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~手のなるほうへ~  作者: コンブ
第1章
17/112

17







西の国に捕まってから2日が過ぎた。


あたしはずっと志龍王に連れ回されていた。




「おい。お前いつまでそんな顔をしているつもりだ?」


キレイなドレスを与えられ、まるであたしは人形のよう。


無表情の冷たい瞳をした人形。


「少しは笑えよ。不自由はさせてないだろ?なにが不満なんだ?」


馴れ馴れしく肩に手をかける志龍。


あたしはそれを払いのける。


「笑ってあげるからここから解放して」


ここから逃げたい。


「それはできないな。お前はオレの物だ」


「ふんっ」


傲慢な王は包帯の巻かれた右手であたしの頬に触れる。


包帯にはまだ血が滲んでいた。


「こんなに愛してやってるんだから、少しはいい顔しろよ」


愛してる?


「あんたのはちっとも『愛』じゃないわ。誰かを本気で愛したことも愛されたこともないんでしょ?愛するってのは、縛り付けることじゃないわ」


志龍の表情が曇る。


「お前、あまりいい気になるなよ?」


グイッとドレスの胸元を掴まれる。


「また暴力でねじ伏せようっていうの?愛した人にそんなことできるの?」


「オレは西の王だぞ?オレにできないことはない。オレは一番偉いんだ」


「できないことはない?よく言うわ。あんたはずっと戦争でたくさんの鬼たちを苦しめてんでしょ?誰一人幸せにできないやつが王様だなんて、笑わせないでよっ」


「このっ!!」


あたしはベッドに投げ飛ばされる。


そのまま志龍はあたしの上に馬乗りになる。


「黙れ。オレだってやりたくて戦争しているわけじゃない。人間のお前になにがわかるんだ」


「じゃあ、あんたはなにがわかるの?他人の気持ちなんか考えたことあんの?理解しようとしたことあんの?あんたに殺された鬼たちの気持ちとかさ!!」


ついに志龍の顔は、怒りの表情へと変わった。


あたしの首に手をかけ、強く絞め付ける。


「っ!!」


息ができない。


「黙れ。だまれ、だまれっだまれ!!お前みたいなやつにオレの気持ちなんかわかるわけがないだろう!!偉そうなこと言いやがって!!」


苦しさのあまりジタバタもがくが、志龍は手を緩めなかった。


「そ⋯の言葉⋯⋯そっくり⋯⋯あんたに⋯⋯返すわ⋯⋯」


あたしはもうここまでなのかな。


このまま窒息死させられるんだ。


ギリギリと絞められ、だんだん意識が遠くなり始める。


ようやく解放されるんだ⋯⋯。


「オレに謝れ!」


まさにこれが鬼の形相とでもいうのだろう。


志龍からは怒りのオーラが満ち溢れていた。


あたしは死んでも謝りたくなかった。


「イ⋯ヤ⋯。あんたは一生⋯そうや⋯って⋯⋯暴力⋯で人⋯⋯を支配し⋯て⋯なさいよ⋯⋯」


「くそがっ!!」


いっそう志龍の手に力が入る。




「げほっ⋯げほっ」



ふいにその力が緩み、あたしはむせ返った。


「お前の思い通りになど⋯してやらん!!」


志龍はそう言い、あたしの上から離れた。


「げほ⋯。なんで殺さないのよ」


あたしは起き上がる気力もなく、そのまま横たわる。


「殺してなんかやらない。お前は一生オレのそばにいるんだ」


「イヤっ。あたしは東の国に行って人間界に帰る!!」


右京と杏里に会って、あたしは帰る。


涙があふれてくる。


帰れないのなら、死にたい。そんな思いばかりが頭の中に満ちてくる。


「⋯⋯なぜ、オレを選ばない。女は皆、オレに愛されたがるのに。お前だけだ。オレをこんなに拒絶するのは」


「あんたのは愛なんかじゃない⋯⋯。愛ってのはもっと尊いもんなのよ」


「オレはそんなものは知らん!!」



ガチャン!!


志龍はベッドサイドにあったランプを壁に投げつける。



ああ、この王は、愛を知らないで育ったんだ。


戦争の中、暴力以外で人を支配することを知らない。


「どうしたらお前はオレを愛する?お前の望みはなんなんだ」


「あたしはここから出たい。あたしのこと心配してくれてる人のところに行かなきゃいけないの。あんたを愛することはできない⋯⋯」


「それはダメだ。お前はオレの物だ」


「じゃあ、死にたい」


「それもダメだ」


どうしろっての?自由になりたい⋯。


「それ以外に望むことはないのか?宝石や服⋯⋯なんでも与えてやる」


「必要ないわ」


そんなの要らない。


「なんでもいい。言ってみろ」


自由になる以外でなんでも⋯⋯?。


ひとつ、頭に浮かんだ。


「本当になんでも?」


「ああ」


それなら⋯。


「じゃあ、牢にいる東の兵士さんたちを解放して」


せめて、その人たちが家族の元に帰れれば⋯。


「なん⋯だと?」


「なんでも聞いてくれるんでしょ?」


志龍は戸惑っていた。


「捕まえておく必要なんかあるの?どうせ気まぐれに牢に入れてるんでしょ?」


「なぜ、お前はそんなに東の味方をする?。人間のお前が⋯⋯」


「東の人にお世話になったからだよ。この世界には義理とかないの?それに、西は東に酷いことしてるんでしょ?」


「西が東に?ふざけんな!」


いきなり志龍が大声をあげたので、あたしは驚いた。



「西は東の手によって、何千人もの民を失ったんだ!!こちらは痩せた大地で細々と暮らしていたのに、やつらは自分らの豊かな地だけでは満足できず、西の大地を狙っている!!」


え⋯⋯?


右京が言ってたのと違う。


「東の王は残忍だ⋯⋯。西の小さな村いくつも壊滅させられた⋯⋯。女子供まで皆殺しだ!!だから我々は戦うんだ!!」


そんなっ。


「お前も東になんか行ったら、なにされるかわからんぜ?オレより非情なやつらばかりがいるんだ」


そんなことないっ。右京はいい人だよ?


「牢のやつらだって、解放すればまた攻め入ってくる。だったらやられる前にやるだけのこと」


「だから殺すの⋯?」


「そうだ。これが戦争だ」


そんなの間違ってる。


じゃあ、いつまで経っても誰も幸せになんてなれない。


何百年も戦争してるから、どっちが悪いとかじゃないんだ。


永遠にやり返し合うんだ。


「東の王とどうして話し合いとかしないの?」


暴力だけじゃなくて、話すことも必要なんじゃないの?


「無駄だ。オレだって話し合いの場を設けようと、何度も使者を送った⋯⋯。誰も帰って来なかったがな」


「⋯⋯⋯」


「お互い、もう引き下がれんのだ」


志龍はあたしの横に腰掛ける。


「お前はここにいたほうが幸せでいられる。西の鬼は気性は荒いが、人間のお前を受け入れる」


そんなぁ⋯。あたし、普通の生活に戻りたい。


「オレがお前を幸せにしてやる」


「それはない」


「お前な⋯⋯」


「とにかく、牢の兵士さんは解放して」


家族のところへ。


迎えてくれる人がいるなら、そこに帰ったほうがいいの。


あたしみたいに誰も居ないんじゃないもん。



「ったく。わかったよ。解放してやる。それで満足するんだな?」


志龍は渋々立ち上がる。


よかった。


「そのかわり、もう少しオレに愛想よくしろ」


それは約束できないわ。




その後まもなく、捕らえられていた東の兵士は解放された。








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