ロイド・ユースタンス
扉を開けると、見渡す限りの草原が広がっていた。
まるでモンゴルだな。
そんなことを考えていると、白ウサギが突然、
「いいかい、ロイド君。」
と、話しかけてきた。
やはり顔には悪い笑顔が張り付いている。
「この世界は、剣と魔法の世界。
分かりやすく言えば、ベタなRPG世界だよ。」
そう言いながら白ウサギは歩き出した。
「この世界の基本は魔力でね。
全ての事柄が魔力によって成り立っているんだ。
さっきの指パッチンも魔力のお陰だよ?」
白ウサギはひらひらと両手を見せびらかす。
「君はそんな世界に転生してきた。
どうだい?
胸が躍るだろう?
ワクワクするだろう?」
そんな事を言って顔を近づけてくるが、もんのすごく怖い。
「何か聞いておきたい事はあるかな?」
白ウサギは尋ねるが、俺は何も答えない。
答えないのではなく、答えられないのだが。
「ああ、そうだったね。
君はまだ喋れなかったか。」
白ウサギは指パッチンを一つ、
パチッツ。
「今、君がこの世界の言語を喋れるようにした。
これは魔力とは関係無いんだけどね。」
「あ……」
!!!!!!!!
声が出た!!
見知らぬ土地に連れてこられ、得体の知れない人物が近くにいるのに、声を出さない恐怖と言ったら。
マジでやばかった。
修学旅行、アメ横で外国人に絡まれる学生達の気持ちはこんな感じかと、一人理解した。
「あ…貴方は……何者なんですか…。」
そう尋ねると、白ウサギは
「んー 僕は僕だよ。」
と、曖昧な答えを返してきた。
「では、なんと呼べばいいでしょうか。」
ここは引かずにくいついてみる。
「自分の好きなように呼べばいいさ。」
と、やはり話してくれない。
仕方なく、僕は白ウサギをラピと呼ぶ事にした。
ラビットでピエロみたいだからである。
「着いたよ。」
俺が考え事をしている内に、ラピは唐突に言った。
「君のすむ家だ。
ここには、ユースタンス夫婦がいるから、便りにするといい。
君は、ここの夫婦の子という設定だからさ。」
俺は少しばかり驚いた。
てっきり、ラピと旅すると思っていた。
まあ、白ウサギと旅するのではないと思うと、少々安心したが。
「分かりました。 ラピさん。」
そう言うと、ラピはからかうように言う。
「それが僕の名前かい?」
「はい。」
「君、面白いね。」
ラピはそんな事を言うと、思い出したように一言。
「ロイドくん、今は子供なんだからさ、もう少し子供っぽくした方がいいよ。」
「はい。」
「素直でいい子だね。じゃあ、またね。」
そんな事を言って指を鳴らすと、俺の意識が急激に遠のいていった。
結局ラピは、終始悪い笑顔を貼り付けたままだった。