罰ゲーム
本村かなえが教室に入ると、教室の中でクラスメイトの男子たちが何かはしゃいでいた。
そして、かなえに気がつくと一人背中を押されてかなえの前に飛び出してきた。
「あ、あのさ…」
押された男子、佐熊圭太は大きくため息をついてかなえに言った。
「好きです。付き合ってください」
何の感情もなく、ただ台詞を読み上げるような告白だった。
「で、本村さんよお、何でOKしてるんだよ」
かなえは教室で他のクラスメイトに見られながら、嫌そうに告白を受け入れたのだ。
そして、周りに冷やかされながら一緒に並んで帰っていた。
「告白してきたのそっちでしょ、佐熊君?」
かなえの機嫌は悪いままだ。
「いや、空気読めばわかるだろ!ふざけてたくらい」
「罰ゲームでしょ」
かなえの言う通りで圭太が告白したのは罰ゲームなのだ。
最初に教室に入ってきた女子に告白をするというふざけた罰ゲーム。
かなえももちろん告白され、圭太や他の男子の様子で状況は察していた。
「じゃあ、何でだよ」
まさかOKされると思っていなかった、するわけないと思っていたのだから。
「ま、まさか…」
「何よ」
「俺のこと好きなのか!?」
すると、かなえは瞬発的に答えた。
「そんなわけないでしょ!」
「即答かよ…」
「当たり前でしょ。あんたのことなんかどうだっていいわよ」
あり得ないという表情で答えていた。
「おいおい、優等生の本村さんの言う台詞かよ」
「それは学校だけよ」
かなえは優等生。常に学年上位の成績で学費免除の権利を持っている。教員からも受けがよく、クラスの学級副委員長をつとめている。
一方、圭太はクラスでも学年でも男女関係なく人気のある人物。
裏表ない性格で友達も多い。
そして、とある会社の社長子息。
お金持ちのおぼっちゃんということだ。
「ったく、じゃあ何でだよ…」
圭太は理由をずっと聞いていた。
「嫌がらせ」
かなえはやっと答えた。
「はぁ?」
「だから、嫌がらせよ。あんたらのゲームうざかったしね。あんたは見せしめ」
「それだけ?!…だけど、お前だって損するだけじゃん?」
「最近、よく彼氏いるかとか好きな人いるかとかよく聞かれるのよね。その度にいないって答えるの面倒になってさ。あんたなら別にいいかなって」
「え?」
かなえの言葉に一瞬圭太は止まった。
「それは…俺が彼氏ならいいってこと…?」
すると、かなえは驚いたように圭太をみた。
「ばか、そんなわけないでしょ。私がいいたいのはあんたならこの被害にあっても心が痛まないってことよ」
勘違いするな、と再び念を押した。
「てめぇ!」
顔を真っ赤にしながら言い返した。
「まぁ、付き合うと言っても今までどーりよ。高校入って初めて会ったの。私達は」
「…」
圭太の足がとまった。
それに気づいてかなえは数歩歩いたところで振り返った。
「さくら園のことは秘密。だから、中学までの圭太のことも知らない。圭太も私のことを知らない」
「かなえ…」
お互い下の名前で呼ぶ。
「高校では、私とあんたの関係は優等生の本村さんと有名人の佐熊君ってわけよ」
二人は中学までべつの学校に通っていた。
ただし、本当に初めてあったのは産まれてまもないころだ。
しかし、かなえはその事実を隠そうとしているということだ。
「お、さっそくラブラブじゃん」
かなえと圭太が歩いていると、目の前の庭のある建物からクラスメイトが現れた。
「大志、ただいまー」
「おかえり、かなえ」
当たり前のようにそう二人は言った。
「それよりさ、お前らのこと有名になってるぞ。公開告白したカップルって」
大志は爆笑しながら言った。
「かなえも、何してんだ?」
まるで、付き合うなんてありえないという顔だ。
「いろいろあんのよ」
かなえも苦笑しながら言った。
「ふーん?」
大志は圭太を見た。
「嫌がらせ…だとよ」
大きくため息をつき、呆れた顔でかなえを見下ろした。
「はいはい。で、大志は何してんの?」
かなえは大志が手ぶらであることに気づいた。
「ガキ共を迎えに」
「まーくん?」
「そう、夕飯だしな」
「そっか。じゃあ、手伝わなきゃ」
かなえは圭太に振り返った。
「じゃあ、また明日」
「またな」
圭太に背を向けて大志の出てきた建物の中へと入っていった。
その建物の入り口には
さくら園
と書かれていた。
圭太はかなえがさくら園の中に消えるまで見ていた。
「むくわれねぇなぁ」
その様子をみて大志が呟いた。
「なんだよ…」
「嫌がらせって、かわいそうだな、お前」
「うるせーよ」
圭太はさくら園から目を外して大志と歩き出した。
「まーくんって…最近養子縁組が決まったんだっけ?」
「うん。俺も会ったけどいい人そうだったよ」
「よかったな」
「そうだな。まぁ…一番いいのはこういう場所に来ないことなんだろうけどさ」
大志は目の前の夕日を眩しそうにみた。
さくら園は様々な理由で家族と離れた子供たちの集う施設。
かなえも、大志もそんな子供の1人だった。
「さぁて、俺も帰るかな」
「帰れ、帰れ」
子供たちのいる公園の手前で圭太は大志と別れることにした。
「そうだ!」
圭太が背を向けようとすると大志が意地悪そうに笑っていた。
「とりあえず、おめでと」
その言葉に圭太は苦々しく返事をした。
「おめでとうじゃねぇよ!」
「あはは、頑張れ」
そして大志は公園に向かい、圭太は自宅へと帰った。