第2話 少女は日常の中に
1話を16人も読んでくれた人がいた、バンザーイ
やわらかいベッドの上で目が覚めた。周囲を見渡すと見慣れた装飾の自分の部屋だ。パジャマを着ていて、隣には赤ん坊の頃からずっと一緒の鰐のぬいぐるみもいる。
「夢?」
そう思わずにはいられない。自分には確かに怪物の爆発に巻き込まれた記憶があるのだから。だというのに、自分の体には傷一つなく、戦場から離れた自分の部屋で寝ている。これはもう、今かあの戦闘のどちらかが夢なのだ、としないと説明が付かない。ならば、どちらが夢なのか。できれば、あの戦闘が夢であって欲しい。あのままいけば、きっと自分は死んでいただろうから。
「もう朝だよー、早く起きないと遅刻するよー?」
問題に答えが出ず悶々としていると、お母さんの声が聞こえた。
「そうだ、お母さんに聞いてみればいいんだ。」
そう思いつき、私はパジャマから制服に着替え、部屋を出る。
「お母さん、私は昨日何時に帰ってきたの?」
トーストをかじりながら問う。
「昨日は1時ぐらいに帰ってきたかな。そのまま、部屋に直行してたよー。」
キッチンで作業をしながらお母さんが上機嫌に答える。その言葉を受けて、さらに問う。
「帰ってきた時、怪我してなかった?私。」
「かすり傷はあったけど、大きな怪我は無かったと思うよー。どうしたの?変なこと聞くね?」
お母さんは少し不思議そうに聞いてくる。私はその問いに答えず、さらに問う。
「お母さん、今魔王軍がどうなってるか分かる?」
「私が力を失ってから大分経ってるからなー。詳しくは分からないなー。というか、私に聞かなくてもあなたが1番詳しいと思うけど。」
それも当然だろう。お母さんは私が生まれた時に力を失っているはずだ。だから、聞くべきはこうではない。
「お母さん、昨日魔王と戦ったはずなんだけど、これって夢かな?」
この問いに帰ってきた答えは、私の予期していないものだった。
「それなら夢じゃないと思うよー。だって、魔王は昨日死んだから。」
「えっ!それってどういう意味!?」
まさか、そんな答えが返ってくるとは思わなかったので、つい声を荒げてしまう。というか、本当にどういうことなのだろう。そう思っていると、お母さんがカーテンを指差す。開けろという意味らしい。だから、開けてみる。そこにあったのは青い空。私が産まれて始めて見る綺麗な青空だった。何だこれ、とそう思いお母さんを振り返ると、お母さんはテレビをつけていた。そこから興奮した女の人の声が聞こえてくる。
「25年前から日本中で降り続いた雪が昨夜0時23分に突然降り止みました!今だ降り続いた雪の原因もそれが突如降り止んだ原因もわかってはいませんが、気象庁は・・・」
原因、私にはその原因に心当たりがある。それは、
「魔王が死んだから?」
「そうだと思うよー。そうじゃなきゃ降り止むとは思えないし。いやー、やったね。私たちの家の800年の戦いは勝利で幕を閉じたわけだよ。」
800年前、突然魔王軍は現れ、それと同時に私たちの一族は突如魔法の力に目覚め、それ以来魔王軍と代を変えながら戦い続けている。そして、25年前に魔王の使ったある攻撃によって雪が降り止まなくなった。
「というか、お母さんは魔王が死んだのになんでそんなに反応薄いの?」
「やーねー、喜んでるわよー。」
「さっき、魔王軍が今どうなってるかわからない、って言ってなかったけ?」
「魔王が死んだことはわかったけど、詳しくはわからなかったのよー。」
そう言われれば、なんとも言い返せない。というか、昨日の戦いが夢でないのだとしたら何故私は生きているのだろう。
「昨日の戦いで私死んだはずなんだけど、私なんで生きてるんだろう?」
「魔王を倒して感極まって、へんな幻覚でも見たんじゃない?」
そんなまさか、と思うがこの状況が本当だとするならそれしかないだろう。うん、きっと魔王の爆発も変なことを言うジャージ男も幻覚だったのだ。ジャージ男の言葉も私の深層心理に残っていた雪が降り出したのは25年前という記憶から作られたのだろう。
いや、本当にそうだろうか。もしかしたら今の状況こそが私が今際の際に見ている夢なのかもしれない。そういえば、あまりにも私に都合が良すぎる気もする。そう思い、確かめるために、自分のほっぺたを思いっきりつねっってみる。
「痛っ!!!」
朝ご飯を食べ終わり、私は小学校に登校した。友達との話の話題はもちろん雪が降り止んだことだ。
「せっかく雪が降り止んだんだから、今日ぐらい休みになればいいのに。」
「青い空って始めて見たよ。綺麗だね。」
「何で、降り止んだんだろうね?」
こんな話をしていると、先生が来て授業が始まる。退屈な授業。そして、お昼休み。また授業。そして、下校。
いつも通り。25年の雪が消えたというのに何も変わらない日常。しかし、私にとっては昨日までとは全然違う日常だ。授業の最中に魔王軍の襲撃を心配する必要もなく、友達に魔法少女のことがばれないように、と気をもむ必要も無い。1年前魔法少女に目覚めるまでは、当たり前のようにそこにあったそれで、目覚めてからは、取り戻そうとがんばり続けたそれだ。
そんなことを思いながら、家の前で友達と別れる。これから、着替えて友達と遊びに行くのだ。ルンルン気分だ。だから、少し急いで部屋に入る。そして、制服を脱ぎ、どの服を着ようかと悩んでいると、姿見に下着姿の自分が映る。理由もなく、本当になんの理由もなく、私は言葉を発した。
「変身」
その瞬間に姿見の中の私は姿を変える。白い、真っ白の、雪のような衣装。お母さんやおばあちゃんの話を聞くと、その代によって衣装は変わるそうだが、私のそれはまさに魔法少女だ。何故こうなったのかはわからない。でも、中々にかわいらしくて気に入っている。そんな姿をまじまじと見る。もはや、役目を果たし終えた姿。約束の時間まではあまり余裕が無いが、なんとなしに能力を使ってみる。
体を10センチほど宙に浮かす。
光の剣を出し、光弾を発生させ、光を操作して自分の姿を鏡から消す。
1年間やり続けてきたのだ、失敗することも無い。だが、私には、まだ力が使えることが以外だった。魔王軍の出現と共に発現したこの能力は、魔王軍が消えれば同時に消えるのだ、とそう自然に思っていたからだ。
そして、最後にもはや意味を持たない力を使ってみる。サーチ、怪物が力を使っている時、そいつがいる方向だけがわかるという、微妙に使い勝手が悪い力だった。それでも、今思えば、一番お世話になった力かもしれない。
「サーチ」
発動した瞬間に、怖気が走った。もはや、何者も捕らえないはずのその力が、確かに何者かを感知したからだ。ほぼ、真東。その方向に力をもった何かがいる。
何故、と疑問が脳を巡る。昨日、魔王を倒したことは夢だったのか。でも、それなら、何故雪が止んだのか。わからない、わからない、わからない。
もしかしたら、昨日の戦闘が夢だったのかも、と思うと体を恐怖が走り抜ける。また魔王と戦わなくてはいけないからではない。今日油断しているうちに、もし魔王軍が襲撃してきていたら、と思うと怖くてたまらないのだ。もしかしたら、私はその油断が原因で死んでいたかもしれないのだから。
しかし、恐怖に囚われていても仕方がない。疑問を振り払い、勇気を振り絞って、行動を開始する。まず、友達に電話をして約束をキャンセルする。そして、光を操り姿を消したまま、窓から体を宙に滑らせて、外に出る。後はサーチを使いながら、ひたすらそれが示す方向に飛び続けるだけだ。
取り戻したと思った日常、それを本当に取り戻すために魔法少女は空を翔る。
何が待っているのかわからないままに。何が起こっているのかわからないままに。そして、何をするべきなのかもわからないままに。
読んでくれた方、ありがとうございます。
見苦しい文ですみません。
1話より文字数は多いのに話の内容は全然進んでないという。
何話まで書けば終わるのだろう。
そこまで、根性が保つ気がしない。
予約掲載という機能を知り早速使ってみる。