12
右京と出発してから2日。
あたしはヘロヘロになりながら、歩いていた。
「休憩しようか?」
この右京って人はとにかく優しい。
あたしの怪我の心配をしながら歩いてくれるのはもちろん、お腹すいてないかとか、喉渇いていないかとか。
夜もずっと寝ないで番をしている。
森の中では超恐ろしいケモノが出たりするので、それらからあたしを守るために、夜中ずっと見張ってくれているのだ。
いやー。なんて甲斐甲斐しい人なんでしょ。
「まだ歩けるよ。少しでも先に進んだほうがいいし」
実際、あたしが速く歩けないから、予定より進んでない。
足でまといだわー。
「明日には東の国に入れる。そうなればかなり安心だ」
道中、鬼のことや西の国のことを教えてもらった。
鬼は人間の10倍近く寿命が長いらしいよ。
右京も見た目は20台後半だけど、実際は200年以上生きてるんだってさ。
すごいよね?羨ましい。
西の国とは500年以上戦争してて、ずっと決着がつかない。
その国の鬼は、褐色の肌をしていて、物凄く野蛮なんだって。
他にも北や南の国なんかもあるけど、西の国とだけ戦争してる。
西は、東の豊かな土地を狙ってるらしい。
できれば西の鬼だけは会いたくないわ…。
特に国王は残忍な鬼で、自分の部下であっても気に入らなかったらすぐに切り捨てるって。
争いなんかしたって、失うものばかりなのにな。
戦争とか経験してないあたしは、そんなこと言える立場じゃないんだけど。
杏里も右京も戦争で家族を失って、孤独な身の上らしい。
右京と杏里は小さいころから仲良しの幼馴染で、信頼できる仲間だって言ってた。
それから1時間ほど歩くと、小さな洞穴を見つけた。
「少し早いが、今夜はここで休もう。ユキナの体力も限界だろう」
足の痛みはだいぶひいたけど、無理して歩いてるせいか、ひどく疲れる。
「そうだね」
右京はちゃんとそういうことも気にかけてくれてるの。
「薪と水を探してくるよ。ユキナはここで休んでいなさい。
そう言って、右京は荷物をおろした。
「わかった。ここで待ってます」
あたしは近くにあった大きな石に腰を下ろし、痛む足をさする。
あー、まだジンジンしてる。
それに普段殆ど運動なんかしないし、こんなに長い距離歩いたことないもんね。
「すぐ戻る」
「いってらっしゃい」
右京を見送る。
あの人、あんなに色々してくれるけど、本当は疲れてるんだろうな。
怪我したあたしに合わせて歩いて、世話も全部やってくれて。
確かに右京のせいでこの世界に来ちゃったけど、彼のおかげであたし生きてる。
最初は恨んだけど、今はもうそんな気持ち吹き飛んだ。
彼は私利私欲のために行動しない、優しい人。
国のために杏里を迎えに行って、巻き込んだあたしのために世話してくれて。
ちょっと不器用なだけの真面目な人。
このまま人間の世界に帰れればあたしはそれでいい。
でも⋯⋯。
杏里はどうなるんだろう。
あのとき杏里は、こっちには帰りたくないって言ってた。
よっぽどツライ思いしたんだろうな。
でも右京には杏里の助けが必要。
なんかとても複雑⋯⋯。
ただ、あたしなんかが口を挟めることじゃない。
そういえば杏里、あのときあたしに真剣に告白してくれて、ちょっと嬉しかったな。
でも、杏里は鬼であたしは人間…付き合えないじゃん。
あたしがおばあちゃんになっても杏里はまだ若いままなんでしょ?
それってなんか複雑よ…。
杏里に会ったらなんて言おう。
本当はいい人だし素敵な人で、普通なら断わる理由なんかないよ。
あの真剣な愛の告白、酔っ払ってなかったら、卒倒してたかも。
チャラいだけの人かと思ってたのに、あんなのずるい。
⋯⋯ガサガサッ
斜め後ろから、気配がする。
あ、右京帰ってきたっ。
あたしは振り向いて、
「おかえ⋯⋯!」
絶句した。
「こんなところに女がいるとは⋯いい土産ができたな」
そこにいたのは、右京ではなかった。
褐色の肌をした、鬼だった。
「ひぃっ!!」
どうして?!?!
殺される!!
突然の事に、身体がすくむ。
「おい女。おとなしく一緒に来い」
その褐色の鬼は乱暴にあたしの腕を掴んだ。
「ヤダっ!!」
ジタバタと逃げようと抵抗するが、すでに捕まっているために逃げられない。
「助け⋯⋯っ!!」
右京に助けを求めようと叫ぼうとすると、
「抵抗するな!!」
バチィンッ!!
あたしは強い力で殴られ、不覚にもそのまま気絶してしまった。