テスト期間
テストの期間だけはいじめはおさまった。
ここの学校のテストはかなり難しい。それにもかかわらず全教科の平均点は70点を越え、赤点は50点だ。
1つでも赤点を取ろうものなら、次のテストまでひたすら補習がまっているのだからいじめなどしている暇はない。
「かなえ!これ!」
雫はテスト範囲のプリントをかなえの机の上に叩きつけた。
「数学?」
「明日の数学まじでやばいの!お願い!」
かなえは雫に数学を教えながら教室を見渡した。
「かなえ、ここは?」
「あ、うん。このxがあるでしょ…。そこにさっき使った方程式を代入して…」
ちらりとプリントをみて答えた。
「そっかー!」
雫も言われるままにペンを走らせた。
「ありがとう!」
プリントを終わらせると雫はかなえにお礼を言った。
「どういたしまして。これで、今度のテストで赤点とらないでね」
「頑張る…」
苦笑いしながら雫は答えた
「でもさ、本当にかなえって数学得意だよね。さっきもプリントちょっと見ただけなのに教えてくれたし」
「だって、私もそのプリントやってるし」
かなえは自分のプリントを指差す。
「それだけじゃないよ。抜き打ちでも満点ばかりじゃん」
「んー…数学は、答えきまってるからね」
かなえは教科書を開く。
「こうやって筋道たてていけば、答えにありつける。答えがわからないものは…苦手だったから」
高校生となった今では小さなころより、考えることはなくなったが生い立ちの答えがわからないのはかなえにとって、勉強よりも難しく、いじめよりも怖いものだった。
「それに、学費免除もかかってるから毎日勉強してるもの」
かなえは鞄に机の上に広げていた教科書やノートをしまうと立ち上がった。
「どこかいくの?」
「職員室。先生に呼ばれてるの忘れてた」
かなえはそう言ってさっさと教室を出た。
職員室の前で、かなえは足を止めた。
「本村さん」
そこには担任から呼び出されていた人物が大量のノートを持っていた。
「樋渡くん…」
「おそい」
「ごめんなさい」
あやまって樋渡からノートを半分受け取った。
「それで、最近どう?」
教室へUターンしながら樋渡はかなえに聞いた。
「知ってるでしょ」
かなえはため息をついた。
「何を?」
「今、教室で何が起こってるか」
「テスト勉強だろ?」
「そうね。たしかに、今はそれだけよね」
かなえは足を早めて樋渡の前にでて振り返った。
「だけど、テストさえおわればまたあの子たちは私になにかをしてくる」
樋渡はただ口を歪めた。
「それで?」
「なにがしたいの?何をさせたいの?もう、十分でしょ」
かなえはじっと樋渡をみつめた。
「俺は何もしてないよ。きみが勝手に付き合って、いじめられてるだけじゃないか」
「それは…私が…樋渡くんの…こと…」
「それで?」
「ひどいよ…」
かなえは悲しそうに顔を伏せた。
「自業自得だよね」
樋渡はかなえの横を通りすぎた。
「まぁ、今はそのままで。絶対に別れたりしたら駄目だよ」
樋渡の言葉にかなえはかたまった。
「誠意みせてよ」
「わかってる…」
かなえは小さく返事をして大人しく樋渡のあとをついて教室に戻った。
その日の夜、いつものように石井のもとで勉強をしていた。
「俺、今日、職員室いったんだ」
大志は石井がいなくなると同時にかなえに話しかけた。
「ん?」
「お前、樋渡と何してるんだ?」
大志は教室に戻るかなえと樋渡の話を聞いていたのだ。
「何って…委員長の仕事?」
「そうじゃなくて!圭太のことだよ。今日の話じゃ、圭太のこともいじめのことも樋渡が関わってるみたいじゃないか」
「何言ってんのよ」
かなえは大志の視線を浴びながら教科書を閉じた。
「樋渡くんが関係してるわけないじゃない」
「そうか?どう考えても今日の話はおかしいって」
「何がおかしいの?」
かなえは意味がわからないというように首をかしげた。
「なにか脅されてるような…」
「何で好きな人に脅されるのよ」
「それだ。それが一番おかしい」
「はい?」
「かなえが樋渡のことが好きだってことだよ。本当にそうなのかなって思ってたけど今日の態度みてたらちがうってわかるよ」
「そんなわけないじゃない」
かなえは即答した。
「そうだね。たしかに、今日の会話じゃそう聞こえるかもしれないけど、私は樋渡くんのこと好きだよ。そして、いつか私のお願いを聞いてくれるって約束してるだけ」
かなえはにこりと笑う。
「だから、安心してよ。もうしばらくの我慢だし、圭太ももうすぐ解放するからさ」
すると、かなえは教材をもって一目散に自室へと戻った。
その様子をみて大志はため息をついた。
「それなら、なんでそんなに悲しそうな顔するんだよ…俺にも圭太にも嘘が通じるわけないだろ」
大志はそう呟いて再び教科書に向き合ったのだった。
そして、テストが一週間かけて行われた。
「おわったー!!」
最後のテストが終わると雫が声をあげた。
「かなえ、今日、どこかよっていかない」
勉強に解放されたことを喜んでいた。
「うん」
かなえもうなずいて放課後を待った。
そして、雫と下校しようとして自分の靴に手を伸ばした瞬間、隣で悲鳴が上がった。
「なにこれ!!」
雫が下駄箱の中をみて驚いていた。
「雫?!」
かなえは焦って雫の視線の先に目をやった。
「うそ…」
そこにはありとあらゆる暴言がかかれた紙がぎっしりとつまっていた。
「かなえ…」
「なによこれ!!」
かなえはその紙を取り出し始めた。
「ごめんね…雫。私のせいだ」
いじめはかなえの親友にも飛び火しはじめたのだ。
「本当にごめん…」
雫は自分よりも焦っているかなえをみて慰めるように言った。
「うんん。かなえは何も悪くないよ」
雫も紙を抜き始めた。
「でも私のせいだもん…」
「大丈夫。かなえの方がつらいって。私は平気だよ」
かなえの背中をポンポンと叩いた。
「絶対にあいつらに負けないから」
「雫…ごめん…」
「謝らないでよ!私はかなえの味方だよ。悪いのはあいつらよ」
雫は力強く青ざめているかなえをはげますのだった。