表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
~手のなるほうへ~  作者: コンブ
第3章
107/112





それから数日間、西の国との激しい争いが繰り広げられた。


双方共に、再び大勢の死傷者を出した。


騎士団の団長となった杏里は、飛竜を操り巧みに攻撃を仕掛けるが、また部下を何人も失った。


何年も一緒に苦労を分かち合った仲間が、目の前で息絶えていった。


それでも友であり国王である右京を守るために、剣を振るい戦った。









ようやく城に戻ると、杏里はまず浴場へ向かった。


早く家に戻り妹を安心したかったのだか、身体中に染み付いた血の臭いを洗い流すことが先だ。



本来なら街の浴場か、騎士や兵士のための大浴場を使うところだが、そちらには行かず、王家だけが使うことを許された浴場に向かった。


最も、目的は湯に浸かるだけではない。





扉を開けると、温かく心地よい蒸気に包まれる。


端に作られた棚に新しい服を置き、着ている物を脱ぎ捨てた。





「誰だ」


湯気の向こうから、聞き慣れた声が聞こえてくる。



「ああ、オレだ」


「なんだ杏里か」



右京も一足先に風呂で身体を洗い清めていた。


杏里は大きな湯船に近付き、友と顔を合わせる。



「ゆっくり浸かりたくてね。一緒してもいいか?」


「構わない」



今までにも何度も利用しているため、今更咎められる事もない。



杏里はまずは何度も頭から湯を掛け流し、こびり付いた血や泥を落とす。



「誰か呼んで身体を洗わせようか?」


王族らしい考え方に、杏里は苦笑いを見せた。


「可愛い女の子なら歓迎するけど、今はそんな元気もないから遠慮するわ」



汲んだ湯にタオルを浸し、身体を擦る。


あちこちに刻まれた傷に滲みて、思わず顔を歪める。


しかし、それでも何度も擦った。


たくさん浴びてしまった敵の血を、一刻も早く落としたい一心であった。



「あまり強く擦ると傷口が開くぞ」


「わかってるさ」


どれだけタオルを往復させても、杏里には自分の腕が血の色に染まっているように見えてしまう。



頭では理解していても、心の何処かから人殺しをした自分への嫌悪感が溢れ出す。


騎士団を率いることになってもなお、杏里は敵を殺すことに抵抗を感じているのだ。



だからこそ、ここへ来た。


話す事を思案し、黙々と身を清める。




「もういいだろう?。それ以上は擦り切れてしまうぞ」


友の言葉にハッと我にかえり、また湯を掛け流して湯船に浸かった。


身体中ヒリヒリと刺激される。



「今日は傷に効くように薬湯だ。すぐによくなる」


「そいつは助かるな…」



とても大きく豪華な造りの風呂で足を伸ばす。



「杏里、ご苦労だったな」


右京はぽつりと言った。



「いえいえ。国王陛下から労いのお言葉を頂戴するほど、働いちゃいませんよ」


杏里は戯けて見せる。



「阿呆」


「まあ、オレだけじゃなくて他の奴らを労ってやってくれ。皆必死に頑張った」


多くの犠牲も払った。



「そうだな」


右京も国王自ら剣を手に、戦地に出向い、誰よりも勇猛に戦った。


しかし、その行為に杏里は幾度も疑問符を投げかけている。




「お前さん、今回はどれだけ殺ったんだ?」



「……ん。さぁね」




「何故、無抵抗の者たちにまで手をかけたんだ…」


杏里は知っていた。



この友人が戦いの最中、戦う術を知らない女子供まで斬り捨てた事。


東との境界線に近いその村を、一人で全滅させた事を。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ