魔法の修行
これまで一週間は、ミスタとの修行だった。
修行といっても、魔力を纏う事の繰り返しだ。
それは俺が二歳だから、仕方の無い事なのだろう。
そして、今日からは、シャルが魔法の特訓を付けてくれるそうだ。
魔法は俺の中では珍しいので、正直に嬉しい。
父親からは剣術で母親からは魔法。
俺はかなり恵まれていると思った。
魔法の修行も庭でやるらしいので、俺は待っているが、一向に来ない。
迎えに行こうかと思った矢先、小走りでくるシャルが見えた。
「ごめんね。遅くなったわ。」
そう言うと、シャルは笑ってみせた。
魔法の授業が始まった。
「ロイド、魔法ってのはね、体内にある魔力を使うのよ。」
シャルは言うと、手のひらをかざした。
『火炎弾』
そう言うと、シャルの手の平の10センチほど上に火球ができた。
「これを作る時は体内にある魔力を両手に集めて、それを火とするの。」
そう言われたが、魔力を火とするにはどうすればいいのか。
「どうやって、まりょくを、火にするの?」
疑問を口にすると、シャルは答えてくれた。
「魔力は細かい粒みたいな物で目に見えないんだけど、その粒一つ一つを赤色にする感じかな。」
なるほど。さっぱりわからない。
この世界の人間には感覚派が多いようだ。
科学が発達していないせいか、理由がふわりとしている。
まあ、一応やってみるが。
「やってみる。」
「頑張って。」
シャルの優しい声援を聞いて、俺は目を閉じる。
イメージは暗闇の中。
蛍のように光る無数の魔力。
それに火を付ける。
俺はイメージの中である一つをじっと見つめ、これもまたイメージで着色していく。
徐々に赤みを帯びていき、はっきりとした赤になったとき、変化が訪れた。
「…あつい。」
体の体温が少しばかり上がった気がする。
炎こそ出なかったが、熱は生み出せた。
「ロイドはすごいわね。」
そう言って頭を撫でてもらう。
俺は前世ではそんな事で喜ぶ年ではないのだが、頭を撫でられるというのは、悪くない。
「でも、魔力を一箇所に集めきれてないわ。」
そういってシャルにアドバイスをもらう。
この調子でいけば、魔法も使える…!
そんな確信が俺の中にあった。
数時間程経った後、俺はやっと火球を出す事が出来だ。
しかしそれは、とても小さく、風でも吹けば消えてしまいそうだ。
「本当にロイドはすごいわね。
この年で、しかもこんな短時間で魔法が使えるなんてすごいわ。」
シャルには人を褒める才能があるのかもしれない。
褒められすぎて天狗になってしまいそうで、逆に怖い。
「じゃあ次に行くね。」
シャルはまた火球を作る。
今度は詠唱無しでだ。
今度詠唱の有無に聞いてみるか。
そんな事を考えていると、シャルが説明しだした。
「魔法は自分の魔力だけで作ることも出来るけど、それだと少し弱いの。
だからこうやって周りにある魔力を集めて強くするの。」
そう言ったシャルの手のひらの火球は二倍ぐらいの大きさだった。
「これはちょっと難しいから、ロイドはまだ無理かもね。」
なるほど。放出と吸収を同時に行うか。
確かにこれは難しそうだ。
「やってみる。」
それでも、あくまでひた向きにだ。
実際にやってみると、そうでもなかった。
この感覚は、ミスタとの修行に似ている。
そう伝えると、シャルはしばらく考え込んでいたが、閃いたらしい。
「ロイドは無意識の内に周りの魔力を纏っていたのね…」
ブツブツと呟いてから、俺に笑顔を向けた。
「ミスタが天才と言うのも分かるわ。すごい子ね。ロイドは。」
また褒められて今度はちょっぴり恥ずかしくなった。
これ以上褒められると付け上がりそうなので、心を鬼にして自分に罵倒を浴びせ続けた。
……別に、マゾとかじゃないからな。
今回の事で、確信した。
俺は、この世界でも器用なようだ。
かつての俺のコンプレックスが勇気を与えてくれる。
……器用でいいじゃないか。
……器用貧乏でもいいじゃないか。
心の中でそんな事を呟きながら、俺は自嘲ぎみに笑った。
俺の新しい人生が順風満帆である事を願って。』
『火炎弾』の所に振り仮名が出ていませんが、フレアショットです。