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~手のなるほうへ~  作者: コンブ
第1章
10/112

10

え、ちょっ…??。


「本当に君には申し訳ないことをした。君が杏里の大切な人なのはわかっている。私には君を無事に送り届ける義務がある。信用できないかもしれないが、私と来てほしい」


頭を地面に着け、あたしに言う。


な、なんでいきなり土下座とかしちゃうわけ??


「もし、信用できないのならば、この腕でも足でも切り落としてくれて構わない。この命に誓っても、私は嘘をつかない」


切り落とすなんて、そんなことできるわけないでしょ。


疑いの眼差しを向けていると、その人はあたしの前に大きな剣を置いた。


いやいやいやいやいや。やっぱりこの人おかしいよ。


腕なんて切れるわけないじゃない。



「頼む。私を信じてくれ」





「⋯⋯⋯」


あたしは黙って手を伸ばす。



そして、その人の頭にあるツノに恐る恐る触れてみる。


押しても引っ張ってもそれはビクともしない。


明らかにそれは、頭から生えている。


「マジかぁ⋯⋯生えてんのかぁ」


がっくり肩を落とすあたし。


本当に生えてんのね…。



「夢…じゃないんだね」


足の痛みもあるし、意識もはっきりしている。


これはどうあがいても、現実。


信じたくなーーーい。



「…あたしのこと、食べたりしない?」


鬼って、人を襲って食べるもんだと思ってるんですが。


「我が鬼の一族は、一度も人間を食したことはない。ツノがあることと、多少の魔術が使えること以外は人間と変わらない。まあ、あとは寿命は人間の何倍も長いということくらいだ。頼むから、信じてほしい」


って言われても、ねえ。


「本当に、ここは鬼の世界なの?」


そんなの御伽噺の世界だよ?


「ああ。本当に鬼の世界だ。魔界と人間界の間にある、鬼の住む世界なのだ」


うぇえー⋯⋯。


これ信じろって、難しいでしょう。


2次元の世界に迷いこんだのかと。



「では、やはり私が嘘をついていないことを証明するために…」


そう言ってその人は立ち上がり、剣を手にする。


そして自分の左腕を大きく前に伸ばす。


「ちょちょちょちょっ!!ノーノーダメダメ!!中止して!!」


慌ててその剣を取り上げる。


そんな、びっくりスプラッタショーなんて見たくないっつーの。


「しかし、私にはこれくらいしか…」


あたしから剣を取り戻し、再び大きく振りかざす。


「わかった!信じる!信じるから!!」


そう言うしかなかった。


血なんか見たくないもんっ。


この人マジっぽいし、洒落にならないわっ。


「そうか…。ありがとう」


その人は、そっと剣を下ろした。


ふう…よかった。


「でも、悪いけど全部を信用したわけじゃないからね。とりあえずそのツノが本当に生えてるのはわかった。うん、ここがあたしの住む東京じゃないのもわかった。ただそれだけだよっ。…杏里のことは、杏里に会うまで信じないもん」


「ああ。それでもいい。本人に会ってツノを見ればいい」


生えてないと思うけどね。


「私の名前は右京うきょう。よかったら君の名前も教えてもらえないだろうか」



「ユ、ユキナ」


「そうか、ありがとう、ユキナ。私のことを少しでも信じてくれて」


信じたわけじゃない。


ただ、あまりにもこの右京って男がマジな目で腕を切ろうとするから⋯⋯。


冗談通じないタイプなんだろうなぁ。


「もう絶対そういうことしないでよね?。腕なんてもらっても嬉しくないし。どうせもらうなら、キレイなアクセサリーのほうがいいわ」


「わかった」


右京は頷き、自分の首に手を回してなにかを外す。


「これは私の大切なペンダントだ。腕の代わりにこれをユキナに授けよう」


本当にアクセサリー出てきちゃったよ。


「い、いらないってば」


そんな大切なのとかもらえないよー。


「いや、是非これは君が持っていて欲しい」


そう言って、右京はそのペンダントをあたしの首にかけた。


それは、透き通るような赤くキレイな石の付いたペンダントだった。


こんな宝石みたことない。


「だってこれ、右京の大切なものなんでしょ?」


「まあ…。でも腕の代わりになるだろう」


そんな大事なのもらうわけにはいかないよぉ。


「これは私達の世界ではとても貴重な石で、私のお守りなのだ。ユキナが人間界に帰れるように、これをつけていて欲しい」


あまりにも真剣な顔して言うものだから断りにくい。


「じゃ、じゃ、じゃあ、あたしが人間界に帰るときに返すわ。それまで借りとく」


「わかった。それまではユキナが持っていてくれ」


「そうする」


そっとペンダントに触れる。


本当にキレイな石。



「そろそろ出発する」


「うん。ここからその東の国ってどれくらいあるの?」


何時間くらい歩くのかしら。


「そうだな⋯⋯。おそらくは4日はかかるだろうな」


「ええええ(泣)」


4日歩くってこと??


超イヤなんですが。


「本当にそんなに長い時間歩くの…?」


あたし、怪我もしてるんだよ?


「ユキナは私が背負っていくから大丈夫。足、痛むだろう?」


4日も背負って歩くって??


それは無理でしょ??


体重どんだけあると思ってるのよ。


「あ、あたし、頑張って歩くよ」


「いや、私はユキナを無事に送り届けなければならない」


「それはもうわかったからっ」


この人、すごい使命感に燃えてるんだわ。


あたしはなんとか立ち上がる。


「あたし重いし、ずっと背負ってたら疲れちゃうもの。なんか杖になる木の枝でもあれば平気よ」


「⋯⋯わかった。しかし、ツライときはすぐに言ってほしい」


右京はうなづき、杖になりそうな枝を探してくれた。






こうして、鬼の右京との奇妙な旅が始まった⋯⋯。






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