アヤノの優しさ
廊下の壁にもたれ、体操座りで座っていると、扉の開く音がした。
誰かと思い確認したい気持ちもあったが、今はそんな気分ではない。
どうせシスターが来たんだろと思い、顔を膝の間に埋める。
「ロイドくん、どうしたの?」
シスターの声が聞こえた。
「…………」
だが、何も喋らない俺を見て、一つため息をついて優しい声で言う。
「何があったのかは知らないけど、今は言わなくていいわ。
気が少しでも楽になったら、私に所に来てちょうだい。必ず力になるから。」
「アヤノ、この子を部屋まで連れて行ってくれるかしら?」
シスターの言葉から、ここには俺とシスターの他にアヤノという名前の人がいる事を理解した。
名前からして女だろうか。
「分かりました。」
女の子らしい明るい声が聞こえてくる。
その声からアヤノの人物像について考えるていると、扉の方へ歩いていく足音と、俺の方へ近づいてくる足音が聞こえてきた。
「じゃあロイドくん、行こっか。」
アヤノは俺に話しかけるが、俺は構わず無視だ。
「ロイドくん、聞こえてる?」
アヤノはまた話しかけてくる。
それでも無視し続けていると、アヤノが俺の手をとって、そのまま引っ張る。
そのままつんのめらないように、よろつきながらも立ち上がると、アヤノはさっと俺の顔を覗き込み、何も言わずに輝かんばかりの笑顔を浮かべた。
今俺は、アヤノに手を引かれ廊下を歩いている。
廊下には二人以外誰もいないし、アヤノも喋らないので、二人の足跡だけが聞こえてくる。
そんな状態でしばらく歩くと、アヤノが一つの扉をあけ、中に入っていった。
最初に俺がいた部屋とは、違うようだ。
「よいしょっ。」
アヤノは近くにあったベッドに腰掛けながら、じっと俺を凝視してくる。
しばらく俺は扉の前に無言で立ちすくんでいたが、アヤノの視線に耐えかね、扉を閉めて壁にもたれかかりながら座った。
「私はアヤノっていうんだ。六歳なんだー。よろしくね。」
アヤノは足をブラブラさせながら、俺の方を見て自己紹介を始めた。
「ロイドくんは何歳かな?私と同い年?それとも年下?」
俺にも質問を投げかけるが、相変わらず無視だ。
それでもアヤノは喋り続ける。
「さっきの落とし穴でどこか怪我してない?
犯人はギルティくんっていう四歳の男の子なんだけど、許してあげてね。」
「ロイドくんは魔法を使えるんだねー。他にも何か出来ることある?
私はねー、炎と、水と、風と、土と…あと治癒もできるんだよ。」
気がつけば俺の目の前にきていた彼女が、心配しそうな目でこちらを見ている。
何だか俺は目が逸らせなくなり、アヤノの目を見ていた。
すると、また声が聞こえてきた。
大丈夫?
怪我は無い?
私に出来る事ないかなあ…
早く元気だして欲しいな。
何の話なら話してくれるかな…
声が聞こえてきた事に、反射的に目を背けようとしたが、聞こえてきた暖かな声に、それをする事はできず、視線を動かす事なくして目を見開いた。
その声はアヤノの声であったが、目の前にいるアヤノに口を動かした素振りは無く、今も聞こえ続けている。
「あれ……?」
その事実に思考を巡らそうとするが、涙が頬を伝う感触に思わず声が漏れた。
慌てて目を擦るが、涙は止まる事なく、声を漏らして泣いた。
「…ひっく……ぐすっ……ひっく…ふん…」
アヤノは突然泣き出した俺に驚いてオロオロしていたが、俺の隣に座って泣き止むまで背中を優しくさすってくれた。




