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番外編4 ベルナルドの誕生日

「ふっふっふー。ふふんふふーん。でゅらっ! でゅらあああっ!」

 小麦粉に塩水を少しずつ加えながら混ぜ合わせて塊にし、ぎゅっぎゅっと力をこめてこねる。出来上がった生地をねかせている間、細切りにして焼いた肉や野菜に味をつけて混ぜ合わせ、こちらもしっかりこねる。

 ねかせておいた生地を小さくちぎって円盤状にしたものを麺棒で平べったくのばす。そこに作っておいた具を入れて綺麗に包み込む。

「あーとーはー、焼くだけー煮るだけええええええ」


 さて、冒頭から私の下手な鼻歌で失礼しております。しかし、これには訳がありましてですね、実は明日、ベル様の誕生日なのですよ! それで一部の有志たちと、誕生日パーティをしようということになって、私は料理を担当しております。フレンディ副騎士団長にも許可は取ってますし、こっそりベル様のホームステイ先にも伝達済み。

 こういうことに対する手回しは手際がいい南部チーム……基本的にお祭好きだからかな?


「むひひひ」

 喜んでくれるかなー? ティアラさんに教えてもらったベル様の好物、海の向こうに伝わる料理『ギョザー』なるものを本で読んで作ってみました。パイ包みのパイ部分が薄くて白い生地なんですね。で、上部にひだを寄せてギャザーのようにした半円状のものを焼くのだとか。

 見たことも食べたこともないけれど、この具なら絶対に美味しいはずだ。

 あー、笑ってくれるかなー? 喜んでくれるかなー? ああっ! 褒めて欲しい。


 ティアラさんの家の厨房で下ごしらえをしながら私はにやけっぱなしだ。せっせとギョザーを生産している姿を目撃したテオさんが「気持ち悪い!」と言っても気にしない。むしろ、テーブルを占領するギョザーが愛らしく思えてくるくらいだ。

 あ、ちゃんと仕込みは夕飯後にやってますよ。味見のため、夕飯は少なめにしたであります。


 ちなみにギョザーは、本に書いてあった肉詰めの他に、ゆでたジャガイモをつぶしてチーズを加えたものや、パスタ用トマトソースでまとめたものなんかも用意している。生地があまり味を主張しないので、こういうのもいけると思うんだ。

「ん! 美味しい」

 火を通したものを口に入れると、じゅわっと口の中で味が広がった。あああ、私天才かも。美味しいわ、美味しすぎる。

「どれどれ」


 じーんと出来上がったものに感動してうち震えていると、テオさんが横から手を伸ばして一つ口に入れる。

「あーっ!」

 それは私の味見用!

「ん、うまい」

 モグモグとおいしそうに咀嚼するテオさんに恨みがましい目を向ければ、確認してやったんだから感謝しろと言われた。味だけじゃなくて、火加減とか、そういうのも含めての確認なのに。


「お前、夜に食うと腹に肉つくぞ」

 ニヤッと笑ったテオさんは、そのまま私のお腹をむにゅっとつまんだ。



「で……でていけえええええええええ!」

 乙女の敵、乙女の敵じゃああああああああああああ。絶対領域に触っていいと誰が許したああああああああああああ。

 保冷用の氷を投げつけると、セクハラ魔王はハハハハと笑いを残して去っていった。




 ――当日 終了後


 食堂には即席の垂れ幕がかかり、テーブルには大皿に盛られた料理が並べられている。海草を使ったサラダや、少し辛目のスープ、ライス、鶏のから揚げ、そしてメインは目にも楽しいギョザー。資金は有志カンパのため、ふんだんに使えるわけではないが、食材に関しては地元密着価格で譲ってもらえたので、有り難い話である。


 今日の主役が到着したのを確認すると、候補生有志たちは大音量の拍手を響かせ、一斉に叫んだ。

「ベルナルド(様)、お誕生日おめでとー!」

 体育会系バリバリの低音に混ざって私もお祝いの言葉を述べる。


「ありがと。嬉しい」

 驚いた表情をした後、ちょっと照れたようにはにかむようにお礼を言うベル様が可愛すぎて、悶絶せざるを得ません。

 ギャップがステキすぎる。


 しかし、驚きはこれだけではありませんよ。

「今回のバースデーケーキにも驚いてください。渾身の作ですから!!!」

 ぐっと拳を握り締めると、私は厨房の奥で用意しているテオさんとヴィルに合図を送った。

「火、付け難いわねー」

「ぶっふふふふ」

 ちょ、そこ真面目にお願いします!


 何とか厨房のほうの準備が出来たところで、会場のほうも準備へ突入する。カーテンを閉めて大きな明かりを消せば、テーブルの上に置かれたキャンドルの仄かな明かりが柔らかくあたりを照らした。

「では、キャンドルタイムー!」


 野太い声と、拍手が鳴り響き……

 おごそかにヴィルが皿を持って厨房から現れる。

 そして、『それ』はベル様の前のテーブルに置かれた。



 巨大なギョザー



 そのひだには、彼の年齢の数だけ、ろうそくが突き刺さっている。

 それを見た野郎共は一斉に笑いの渦に巻き込まれた。

「ぶはっあははははははああああああはははは!」

「ちょっとー! 誰よ!? こんなところに刺したのはああああっ!」

「アタシじゃないわよおおおお」

「ぎゃははははは」

「モンスターだこりゃー」

 止まらない笑いにだんだん私も可笑しくなって、ついに笑ってしまう。

 ベル様も楽しそうに笑っていた。


 良かった。

 喜んでもらえて、私も嬉しい。



 抜群の肺活量でろうそくの火を消したベル様は、笑いながら巨大なギョザーを皆に取り分けてくれた。中には小さなギョザーがたくさん詰まっている。ちょっと変わったのも混ざっていて、私は丁度ニンジングラッセのものに当たってしまった。うーん、単体だと微妙だ。


「イリーナ、そんな顔するな。ほら、こっちのチーズの美味いぞ」

 ベル様はそんな私を見て、そっとお皿に乗せてくれる。

「うひゃ! ありがとうございます!」

 自分の好物なのに分けてくれる彼の優しさに、むしろ私のほうが喜んでしまった誕生日。


 神様、本当に有難うございます!

 私にこんな素敵な人と出会うチャンスを下さって。


 憧れを持ち

 目標があり

 希望を胸に


 この時がずっと続けばいいのに、と思うくらい幸せいっぱいだった。

 優しい貴方に、心をこめてお祝いを。



「ベル様、お誕生日おめでとうございます」

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