声
右目が存在する事に驚きつつも、声のした方を振り向く。
振り向いた先には足元まである黒のワンピースを着て、頭には黒と白のベールを被っているシスター姿の女性が立っていた。
見た目は四十代程度で顔には柔らかな笑みが浮かべられている。
女性のシスター姿から、俺は修道院に来た事を理解した。
どうやらここはその一室のようだ。
ベッドが二つあり、四方の壁には数枚の絵が飾られてある。
右側の窓際には花瓶が置いてあり、前方には扉が一つある。
「ここは聖ミカエラ修道院。
あなたはロイド・ユースタンスくんよね。」
女性はゆっくりと聞き取りやすいように言葉を紡ぐ。
「はい。」
「私の名前はオルビア。シスターって呼んでね。
今日からここがあなたの家よ。」
シスターはそう言って俺の手を取り、扉の前まで歩いた。
扉を開けると、長い廊下が視界に入った。
部屋がいくつもあり、シスターはどこかに向かってそのまま進む。
「ロイドくん、もう五歳なんですってね。ここにはもっと小さな子もいるから便りにしてるわ。」
そのシスターの言葉で俺は頭にクエスチョンマークが浮かぶ。
だがすぐに、ラピとの取引で五歳になった事を思い出す。
あまり自分では分からないが、体も大きくなっているようだ。
そして、シスターが俺の年齢が五歳という事になんら疑問を持っていないところを見ると、またラピが何かしたのだろう。
そんな事を考えていると、シスターが一つの扉の前で立ち止まった。
「これから修道院にいる子たちに挨拶しに行くけど、ちょっと元気が有り余ってるだけだから。」
シスターがよく意味の分からない警告をすると、その扉を開いた。
俺がその部屋に入ると、とたんに体が傾く。
何の事か理解できうちない内に、俺は尻餅をついた。
「アッハッハッハハ!!!!! 引っかかったー!!!」
上方から甲高い声が聞こえてきたので、そちらを見た。
ボサボサの茶髪頭の少年が、ニヤニヤしながらこっちを覗いている。
悟った。
俺は、落とし穴に落ちたのだと。
少年のからかう声が聞こえてくる。
そんな間抜けな罠に引っかかるなんて、間抜けだ!!
あがってこれる?
そんな少年の声を聞いていると、恥ずかしさと怒りが込み上げてきた。
とりあえず俺は、足元に魔力を集中させ、土魔法で地面を盛り上がらせ落とし穴から脱出した。
一瞬、少年は驚いたような顔をしたが、すぐにニヤついた顔に戻り俺をからかってきた。
恥ずかしくない?(笑)
服、汚れてるよ?(笑)
そんな声を澄ました顔で無視しながら、今度は風魔法で汚れを払う。
実際は、超恥ずかしいのだが。
「こら!! ギルティ!! また悪戯して!!」
シスターに呆れ顔で呼ばれたギルティという少年は、反省の色を見せず、未だにニヤニヤしている。
身長は百センチ程度で、黒いダメージジーンズのようなズボンを穿き、クリームイエローのTシャツを着ている。
「こんな簡単な罠に引っかかるほうがいけないんだよ。」
ギルティは俺の方をチラリと見て言った。
「ごめんなさいね。 悪い子じゃ無いんだけど。」
シスターは俺に向かってそう言うと頭を下げる。
「この子の名前はギルティ。
ロイドくん、今から自己紹介してくれるかしら。」
シスターが手のひらを上に向けて、指先を部屋全体が見渡す所へ向ける。
そちらに目をやると壁には黒板のようなものがかかっている。
俺はまだ恥ずかしいため、顔を俯かせながらやや早歩きでシスターが指定した場所まで行く。
「僕の名前は、ロイド・ユースタ…」
自己紹介しながら顔を上げると、目の前にいる数十人の子供たちと目があった。
―落とし穴に落ちた人だ!!男の子なんだ!!さっき魔法使ってた!!恥ずかしくないのかな?ギルティにいじめられて可哀相…。ロイド・ユースタくん?
脳内に直接響くようにたくさんの声が聞こえてくる。
ロイ恥ずか魔法が使えるなんだ!!。?ユースタ………大き?!やいssヴぁssgvぃwgsjうぃdtsぐぃsyfshしsびsgtxvskyxfsんほいsg。
次第に多くなっていく声が、俺の脳みそをグチャグチャにする。
気持ちが悪い。
吐き気が込み上げてくる。
「うっ……」
今にでも吐きそうになり、俺は入ってきた扉まで走る。
シスターやギルティの驚いた顔があるが、構わない。
俺は乱暴に扉を開けて、廊下へと出た。
「はあっ…… はあっ…」
肩で息をしながら、何とか吐き気を抑える。
先程の声が脳内で繰り返され、今にでも狂ってしまいそうだ。
体から力が抜けて、壁にもたれかかる。
脳内で繰り返される言葉を聞きながら、ポツリと呟く。
「何なんだよ…… 畜生……」




