転生
俺は今、自殺しようとしている。
おっと、勘違いしないでくれ。
借金まみれで残りの人生は怖いおじさんに囲まれてマグロ漁師に転職するダメ人間や、いじめられた事で遺書を書いて死ぬような軟弱者じゃない。
ただ単に嫌気がさしただけなのだ。
俺はそこそこ裕福な家庭に生まれて家族ともまあまあ仲良くやっていた。
自分で言うのもなんだが、容姿もなかなかだったし、友達だって多かった。
器用だし、勉強もかなり出来たし……
……失礼、自慢した訳じゃないんだ。
こんなリア充が、何故?
って思う人も多いだろう。
答えは簡単だ。
何でも出来るからだ。
……出来ればここで、批難の目は向けないでほしい。
何でも出来るからこそ、物事にはすぐ飽き、
何でも出来るからこそ、生きることが、ばかばかしくなった。
そんなこんなで、俺は今、自殺しようとしている。
自殺方法は、今流行の練炭……じゃなくて、王道中の王道、リストカットだ。
少しばかり躊躇いはあるが、もう決めたことだ。
ズバッといっちゃおう。
ズバっと。
そうして俺は左手首を切った。
おびただしく流れる赤色の液体を見て、思う。
生まれ変わるのなら、漫画みたいな世界がいいな…
死に際に考えた事はあまりにあほらしく、子供じみていた。
不思議と、痛みはなかった。
薄れゆく意識の中で、そんな夢物語を描いていた。
目が覚めると、見知らぬ天井がそこにはあった。
失敗したか…
そんな事を思いながら左手首を見ると、小さくて、ふっくらとした、傷一つない手があった。
俺は…
なぜ傷がついてない…!?
いや、それよりも、そんなことよりも、この腕は……
「お目覚めですか。」
突如、聞き覚えのない声が聞こえた。
その声により、何故か体中から冷や汗が溢れ出る。
徐々に近づく足跡に、不安と恐怖が入り混じった、なんともいえない気持ちが湧き上がる。
現れたのは、白ウサギだった。
ただの白ウサギではない。
二本の足で立っており、神官か着るような服を着ている。
顔には、細い目と、それに似合う胡散臭い笑顔が貼り付けられている。
それは、限りなく人間に似た容姿の、誰よりも悪い笑顔をした、白ウサギだった。
そいつは、俺の気持ちを知ってか知らずか、笑顔のまま、俺を上から覗いてくる。
先程と同様、悪い笑顔で。
これは、想像のような、妄想の様な、でも実際にあった、そんなお話。
少年の実に突飛な人生が今、始まった。