芽生えた感情
「…ぐすっ……すん…」
俺は胸につっかえていたものがスカンと落ち、スッキリとした気分になった。
思えばシャルが死んで以来、ミスタには迷惑を掛けまいと、気張っていたのかも知れない。
ただこうして、誰かに甘えたかっただけなんだ。
隣に座っているアヤノをちらりとを見る。
アヤノは俺の視線に気づくと、こちらへ目を向ける。
何だか恥ずかしくなり、思わず目を背けてしまった。
何やってんだ俺は!!
アヤノは俺が泣き止むまでずっとそばにいてくれたじゃないか!!
そう考えるとさらに恥ずかしくなった。
だが、お礼を言わなければいけない。
恥を捨てもう一度アヤノに目を向ける。
アヤノはずっと俺を見ていたようで、図らずも見つめあう形になった。
体温が上がっていくのが分かる。
反射的に目を背けてしまいそうだが、グッと堪え、感謝の気持ちを伝える。
「あ、あの、ありがとうございましゅた。」
今の俺の顔はさぞ赤かった事だろう。
もう…死にたい…。
恥ずかしさに打ちひしがれていると、アヤノがさっきと変わらない声で言葉を返す。
「いいよ、いいよ。困ったときはお互い様。」
俺のほうを見て、笑顔+ウインク。
不覚にも、六歳の女の子の仕草に一瞬ドキッとしてしまう。
俺は少し俯いてしまう。
……別にロリコンじゃないからな。
きっと幼くなっているからそのせいだ!
誰に聞かれている訳でもないのに、心の中で言い訳をする。
すると、アヤノが真剣な表情になり、遠慮ぎみに聞いてきた。
「さっきは……何があったの…?」
彼女が言っているのは、俺が自己紹介の途中で部屋を飛び出していってしまった事だ。
あの時、修道院にいる多くの子供達に目を向けると、たくさんの声が脳内に響いてきたのだ。
色んな声が混ざり合って脳内の駆け巡り、どうにかなってしまいそうだった。
無論、アヤノを見ていても声は聞こえてくるが、不思議な事に気分は悪くならない。
逆に、心地よいとも感じられる程だ。
もっとも、一番不思議な事はアヤノが口を開いている訳でもないのに声が聞えてくる事なんだが。
俺はしばし考えた後、アヤノに思った事を口にした。
普通の状態であるならば、決して会ったばかりの他人にこんな事は言わないのだが、アヤノにならばと思えてしまう。
もちろん、アヤノの声が心地よいなどとは伝えていない。
彼女が俺をどう思っているかは知らんが、変態とは思われたくないからな。
最後まで話を真摯に聞いた後、アヤノは俺の問題に頭を抱えて考えてくれた。
出会ったばかりの俺にだ。
遂には妙な呻き声まで上げていたが、頭上に電球が浮かび上がりそうな表情になった。
「修道院にシルヴァくんって言う同い年の子がいるんだけどね!
その子すっごく物知りだから連れてくるね!!」
それを俺に伝えると、立ち上がり急いでどこかへ言ってしました。
部屋の中がシーンとなる。
一つため息を吐いた後、アヤノについて考え出した。
最初はネガティブになっていて、外見など見ていなかったが、かなり可愛かった気がする。
……本当にロリコンじゃないからな。
いや、本当に。
俺ロリコン説を否定しながら、アヤノの姿を思い浮かべる。
膝まである真っ赤なワンピースに、肩まで伸びた綺麗な黒髪。
スタイルもよく、目もパッチリした二重だった。
よく笑顔が似合う少女だったが、雰囲気は六歳とは思えず頭の中に“お姉ちゃん”という単語が浮かび上がる。
彼女の事を考えていると、体が熱くなる。
鼓動も早くなっており、胸が苦しい。
……そんな訳ない。さっき否定したばかりじゃないか。
頭ではそう考えるが、体は正直だ。
俺がその考えを否定しようとすればするほど、反比例のように心臓のドクドクという音が大きくなり、顔が真っ赤に染まっていく。
まさか…俺は…
鼓動と顔色がピークに達した時、扉が勢いよく開け放たれた。
「お待たせ!連れてきたよ!!」
アヤノがやや赤くなった顔で俺にそう告げた。
俺はノーマークだった為に体をビクリと飛び上がらせる。
アヤノが赤くなっているのは、走ってきたとか、俺とは別物だろう。
鼓動は依然早いままで、顔の赤みも引いてないが、アヤノの後ろに俺よりも一回り大きい黒髪少年がいる事に気づいた。
ゲームで魔術師がよく来ている黄色いローブを着ていてる。
オーソドックスな髪型で、死んだ魚のような目をしている。
外見がどうであれ、挨拶しないとまずいと思い、急いで立ち上がる。
「僕はロイド・ユースタンスと言い…」
「うるせえよ、カス。」
俺の言葉を遮って発せられた言葉に、俺は目を丸くさせる。
…あれ?俺たち、初対面だよな?何で今、罵倒された?
少年の発言の意味を必死に探そうとするが、考えれば考える程、答えは見つからない。
「駄目だよ、シルヴァくん!!」
アヤノの声が聞えてくる。少し怒っているように思えた。
「この口の悪い人がシルヴァくん。口が悪いんだけど…嫌いにならないでね。」
俺、ロイド・ユースタンスとシルヴァの出会いは最悪だった。
シルヴァの印象を言い表すならば、“嫌な奴”。
出会い頭に冒険を吐くような奴にはその一言で十分だった。




