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第34話 焼ける! 焦げる!

 いやあ、すごい接戦でした。ビーチボールが破裂するんじゃないかと心配になるほどの真剣勝負というべきか。ヴィルとベル様のコンビネーションアタックに対して、テオさんチームのレシーブのしつこさといったらもう! 十分見ごたえがありましたよ。

「皆さんお疲れさまでした!」

 朝から練習していない分、有り余っていた体力をこの試合に注ぎ込んだ面々は、私の配ったタオルで汗を拭きながら「肉だー!」とガッツポーズをとる者と、「野菜かーっ」と項垂れる者の二つに分かれた。前者がベル様チーム、後者がテオさんチームである。


 やっぱり、肉が良いんですね~なんてほのぼのとしながら、バーベキューセットのところに戻ると……ビール片手にたらふく肉を食ってふんぞり返っている大人二人がいた。

「うわああああ! 汚い! 大人って汚い!」

 この人たち、候補生達がビーチバレーに熱中している間に特上カルビを食べましたよ。ちょっと私の感動を返せっ!

 騒ぐ若者チームに、フレンディ副騎士団長はニッコリ言い放った。

「若者と肉を争っても勝てませんもーん」


 いやいや、貴方ならここにいる全員吹き飛ばして肉をゲットできますってば。

 慌てて食材を確認すると、特上カルビが半分ほどなくなっている。高い肉から食べるとか、本当に容赦ないな!!

「浜辺のビールは格別だわい」

 ぽんぽんとお腹をさする王弟殿下、もはやリゾート地でくつろぐただのおっさんである。きっとそのお腹には、特上カルビが詰まっていることでしょう。ええ、わかります。


 とはいえ、肉ならまだある。ならば、美味しく調理するのが私の腕の見せ所というものです。

「こんなこともあろうかと、仕込みしておいて良かったわ!」

 安い肉だって美味しく食べられるようにとハチミツとニンニクを混ぜたタレに漬け込んでおいたのだ。こうすると適度に肉が柔らかくなり、味も染みこむ。

 取り出した肉を1枚焼いて、ベル様に食べてもらう。


「ん! 美味い!」

「おおおおおおおおおおおお!」

 その一言を皮切りに、候補生達のテンションは再びうなぎ上りとなった。勝ったチームは鬼の首を取ったかのような形相で、網に群がる。私も、肉の他に野菜などを取り出し、網に手際よく載せていく。

「ソーセージもありますよー。あ、そこのお肉、焼けてるからお皿に移して、代わりにタン行こう! タン!」


「たまねぎが網にくっついたああああああ」

「ぎゃー! かぼちゃが消し炭のようになってるー!」

「俺の育てた肉をとるなああああああああ」

 もはや阿鼻叫喚。勝利したチームは次々と残った肉や野菜を焼き、胃袋へと収めていった。


 それを見て青ざめたのは負けたチームである。

「あの勢いで食ったら、俺たちの肉がなくなるぞ!!!」

「ぎゃー! あいつらめえええええ」

 もう、団結力を高めるどころか亀裂入ってますけど!? ねえ、フレンディ騎士団長!? って、サマーベッドに寝そべってるよ!

 飲み物をコップに注ぎながら、私は心の中で突っ込んだ。ゲシゲシと岩を蹴るテオさんの姿がやけに寂しく目に映る。


 こうなったら仕方がない。私ならば多少殿下の言いつけを破ってもお咎めはないだろう。

 そう考えて、紙でできた取り皿に、焼けた肉や野菜を少しずつ盛り付けて、負けたチームへと配り始めた。少し冷めてしまうのは否めないが、それでも十分焼き立てである。

「肉は少しになっちゃうけど、ベル様が貝をとってきてくれるらしいですよー。磯焼き美味しいですよー」

 ニコニコと皿を渡すと、やさぐれていたチームにも活気が戻り始めた。

「磯焼き!」

「俺、蛸採ってくるわ」


 肉がなければ現地調達ですよ。上着を脱ぎ捨てて海へ走る者、岩場へ行く者、南部の候補生達は逞しかった。

 おかげでしばらく後には、最初に用意していた食材よりもはるかに多種多様で新鮮な食材がそろう。ワイワイと自分の獲物自慢や採り方の豆知識などで話は盛り上がり、いつしか美味しそうな匂いにつられて大人二人も混ざり、浜辺では笑い声が絶えなかった。



「ベル様、お茶どうぞー」

「ありがとな」

 上着を脱いで黒い海パン一つになったベル様は、素晴らしい肉体美です。目の保養! 目の保養!! がっしりした体型にしっかりついた筋肉、人間が一人ぶら下がっても大丈夫そうな腕。ああああ、彫刻家の人は是非とも彼をモデルにして彫るといい!

 そんなことを考えながら見惚れていると、後ろからとんとんと肩を叩かれる。


「はーい……むぐっ!?」

 反射的に振り向いた瞬間、口に何か入れられ、驚いて飛び退った。

「ナイスタイミング、俺」

 そこにいたのは悪戯が成功したときのような表情で笑うテオさん。そして、火が強くなり過ぎてもうもうと煙に巻かれながらヴィルも手を振っている。

「貴重な特上カルビなんだからちゃんと味わいなさいよーっ!」


 柔らかな肉を噛み締めると、肉汁が溢れでた。

 美味しい。

 その優しさが、気遣いが、私もチームの一員だと認めてくれていることが、とても嬉しく、幸せで仕方なかった。

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