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第7話 そこは愛情でカバーです

 目の前の光景に私は呆然と立ち尽くしていた。食材は十分余裕を持って買い込んでいたし、パスタは大体一人前ずつ括ってあったはずだった。欠食青年団に対して振舞っていたのも、余りの分だったはずなのに……!

「ぎゃわわわわわわ!」

 ヴィルマーさん、あなたが今、「お手伝いするわぁ~」と言って、鍋に入れたパスタは第2グループ用のパスタだったのねー! ああー、なんてこったい。食材の上にメモ書きでも乗せておけば良かった。今更頭を抱えても仕方ないけどっ!


 真っ青な顔をしている私を見て、彼も不味いことに気がついたらしい。てへっと笑うヴィルマーさんは相変わらずイケメンですが、食材が戻ってくるはずもない。まあ、かくして私は簡単にピンチに陥ってしまったのである。

 でも、ベル様たちがお腹を空かせるような事態はなんとしてでも回避しなければならない!!! 候補生達は平等に試験を受ける権利があるのだ。


「うぬおおおおお、今すぐ使える食材って、ミモザサラダ用に使った卵や、下ごしらえで余った野菜たちか」

 食材の山を見ながら唸る。夕飯を少なめにすれば乗り切れるだろうが、なるべくロスは少なくしたい。

 むーん、と唸ってしまった私にヴィルマーさんはごめんと謝るように拝んで食事へ戻っていった。その手に小さな緑色のカードが握られていたことを私は知らない。謝罪の言葉も聞こえないくらい、私は自分がどうすべきか考え続けていたから。




 第1グループと入れ替えに第2グループが入ってきた。

 第1グループのときと同様にサラダを出してもらう。近くにいた候補生は自分が雑用をさせられることに少し不満気だったが、早く食事を取ることによって残りの時間を休憩に当てることができることから、しぶしぶ手伝ってくれた。


 騎士になったら野営することもあるだろうし、下っ端のうちはそれこそ雑用しかないだろう。明らかに人員不足の戦場でどう動くか、自分の立ち位置を見つけられないようでは、まだまだ未熟だよね。もう、その点ベル様はさすがとしか言いようがない。自分でも食器や食事を運びながら、何をしていいのか分からないで立っている候補生にもやんわりと仕事を任せる。


 その筋肉と優しい声音に痺れそうです! え、筋肉関係ない?

「イリーナ、他に何か手伝うことはあるか?」

「では、お皿を持ってきてもらえますか?」

 そういえば、猫目の……あ、いや、『テオ』さんにも同じことを言われたような気がする。少し手が空いたので全体を見渡すと、テーブルセッティングはほぼ完了といったところだろうか。第1グループより少し時間がかかっているようだ。

 ベル様も大分指示を飛ばしたが、自身がプレーヤーとなっているために眼が行き届かないところもある、それが違いの一つだろうかと考えて、慌てて頭を振る。比べたって仕方がないのだ。第1グループとはメンバーが違うのだから。


 それよりも、だ。苦肉の策で考え出したメニューを私はお皿に乗せた。黄色いそれに、ケチャップで大きくハートを描くとベル様へ一番に渡す。

「愛情たっぷりのオムレツです」

 語尾にハートをつけんばかりの勢いで『にこー』と笑顔をつけたら、ベル様は少し照れて、「ん」と受け取ってくれた。照れ顔ですよ! ストイックな彼がそんな顔をすると大変美味しいです! ええ! 可愛いです。メロメロです。しばらくハートを飛ばしていたら、残りの候補生達がお皿を持って殺到してきた。


「イリーナさん、俺にもハートで!」

「俺はお星様で!」

「L O V E と!」

 そんなに次々とリクエストされても覚えられません!

「波線以外はセルフサービスでお願いします!」

 卵液を抱えたまま叫んだ私に非はないと信じている。


 食材不足については、大量にあった卵と、残り物の野菜などを使ったオムレツで何とか凌いだ。まあ、ニンジンの皮とか入れましたけれど、皮のあたりは栄養価も高いって言うし、その辺は愛情でカバーできたと信じたい。食堂に集まった第2グループの欠食青年団たちも美味しい美味しいと食べてくれているし、終わりよければ……なんて言っちゃってもいいのかな。


 第1グループが残していった食器を洗いながら、何とか乗り切れたことに対する安心感からホッと息を吐く。第2グループのメンバーが食べ終わる頃になって、最後の1人である試験官フレンディさんが食堂に入ってきた。

「お疲れ様デース」

「フレンディさんもー」

 相変わらず、ゆるゆるのテンポで話す試験官に気が緩み、私もゆるゆるのテンポで返す。


「メニューは何?」

「シーフードパスタと、ミモザサラダ、ポテトサラダ、ハム、チーズ、菓子パン……と、野菜オムレツです」

 流れるように、自分の昼食を確保するフレンディさんに、大人の経験値を感じてしまった。さり気ないけれど、よく周りを観察しているようだ。比較対象(=候補生達)がいなければ気がつかなかっただろうけれど。


 さっと差し出された白いお皿にオムレツを乗せると、彼はニッコリ笑った。

「ありがと」

「どもどもー。ケチャップどうします? 波線で良いですよね」

「あ、合格って書いて」

 合格って、アナタ試験官でしょうに。そう思いつつケチャップで「合格」と書く。これでいいかなと伺うようにフレンディさんの顔を見ると、彼は「君の合格祝いに」と謎の言葉を残して着席した。


 私の合格祝いって……もしかして、私も試験されていたのでしょうか!?

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