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第12話 真夏のサンタから

 朝食の後、フレンディ副騎士団長に了解を得て、カールは見学していた。

 赤と白に分かれての団体戦、ぶつかり合う筋肉、猛々しい雄叫び、いや、凄いマニアックだよね。そして相変わらず今日もフレンディ副騎士団長は鬼畜な強さでございます。まあ、今回はチームでの動きがメインなので、あまり登場されませんが。


 自分よりもはるかに大きな体格の候補生のパンチを受け流し、逆にその勢いを使って吹き飛ばすテオさん、洗練された動きで確実に急所に入れるヴィル、そして何があっても動じないベル様。それぞれが上手く相手の死角をフォローしあっているのが分かって思わず見惚れてしまう。

「あの3人は合格だな」

「ですよね、ですよね」


 私と違ってカールは腕も立つ。生まれたときから下町で喧嘩してきたので、その辺の見極めは侮れない。

「それに、気持ちがいいくらい迷いがないし、正々堂々としてる」

「うんうん」

 グリーンマーメイドの気質なのか、とてもまっすぐで嫌味がない人たちが多いんだよ、と話せば、「心配しただけ損だったかなー?」とカールは笑った。どうやら、男所帯のお手伝いということで心配してくれたらしい。

 私はまわりの人に恵まれている。目の奥がじんわりと熱くなるくらい感動していると、彼女はごそごそと何かの雑誌を取り出した。


 巻頭カラー 水着ピチピチギャル特集


「感動を返せ!! なんだそのけしからん雑誌は!!」

「騙されるな、イリーナ。男は狼だ! 爽やかな笑顔の下に下心を隠し持ってるはずだ」

 むしろその偏見はなんだ。

 食堂に仕掛ける気満々のカールにがっくりと項垂れる。表紙にはきわどい水着のナイスバディな美女の挿絵が……。


「フレンディ副騎士団長に怒られるよう」

「了解済みだから大丈夫。なに、真夏のサンタさんからのご褒美だよ」

 副騎士団長は「騎士たるもの、これしきのことで動揺してはいけません」と、『爆乳美人妻 裏の顔はSM女王?!』という雑誌を胸に抱いてあっけらかんと笑っていたらしい。

 どれだけ予想の斜め上の存在なんだああああああああああの副騎士団長!



 というわけで、仕掛けました。『水着ピチピチギャル特集』

 現在鼻血を吹いた若者3名。トイレに駆け込んだ若者5名。ちらっちらっと気になって仕方がない若者約10名。ああ、なんていうか、そうだよねー、そういうお年頃だよね~。南無南無……。


 あ、ヴィルさんが手に取った。

「アタシの場合、上に姉がたくさんいるから裸も見てるしねぇ~。お風呂も入ったし、今更これくらいで赤くなれるほど純情じゃないわぁ」

 さすがオネエ! 動じません。全く動じませんよ!

「イリーナ、何でこんなもん仕掛けてんだ」

 テオさん、逆切れです。怖いです。

「純情な奴が多いから、あまり遊んでやるな」

 ベル様にもたしなめられました。


「了解であります」

 しょんぼり……。


 ……ふ……ふふ。それにしても水着ピチピチか。いいねえ! 海! いつか、ベル様のたくましいボディーが拝めるかも?」

「心の声が顔にでとる!」

 ゲシッと後頭部にテオさんのチョップが入った。


「っつ~~~!」

「涙目で見るな!」

 思想の自由くらい許していただきたい。私だって健全な若者だ。誰もテオさんの水着が見たいなんて思ってない。

「テオさんだって、さっきフレンディ副騎士団長が持ってた『爆乳美人妻!裏の顔はSM女王?!』とかいう記事に興味あるんでしょ? それに比べりゃ健全だよ。『触りたい』とまでは思ってないし! 見学できれば十分だし……ちょっと興味あるけど」


 こそっと小声で反論すると、

「ふしだらな言葉が出る口はこの口かあああああああああっ!!!」

「もぎゃああああああああ!」

 容赦なく口に手が突っ込まれて横に引き伸ばされました。痛いです。痛いです!!! 口が裂ける。


「テオ、どうした?」

「お仕置きだ」

「ふぇるひゃまああああ(ベル様)、ひゃふひぇへ(助けて)」

 可憐な乙女が悪漢に暴力を受けています。こんなときこそ騎士団の登場です!

 ちらっと周りを見渡すと、皆目をそむけた。カールに至っては「自業自得だ」と、お腹を抱えて笑っている。ひどい。




 候補生達が結果発表を聴きに行っている間、私はカールと食堂で残り物のツナサンドを頬張っていた。

「真夏のサンタ作戦大成功~。だから、イリーナも気をつけなよ」

 あんたは一旦信用すると盲目的に信じるところがあるから心配だ、と付け加えられて言葉に詰まる。

「私、美人でもないし、可愛くもないし、性格もこんなだし、借金背負ってるし……」

「世の中には体だけ弄んでポイの男もいるの。危機感持ちな。それか、優秀なガーディアンでもつけなさい」


 ガーディアン?

 首を傾げると、カールは満足そうに頷いた。

「最近、首都の女の子達の間に流行っているんだけどね」

 騎士団員を彼氏にして、騎士団員が持つ予備の徽章を身につけるのだそうだ。騎士の格を表す徽章は別名『ガーディアン』と呼ばれている。そこから派生して、自分を守ってくれる騎士のことをガーディアンと呼ぶようになったとか。


「ベル様に告白して守ってもらったら?」

 あっさりと口にするカールに、真っ赤になる。

 いや、ベル様は大好きですが、憧れですが、まだそこまでの勇気は持てないというか……好意を表すことはできても、自分のために束縛する勇気はない。

「私には勿体無さ過ぎるお方なんです」

「控えめだねぇ。女の子の中にはガーディアン欲しさに、好きでもない男に告白するのもいるのに」

「まじでか」


 愛情を注ぐこと、そこには何の金銭関係もない。あるのは、ただ、ただ、一方的な奉仕だと思う。

 私は与えることは怖くない。けれど、受け取ることはとても怖い。

 借金を背負っている事情もあるし、何もせずに与えられる愛情にどう返せばいいのか分からないからでもある。


 もし、見返りを求められたらどうしようと、彼女達は考えないのだろうか。

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