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~手のなるほうへ~  作者: コンブ
第3章
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~100年程前の鬼世界、東の国~





「お兄様っ。今お帰りですか?」


嬉しそうに杏里に手を振るのは、彼の妹の桔梗ききょう


騎士の訓練と業務を終えた帰宅途中の兄を見つけ、嬉しそうに駆け寄ってくる。



「ああ。お前は買い物か?」


杏里はさり気なく妹の荷物を受け取ると、一緒に歩き出す。


「はい。今夜の夕食の買い出しに行って参りましたっ」


「そうか、いつもありがとな」


明るい彼女を見て、兄は嬉しそうに目を細める。



たった一人の家族。


美しく端整な顔立ちは、兄の杏里とよく似ていた。


長い艶のあるオリーブグリーン掛かった黒髪は、彼女が動く度に軽快に踊る。



「新しいメニューを思いつきましたのっ。絶対美味しいんです」



「・・・とりあえず、食べられる物を頼むよ」


妹の作る料理は、まあ、その、食べられなくもないが食べたくない…という斬新な物が多い。


早くに親を失って、まともに教えられたことがないから仕方ないところではある。



「えーっ、大丈夫ですっ。お兄様の疲れが吹き飛ぶような料理をお出しにしますっ」



先日のスープは、意識が飛ぶような代物であった。



「まあ、あまり無理するな」


「はいっ。でも、お兄様の健康管理のために、頑張ります」


兄は苦笑いを浮かべ、それでも妹を咎めることはしなかった。


大切な妹が自分のために奮闘してくれるのは満更でもない。






家に着くと、扉の前に男が立っていた。


兄はヤレヤレ、と心で呟く。



「やあ、杏里。待っていたんだ」


それは古くからの友であり、この東の国の若き王の右京であった。


先代が逝去し国王の座を継いでも、その友情は変わることなく続いている。


もっとも、友情のためだけとは言い難いが。



「右京様っ」


「あ、ああ、桔梗も一緒だったのかっ」



「…わかりやすい奴だね、まったく」


杏里の言葉に、右京は動揺を隠せずに目が泳ぐ。



「今日はどうなさったのですか?。国王様がわざわざ・・・」


そんな親友二人のやり取りの真意には気付かない桔梗は、屈託のない笑みを見せた。


それをみた若き王は、周りの者に伝わりそうな程に胸を高鳴らせる。



「ち、近くまで用事があったのでな」


「まあ。陛下が自らいらっしゃるなんて、よっぽど重要なご用事でしたのね」



「ふふん。用事、ね」


杏里は鼻で笑う。


「たまには幼馴染宅にも寄りたくなるものだっ」


たまにではなく、週に一度は来ている。



杏里はそんな右京を、友として王として好いていた。


妹の桔梗に対する彼の誠意も十分承知していたし、この男なら妹の相手として余りある程だ。


威張ることもなく民を大切にする国王は、いつだって皆の羨望の的。



「お茶どうぞ」


桔梗が運んできたソレは、慣れている杏里でさえ驚嘆するほどであった。


赤紫色でなにやら粘性に富んだ液体に仕上がっている。


なぜ茶に粘りが出るのか、兄は酷く疑問に思うが答えは当然出ない。



「ありがとう、頂くよ」


「あ・・・」


国王は止める間も無くそれを口にした。


仮にも国王である。そんな得体の知れないものを体内に入れてしまっていいのか?と、杏里は考えた。



「ほぉ…これは意外性がある斬新なお茶だね」


ホクホクとした笑顔で飲む右京。



本人がイイなら良しとする。



「ありがとうございますっ。私が調合したお茶なんです」


「さすがは桔梗だ」




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