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自分で名乗ってんだから、間違いじゃないみたいだわ。
ガックリ肩を落とす。
「も、もう勘弁してくれよっ」
「ああん?ふざけんな」
ふざけんなはこっちのセリフです。
「片腕だからって舐めてかかってきやがって。死ね」
アイツめ…。
あたしは荷物を置き、やられてる不良たちから見えないように志龍に向かって全力で小石を投げつけた。
カーンとそれが志龍の頭に当たる。
ナイスコントロール。心の中でガッツポーズ。
「いってぇな!!」
怒った志龍がずんずんとこちらに来る。
よし、来た。思惑通りだ。
そして近づいたところで、
「なにやってんのよ?!」
あくまでも小声で、不良たちに見つからないように声をかけた。
「おー!!ユキナじゃないかっ!!ようやく会えた!!」
「しー!!あたしがいるのバレるでしょ?!」
そのままとりあえず馬鹿王を拉致して、その場を離れた。
行き場がなさすぎて、仕方ないのでうちに連行する。
こんな奴、野放しにしたらどうなることか⋯⋯。
「なんであんたが人間界にいるの?!」
志龍相手なのでお茶も出さずに問い詰める。
「いや。葉月も行ったって言うし、オレも…」
「オレもじゃないわよっ。そんな暇なんかないでしょ!」
「ま、まあ、ユキナ様」
「オ、オレだって人間界見てみたかったし、ユキナにも会いたかったし…」
あたしに怒られ、志龍は萎縮する。
「なに言ってんのっ。一刻も早く復興させなきゃいけないんだよ?わかってるでしょ?!」
「それはそうだが…」
「ユキナ様、落ち着いて下さい」
コーヒーを運んでくる葉月さん。
「志龍にコーヒーなんか淹れなくていいわ。すぐ帰るから」
「冷たいこと言うなよっ」
「しかもあんな派手にケンカまでして…。怒るの当たり前でしょ?!」
「お、お前、なんか強くなったな」
「ここはあたしの暮らす世界なの。迷惑かけないでほしいわっ」
「⋯⋯わ、悪かった」
「ユキナ様。志龍王はきっと寂しかったんですよ」
葉月さんはカチャカチャと手際よくカップを並べる。
それに注ぐ志龍の肌の色に似た液体から、とても香ばしい香りが立ち込める。
「⋯⋯ふーん」
「休暇を頂く前に西に伺ったとき、お一人で国の復興に尽力されるお姿を何度も拝見いたしました」
一応、がんばってたのね。
「お一人でやってこられて少々お疲れになったのでしょう。ユキナ様とお別れになった今、誰もお心を癒すことはできませんし」
なんかそれって、あたしが悪いみたいじゃない。
「葉月、お前オレのことよく分かってるな」
嬉しそうな馬鹿王。
「いえ、思ったことをお伝えしただけです。…ですからユキナ様、お願いですから志龍王にあまりキツいお言葉をかけないで頂けませんか…?ユキナ様のお気持ちもわかりますが…」
はぁ…。
葉月さんが庇うならこれ以上言えないじゃない。
「わかったわよ。怒るのはやめるわ」
葉月さんに免じてってやつね。
「ありがとうございますっ」
葉月さんは感謝なんてしなくていいのっ。