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「んで、国王陛下がこんなとこでのんびりしてていいのかい?」
杏里が右京を皮肉るときは、必ずこう呼んだ。
「ん、ああ。頭の堅い長老達の相手は疲れる」
「西との事か?」
西の国とは先代の頃より最悪の状態が続いている。
「まあな。私としてもそろそろ終止符を打つべきだと考えている」
「西か…」
この戦争で、杏里と桔梗の両親は亡くなっている。
彼等にとっても、憎むべき相手。
「西の国王は忌わしい存在だ。卑劣で残忍。あの男だけは許せない」
「でも、その息子も悪どいんだろ?」
「ああ。私たちより少し若い王子がいる。気に食わない者は、部下であろうと斬り捨てるような奴だときいているよ」
「そんなのが後に控えてるなんて、まったく嫌になるな」
「いつかはその王子とも戦う日が来るであろうな」
右京はひとつため息をつき、カップに残った茶を飲み干した。
「そこで、杏里」
「なんだ?改まって」
右京は友としてではなく、国王として口を開く。
「お前を騎士団の団長に任命したい」
その目は真剣そのものだった。
「ふん、オレが団長だと?」
杏里は鼻で笑う。
「そうだ。先の戦いで我が騎士団は、頭をもぎ取られた。次にその座に着けるのは、お前しかいない」
「勘弁してくれ。オレは上に立つような器じゃないさ」
杏里は肩をすくめ、戯けて見せる。
彼はそういう肩書きをむしろ嫌っている。
自由を奪われることや、堅苦しいことを苦手としているためだ。
「そんな事はない。お前は強く、勇敢で頼れる男だ。私もお前を一番信頼しているからこその話なのだ」
「…買い被りすぎだろうよ」
「国王として、と言いたいところだが、あくまでも親友としての頼みだ。私のために一緒に戦って貰えないか?」
右京は、この友人が自分の頼みを無下にしないことをよく知っている。
幼いころからこうして無茶を言っては彼を困らせてきた。
杏里は大きくひとつ息を吸い込み、ゆっくりと吐き出した。
「お前さんってヤツはまったく…」
それ以上は言葉に詰まり、出てこない。