18
ふと、まだ真夜中と思われる時間に目が覚める。
元々、西の国に捕まってからはあまり深く眠れていなかった。
ゆっくり身体を起こすと、隣ではガーガーいびきかいて志龍王が寝ていた。
今が何時なのかはわからない。
しかし、真夜中だということだけは、空気から察することができる。
そっとベッドを抜け出し、窓の外を見る。
真っ暗な空に、青い月が輝いている。
この世界の月は驚くほどに鮮やかに青い。
なんか、変なの。
そういえば、あの月のほうに向かって行けば、東の国があるって右京が言ってた。
あっちにいけば、杏里もいるのかなぁ⋯。
でも本当に、東の国は怖いところなんだろうか。
志龍が言ってたような王様がいるのだろうか。
なにを信じたらいいんだろう。
自分の目で見るまでは、わからない。
――このまま、東の国まで行けないかな。
このまま⋯⋯。
あたしはこっそり扉の前に立つ。
昼間はいつも、扉の向こう側に西の兵士がいる。
⋯⋯カチャ。
音をできるだけ立てないように開けてみる。
そこには誰もいなかった。
よし。
行ける。
あたしは、そのまま部屋を抜け、脱走することにした。
ハアハアハアハア。
とにかく必死で走った。
青い月の輝く方角へ。
寝巻きの長い裾が足に纏わり付く。
ええいっ。
あたしは裾をひざの上まで巻くし上げ、更に走る。
なんとか西の城からは脱出できた。
ただただ森の中を月の明かりだけを頼りに進む。
このまま、東の国まで行きたいっ。
運動とかけ離れた生活を送ってきたせいで、あまり長い距離を走ることはできない。
あーっ、もう。
どうしてあたしこんなに体力ないわけ???
城からまだ2,3キロしか来ていないが、もう息が上がる。
痛めた足は、もう大丈夫。
ただ、自分の体力の限界で歩き出す。
チラチラと元来た方を確認するが、誰もいない。
よかった。なんとか脱出成功したみたいだわ。
もう牢屋に東の兵士もいないし、これであたしが逃げても誰も傷つかない。
とにかくこれからは一人で東の国までがんばるっ。
あたしは息を調え、また走り出した。