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~手のなるほうへ~  作者: コンブ
第1章
15/112

15

志龍にではなく、あたしの首元に。



「あんたの欲しい物は手に入らないこともあるのよ」



志龍はこちらを睨んだまま、ゆっくりグラスをテーブルに戻す。


こんなやつの言いなりになんか、なりたくない。


だったら自分でケジメつける。


ママのいる天国にいけないけど、それでもママは許してくれるよね?


「あんたのオモチャになるのはイヤなの」


「やめろ。そんなことしても誰も喜ばないぞ」


「あたしはあたしのために死ぬわ」


右京に心配かけたまま、陣にもお別れ言えないまま、杏里に好きって言ってくれてありがとうって言えないままだけど…。




覚悟を決め、喉にぐっとナイフを突き立てる。


しかしその瞬間、素早く褐色の王が動いた。




「な、んで…!」



ポタポタと床に垂れる血。


「馬鹿な女だ」



ナイフは動かなかった。


王がナイフの刃を強く握っていたので動かなかった。


血は、彼の流したものだった。


「死なせて!!」


ナイフを取りかえそうとするが、動かない。


あたしは力が抜け、その場にへたり込んだ。


志龍王がナイフを取り、部屋の隅に投げる。


「こんなのイヤだ…」


ボロボロと涙が溢れてくる。


最後のチャンスだった。


キレイな身体のまま、死にたかった。


「くだらないことするな」


志龍はざっくり切れた右の手のひらを痛そうにタオルで包む。


「これじゃしばらく女を抱けないじゃないか。手のひらはイテーんだぞ」


そういいながら、無事な左手であたしの頬の涙を拭く。


「今夜はなにもしないでやるから、もう寝ろ」


心なしか、志龍の口調に優しさを感じたけれど、そんなものに応えたくなかった。



あたしは無言のまま、ベッドに横になる。


なにもしないなんて、嘘にきまってる。


蝋燭の灯りを消し、志龍も隣りに横たわる。


「二度とこんなことするな」


「⋯⋯⋯」


「お前、なぜこの世界にいるんだ?」


「⋯⋯⋯」


「なぜ東の国に行くんだ?」


「⋯⋯⋯」


「…お前、そんなにオレが嫌いか?」


「…大っ嫌い」


「そこだけ答えんのかよ」


志龍はグイグイと、無理矢理あたしの頭の下に左腕をもぐり込ませる。


あたしは逃げようとしたけど逃げられず、腕マクラされる形になってしまった。


「これくらいは嫌がるな。それにこうしていれば、オレはお前の身体を触ることはできないんだぜ?」


むぅ…。


「本当にお前は変な女だ。人間ってやつはみんなこんなに変なのか?」


「⋯⋯⋯」


「オレのこと、嫌いか?」


「大っ嫌い」


すると志龍はゲラゲラと笑い出した。


「そか(笑)とりあえずお前がどれだけオレを嫌いなのかだけは理解できたわ」


超嫌い。


「だがオレは、ますますお前が欲しくなったぞ」


志龍はあたしの頬にキスをした。


「⋯⋯⋯」


あたしは無言のまま、ゴシゴシと頬を拭く。


「オレが寝ている間に自分で死にやがったら、牢のやつらも同じように叩き切るからな。まあ、変な気は起こすな」


志龍はあっという間に、いびきをかき始めた。


オレを殺すな、とは言わなかった。


あたしにはできないってことなんだろう。


ムカつく、たしかにあたしにはできない、悔しい。


今頃、右京は心配してるに違いない。


いきなり消えちゃったんだもん。


あの人のことだから、自分を責めているんだろうな。


どうにかここから抜け出して右京のところに行きたい。




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