人魚姫の独白
(愛しています)
さいごだから呟いてみたのに、ちっとも声が出なかった。
本当、意地悪な魔女さんだ。
でも感謝してるの。彼女がいなかったら、王子様には会いに来られなかったから。
(ありがとう)
やっぱり、声にはならなかったけれど。
私だって泡になってしまうのは、怖い。
でもね、王子様のいない世界はもっと怖いの。
だから、お姉様達がくれた短剣はどうしても使うことが出来なかった。
お姉様達を悲しませてしまう結果になってしまったけれど。
(ごめんなさい)
声の代わりに、海に落ちた私の涙が想いを届けてくれるのでしょう。
感謝の言葉も謝罪の言葉も声に出せないなんて、こんなに辛いことだったのね。
結局、声が出なくて良かったと思えたのは一度だけ。お幸せに、が言えなかった時だけだった。
王子様と隣りの国のお姫様の結婚が決まった時、私は笑って誤魔化した。
笑顔の裏で姫様に嫉妬してたの。なんで私じゃないのって。
可憐で優しい姫様。話せない私にも「友達よ」と言ってくれた姫様。
お幸せに、はやっぱり言えません。
(お元気で)
私にとっても姫様は大事なお友達でした。
嗚呼、もう時間がないみたい。
私が消えたら、王子様は私を探してくれるのかしら。
海辺で拾った話すことも出来なければ、常識もない変な女をお城まで連れて帰るなんて、今思えば、お人よし過ぎる人。
でも、そんなお人よしな王子様が私は大好きです。
愛しい人、私に声があったなら、私と貴方の関係は違っていたのでしょうか。
たとえ、貴方の想いが私の想いと同じではなかったとしても、私は貴方の隣にいれた事が幸せでした。
声にならなくてもいい。これが本当のさいごだから、想いだけでも届くように叫ぼうか。
「愛しています」