の母親のシャル・ユースタンスは色んな系統の魔法を教えてくれる。

基本的には、魔力に色を付ける事でその色に合った魔法を出している。

色んな種類の魔法を覚えたはいいが、実践には程遠い。

そして、魔法には覚える事が多い。

魔法一つ一つの名前や詠唱、魔力についてなどと、机と睨めっこする時間が多い。

以前から気になっていたので、魔法の詠唱は何故必要か聞いてみると、魔法の詠唱をする事で効果が高まるらしい。

何でも詠唱により意識しづとも魔力が自動的に反応して魔法に変わるのだとか。

詠唱無しだと、魔法の発動が早くなるが威力が弱くなる。

反比例の法則だと理解して、妙に納得がいったのを覚えている。


もうすぐ俺は三歳だ。

それまでには剣術の修行はしたいし、魔法だってより実践的な修行をしたい。

すこし、早すぎる感じもあったが、実現するように日々努力している。


かなりの親馬鹿なミスタと、優しい笑顔のシャル。

俺はそんな二人に囲まれて幸せに暮らしていた。


しかし、幸せとは長くは続かない。

それは波打ち際の砂の城ほどひどくもろい。

そして、幸せが壊れる時は、ある日突然、逆らいようのない運命の様に訪れる。



俺は今日、とても浮かれていた。

何てったって、三歳の誕生日だ。

ミスタにはとびきり美味い肉を食わせてやると言われているし、シャルからはとびきりのプレゼントがあるらしい。

ミスタは近くの山に今宵のメインディッシュを取りにいっているらしく、今この場にはいない。

なので俺はシャルととりとめもない話をしていた。

「おとうさん、何をとってくるのかなあ。」

「とっても大きい熊の肉かも知れないわ。」

「おいしいのかなあ。」

「きっと、美味しいですよ。ふふ。」

「何もとることができなかったらどうしよう。」

「その時は野菜だけで我慢しましょうね。」

「えーーー。」

「ふふふ。」

そんな胸の暖かくなる幸せな会話をしている時、一つのノック音が聞こえた。


俺はミスタが帰ってきたと思い、玄関に近づく。

しかし、俺は気づいてしまった。

ドアの隙間からこちらを見る見知らぬ視線に。


途端に足が震えだす。

その震えが全身に広がり、上の歯と下の歯が当たる音が聞こえる。

声が出ない。先程から聞こえてくるのは、上の歯と下の歯が当たる音だけだ。

がちガチガチ。がちがち。がちガチガチがちがちガチがち。

異変を察してか、シャルが心配そうに声をあげる。

「ロイド、どうしたの?」

すると、扉を蹴り破り、家の中にズカズカと入ってくる男達。

すぐさまシャルが俺を抱きかかえ、部屋の奥まで後ずさる。

シャルが一度だけ俺の方を向いて一言。

「誕生日、おめでとう。」

そう言うとすぐさま魔法で簡単なシェルターを作る。

『アースウォール』

完成していくシェルターの隙間から見たシャルは、いつもと同じ笑顔だった。


……何時間経っただろうか。

シャルがあの後、どうなったかは知らない。

いや、本当は知っている。

シェルターの中にまでする臭い、かすかに聞こえた断末魔。

シャルはあの後、焼いたのだ。

自分の持つ最大火力の魔法で、男達を。

そして、シャルがこの魔法を解除しない理由。

それは、シャルの死を意味する。

男達が死んだ事には微塵も興味が無い。

だが、シャルのあの声に、手の温もりに、あの笑顔に。

シャルにもう二度と会えないのかと思うと、涙が止まらなくなり、吐いた。

何度も、何度も、それの繰り返し。

今の俺は、前世とは比べ物にならない程、死にたかった。

何も出来なかった自分に腹が立つ。

シャルに助けられ生きている自分に腹が立つ。

今生きている事を喜んでいる自分に腹が立つ!


いっそ本当に死んでしまおうかと思った時、光が差した

……眩しい。

そう思い、光の出所を見ると、ミスタが心配した顔をしてこちらを覗き込んでいる。

…酷い顔だ。

ミスタは憔悴しきっており、今にでも倒れてしまいそうだ。

そんな事を考えていると、ミスタに抱き上げあれ、強く抱きしめられた。

一瞬驚いたが、ミスタの暖かさに自然と涙が込み上げてきた。


その日、俺たちは一日中泣いた。

涙の枯れるまで、二人で。


俺の三歳の誕生日には、母の命が奪われた。

人生で一番最悪で、一番最高な、忘れられない誕生日だった。


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