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「悪い話ではないと思うぞ。お前は大きく出世するんだ」
国王はニコニコと笑顔を浮かべる。
「…オレが出世に興味無いの知ってるくせに」
「お前だけのためじゃない。私のためにも、だ。早く偉くなってもっと私の側に来い」
「…ワガママな国王陛下に付き合わされる、こっちの身にもなって欲しいもんだ」
口では次から次へと軽い台詞を発するが、本心では友からの厚い信頼に揺さぶられる何かがあった。
「私はお前を評価しているんだよ。他の者達も杏里なら認めるだろう。だから、この話を飲め」
「考えとくわ。少し時間をくれ」
「分かった」
右京は大きく頷き、立ち上がる。
「そろそろ城に戻るとするか。用はそれだけだ」
「ふぅん。それだけ、ねぇ」
杏里はチラリと桔梗の部屋に視線をやる。
それに気付いた右京は再び赤くなる。
「いい加減、自分の気持ちを伝えりゃいいのに。オレは反対しないぜ?」
「わ、私は、別に…っ」
「たった一人の家族だが、もういい年頃だ。お前さんにそういうつもりが無いのなら、縁談でも探すとするか」
「くっ…」
反論できない友を見て、杏里は意地悪い笑みを見せる。
「ふふん。冗談だよ。アイツにはお前さんと一緒になってもらいたいと思ってるよ。まあ、本人がどう思っているのかは知らないけどな」
大切な妹を任せられる男は、この友人以外には考えられない。
この気の優しい男なら、絶対に妹を泣かせる真似はしないだろうと、杏里はずっと見守ってきた。
ただ、あまりに優しすぎて、未だに告白すら出来ていないが。
「桔梗は…私などを選んでくれるのだろうか」
「さあね。でも、お前さんが来るといつもより嬉しそうに茶を淹れてるように見えるんだな」
杏里がそう言うと、右京は更に耳まで赤く染まった。
「そ、そ、それでは失礼するっ」
まるで茹で蛸の彼は、普段からは想像出来ないほどに慌てふためき、出て行った。
杏里はそれを見届けて、なんの気無しにカップの茶をひと口飲んだ。
「・・・ぐぇ。アイツ、よく飲み干したな」
明日の国王の体調を心配する杏里であった。