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――――その頃、杏里―――――
「くそっ」
杏里は東の国に居た。
(なぜこんなことに…!!)
20年以上足を踏み入れていなかった自分の家に入る。
埃だらけの懐かしい我が家だが、彼にはそれを懐かしむ余裕などなかった。
(彼女だけは巻き込みたくなかった!!右京のせいで、オレはまた大切な者の失うことになるのか!!)
自室の扉を力任せに開ける。
そこは、この世界に別れを告げたその日のままだった。
(彼女だけは、なんとしても見つけなければ⋯!)
『黒の入り口』で、ユキナとはぐれた。
(人間の彼女がこの世界にいるのは危険すぎる。もし西の国に捕まっていたら、ユキナちゃんの命が危ない)
壁に無造作に立てかけたままの剣を手にとる。
少し錆びてはいるものの、それは昔のように鈍く光っている。
二度と持たないと誓った、殺しのための武器。
杏里は一息つく間もなく、家を飛び出した。