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~手のなるほうへ~  作者: コンブ
第3章
109/112

11




ーーー右京ーーー



右京は町外れの家の前で、一人で右往左往していた。


すっかり日も暮れ、青い月が見えている。



「来てみたものの、何と言えば良いのやら」


ブツブツと何パターンもの告白の台詞を口先で唱えつつ、扉をノックする勇気が沸くのを待つ。


時たま通りかかる民は、そんな国王を温かい目で見た。


皆、彼がこの家に住む者と懇意にしていることを知っている。


そして、その妹に思いを寄せていることもバレバレである。


いつも偶然を装って国王が会いにくる姿を目撃しているからだ。



本来ならば国王が平凡な街人と恋に落ちるなど許されないが、先代も先先代も、地位もない一般の女性を妻に迎えたのである。


そうすることで、よりいっそう民は国王を慕った。




(ええい、私も男だ。この国の王なんだ。こんなことで狼狽えてどうする!!)


覚悟を決め、扉を2回ノックする。




「はーい」


ゆっくりと扉は開き、愛しい桔梗が顔を出す。



「や、やあ」


「右京様……」


桔梗は不思議そうに彼を見つめた。


「こんな時間にすまない…。話したい事があってね」


「そうですか。どうぞ中へ」


促され中に入り、いつものテーブルに案内される。


パタパタと彼女は台所へ向かい、やがて茶を淹れてくれる。



「生憎、まだ兄は戻っておりません。そろそろかと思うのですけど」


首を傾げるその仕草に、右京は暴れる心臓を必死で落ち着かせる。



「あ、いや、杏里は城にいるっ。今夜は仕事が片付かないから泊まるそうだからっ」


こう言う他に方法を思いつかない。


「そうだったのですか。あれ?じゃあお話って、兄にでは?」


「い、い、いや、桔梗に話があってだな」


杏里が居たら笑われそうだ、と思う。


しどろもどろで自分が情けない。


「私に……ですか?」


「そうだ。桔梗と話がしたくて来たんだ」


さり気なく目の前の椅子に彼女を促す。


「わかりました」


素直に腰を落ち着けた桔梗は、クリクリとした瞳で右京の言葉を待った。


そんな視線を受けて、この純朴な男が素直な気持ちを吐き出すことなど出来るはずもなく、幾度も言葉を飲み込んでしまう。




ただただ時間だけが過ぎて行く。



桔梗も、話があると言われた手前、それを求める事もなく待ち続けた。



このままでは拉致があかないと、漸く決意した右京は遂に口を開く。




「お前は……想いを寄せる相手は居るのか?」


「想い……ですか?」


ピンと来ないのか、首を傾げる。



「その、あれだっ。好きな相手は居るのかと問うているのだ」


「ああ、そういう意味でしたか」


会話が進展を見せ、右京は一先ず安堵する。



「なぜそのような事を?」


「い、いや、杏里が心配していたのでな。年頃のお前にそろそろ縁談が必要だろうかと……」



「縁談なんて……私、困ります」


困るという事は、やはり意中の人がいるのか、と右京は肩を落とし、ショックを隠し切れない。


しかし、桔梗だって本当に年頃なのだから仕方ない、遅かったのだと自分を慰めつつ戒める。




「どんな者なのだ?お前を惹きつけてしまうほどの男は」


半ばヤケクソ気味に聞く。


杏里の皮肉顔が脳裏に浮かぶ。


国王ともあろう者が告白前に玉砕したなど、彼が言っていた通りにいい笑い者だ。



「あ、いえ、その方は私なんかに見向きもしてもらえないような方でして」


「お前ほどの女性に振り向かないなど、どんな者だというのだ」


(こうなれば桔梗のために惚れ薬でも作らせてみようか。って、私が使うべきであったか……惨めすぎる。)



薄っすらと頬を赤く染める桔梗を見て右京は酷く心が痛んだ。


チクリチクリと悲しいその痛みは、戦いで傷ついたときのそれよりも右京にダメージを与えた。



「何なら私が仲を取り持ってやろう。お前は大切な幼馴染だ。幸せになってもらいたい」


これは優しい右京の本心。


例え相手が自分でなくても、桔梗には幸せな生活を送ってもらいたいと心から願っている。



「え……」


「だから、私ならその者とお前の縁談をだな」



「ダ、ダメですっ!」


ガタンッと大きな音をたて、桔梗は思わず立ち上がった。


それに驚いた右京は、口をぽかんと開けてしまう。



「ど、どうした?」


何か彼女にマズイ事を言ってしまったのかと自分の吐いた言葉を遡るが、思い当たらない。




「右京様が仲を取り持っちゃダメなんですっ」



(……私は桔梗に嫌われていたのか?)


一気に泣きたくなるほどにきゅうきゅうと胸を締め付けられる。



(私ではダメだなんて、何故気付いてやれなかったのだろう……)


無意識にギリギリと下唇を噛み、口内に鉄の味が広がる。



「そうか……。余計な話をしてすまなかった。私には何もしてやれる事はなかったようだな」



誰がどう見ても、右京は今にも泣き出しそうな情けない顔をしていた。


外で誰かに合えば、きっと悟られてしまうだろう。


でも、これ以上この場にいるのは居た堪れなくて、席を立つ。



「あ……。右京様?」


オドオドと桔梗はどうしていいのかわからずに戸惑っていた。



「……幸せになれるといいね。私には何も出来ないかもしれないが、お前をいつも応援するよ」


傍らに立て掛けていた剣を手に取り、出て行こうとする。



「右京様!!」



次の衝撃に、右京は驚いて身動き取れなくなる。


桔梗が右京の腕を掴んで引き止めたのだ。



「ご、ご、ご、ごめんなさいっ」


国王にとんでもない無礼を働いてしまったと感じたのか、その手はすぐに離された。



「どうした?」


「あ、あの、私……」


彼は桔梗の方を向くと、ポンポンと頭を撫でた。


「気にしなくていい。私はお前たち兄妹の幼馴染だ。これからもずっとな」


きっと自分を気遣っての事なのだと思い、彼女を諭す。


(優しい子だ。)




「違うんですっ、私、右京様と幸せになりたいんですっ!!」




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