かなえの好きな人
かなえは夜、自分の部屋に戻ると大きくため息をついた。
「かなえちゃん、何かあったの?」
そう聞いてくるのは同じ部屋の子供たち。
中学生か2人いる3人部屋だ。
「まー、高校生はいろいろあんのよ」
宿題を見せてくる雛子と千春からノートを受け取った。
「数学と英語ね」
「うん」
「お願い!」
そして、毎晩のように行われる勉強会が行われた。
途中、小学生もかなえの部屋を訪れ自分の宿題を邪魔されながら家庭教師を続けていた。
「終わったぁ」
「ありがとー、かなえちゃん」
「はいはい、じゃあさっさと寝なさい」
かなえは雛子と千春を寝かせ、部
屋から出た。
「失礼しまーす」
「あら、かなえちゃん」
かなえが向かったのは施設の職員の宿直室。
そこで、職員の今井真理がかなえの方を振り向いた。
「宿題いい?」
「今日も家庭教師してたのね」
「うん。終わんない…」
宿直室にある机にかなえは宿題をひらいた。
「今井ちゃん、机かりるぞ」
また1人、宿直室にやってきた。
「大志君も宿題?」
「そう」
大志は小学生男子に邪魔をされ続けて終わらなかったのだ。
「高校生は大変ね」
目尻にシワを浮かべながら今井は笑っていた。
今井はかなえと大志が施設に来たときからずっといる職員だ。
そのため、かなえも大志も心置きなく接することができている。
「じゃあ、私も頑張らなきゃね」
今井は写真と作りかけのアルバムを出した。
「まーくんの?」
「そうよ」
ここを出ていくと決まった子供に小さなアルバムをプレゼントするのだ。
1人じゃないんだよ、と言うために。
そして、最後のページは新しい家族との写真を入れるために。
「ねぇ、私にも作ってくれる?」
高校生までしかこの施設にはいられない。
かなえと大志はさくら園の子供の中で一番年上になる。
「このまま高校卒業するまでいるだろうしさ、さくら園卒業アルバム作ってよ」
かなえは笑顔で言う。
「その時は分厚くなりそうね」
「うん」
そして、それをみて大志が言った。
「卒園だろ?」
「それって幼稚園みたいじゃん」
「だって、かなえはガキじゃないか」
「ひっどーい」
そう言いながらも2人は宿題に取りかかった。
しばらく宿題を真面目にしていると今井が立ち上がった。
「見回り行ってくるわ」
「はーい」
職員の仕事だ。
大志は今井がいなくなるとかなえに声をかけた。
「何があったんだ?」
「何の事?」
「圭太」
「ああ」
かなえは頭を抱え込んだ。
「あの罰ゲームはかなえが標的だったわけじゃないし、断るのが当然だと思ってたんだけど」
大志も圭太と一緒にいたのだ。
「嫌がらせよ。あんた達、教室でうるさいし」
「それだけか?」
大志の目からかなえは視線をそらした。
「それ以外に何があるって言うのよ」
「実は…圭太が好きだとか」
「ないって」
かなえは苦笑する。
「それに私、好きな人が別にいるって知ってるでしょ?」
圭太は知らないことだ。
「気になる人じゃなかったのか?」
「最初はね。最近、好きだなぁって思ったの」
大志は黙ってかなえを見た。
「委員長のこと」
微笑むように呼んだ。
「樋渡か」
「うん」
かなえと委員長の樋渡が出会ったのは高校1年生の時だ。
クラスは違うが、成績優秀な2人は委員長はそれぞれのクラスで委員長を勤めていた。
そして、2年になって同じクラスになり委員長と副委員長をすることになったのだ。
「かっこいいし、優しいし、頭もいいし、圭太とは大違い」
「圭太だってモテるぞ?」
「皆見た目に騙されてるだけだって」
かなえはどうでもいい、という態度をとる。
すると、大志はでも、と言った。
「でも、今日、目の前にいただろ?告白受け入れていいのかよ」
かなえは握りこぶしをつくった。
「いーの。これは作戦なんだから」
面白そうに笑うかなえをみて大志は複雑そうな顔をしていた。