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「おお、よかった。葉月、お前向こうに戻ったらオレの家臣にしてやるぞ」
「馬鹿言わないのっ」
気に入ったらなんでも自分の物にしたいとか、子供じゃないんだから。
「大変ありがたきお言葉ですが、自分は右京様に仕える身ですので」
「それは残念だ。そういや、あいつはどこにいるんだ?」
志龍はキョロキョロと周りを見渡す。
「あいつって杏里のこと?」
「そいつだ。共に暮らしてるのだろう?」
「ううん、一緒に住んでないよ。近くにはいるけど」
「なにぃ?!何故共に暮らさないんだ?!」
「あのねぇ、人間界はそっちとは違うのっ」
本当にこの男は勝手なことを平気で言うわ。
「人間というのは面倒な生き物だな。僅かな人生のくせに」
「あなたたちが長生き過ぎるのよ」
「離れて暮らすなど、愛する者同士のすることじゃねーだろ。だったらもう一度オレがユキナと暮らすっ」
「馬鹿っ!!」
どうしてそういう話になるんだか、まったく。
「杏里様はとても多忙な方ですから、なかなかそういう訳にはいきません」
「しかし、ユキナを放っておくなど断じて許せん。大体オレはあの時、ユキナを幸せにしろと命じたはずだ」
「離れているから不幸せだ、ということでは御座いません。お二人はとても幸せでいらっしゃいますから安心なさってください」
うーん、やっぱり葉月さんは志龍の扱い上手いよね。
「チッ⋯」
志龍は納得いかないのか、不機嫌な顔を覗かせる。
舌打ちする意味がわかりません。
「コーヒー飲んだら帰ってよね」
「そんな冷てーこと言うなよっ」
あたしはソファに座り、コーヒーをひと口啜る。
「お前、あの男の冷酷な性格が伝染したんじゃないのか…?」
「そんなことないもん」
「杏里様はとてもお優しいお方ですよ?」
葉月さんもソファに腰を落ち着ける。
「はあ?あいつが?」
杏里はあたしには優しくしてくれるけど、元々結構な皮肉屋さんで素晴らしい性格してるよね。
「ええ。昔からとても面倒見のいい方ですよ。ただ、悲しい事があってからは……あまりそういう面をお出しにならなくなりましたが」
以前杏里は家族や友人や部下を亡くしたって言ってた。
「悲しい事って…、誰かを亡くした事?」
つい、ギロッと志龍を睨んでしまう。
「オレを睨むなよ」
「杏里様は小さい頃にご両親を亡くされて、ずっとご兄妹で手を取り合い生活されてました」
杏里に妹さんがいたの??
初耳だわ。そこら辺の話ってしてくれないから。
「詳しく教えてよ」
「あ、あまり自分からお話しできることはないのですが。今から100年ちょっと前のお話しです⋯⋯」