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「ユキナ様?」
葉月さんは事態を飲み込めずにキョトンとしていた。
この変態っ!
「と、いうわけだから、オレはマンションに帰るわ。葉月、ユキナちゃんに手出すなよ?」
「は、はいっ!」
「じゃあ、うちに置いてあげてもいいの?」
杏里はフゥ、とひとつため息をつく。
「ああ。ユキナちゃんは言い出したら聞かないし、葉月ならオレの女に手出ししたらどうなるか、わかるよな?」
「絶対にそのような事は致しません!」
あはは、そりゃそうだ。
「杏里、ありがとう」
「ありがとうございます!」
その日から葉月さんとの同居生活が始まった。
葉月さんがうちに来て、さらに2ヶ月が過ぎた。
彼は建築現場でのバイトを始め、そりゃ一生懸命に働いている。
ケジメつけたいからって、ちゃんと生活費も入れてくれて、かえって助かってる。
家事も手伝ってくれるし、買い物も手伝ってくれる。
素直で従順でマジメで可愛くて、なんだか大きな犬を飼ったような気分。
犬飼いたいなって思ったことあったけど、なんかもう満足かも。
陣にはまだ葉月さんのことは話してない。
多分、話したらまた怒って走り去るに違いない。
なーんで怒られなきゃいけないのかしら。
大学の帰り道、あたしはひとりで買い物を済ませて帰路を急いでいた。
うちのワンコ…葉月さんが心配するから。
相変わらず駅前は賑やかで、すっかり日も暮れたというのにネオンで明るく照らされる。
ここが1番うるさいかもしれない。
ジャラジャラと機械的な音が耳に障る。
買い物袋をぶんぶん振りながら歩いていると、そのパチンコ店の駐車場からなにやら叫び声が聞こえてきた。
え?、なに?ケンカ?
通報したほうがいいかな?と思い、そっと目立たぬようにその場を覗きこんだ。
巻き込まれるのは勘弁だもの。
「オラオラ!さっきまでの威勢はどうしたんだ?!」
ボコボコに若い男の子がやられてる。
1対4で、1のほうが全員を順番に殴ってる。
やっぱりケンカしてるのね、馬鹿だ。
都会っ子なのでこんな風景にも慣れたものではある。
が、横目でその光景を確かめていたあたしは、愕然とした。
な、な、なんで?!どうして奴がここにいるわけ?!
見間違いかと思ったが、そうでもなさそうだ。
「この志龍様に喧嘩売るなんざ1000年早いんだよ!!」