第9話
「……」
「……何だ?」
「それは間違いなくこっちのセリフだと思うよ」
翌日、ひばりと深月は職員室の前の廊下でスーツ姿の理音を見つけ、ひばりは反応に困っていると理音は首を傾げる。
「ん? 言わなかったか、しばらく、日本で知り合いの研究の手伝いをすると」
「それは聞いたけど、何で、学校にいるの?」
「察しが悪いな」
理音の言葉にひばりは研究と自分達の通う高校に共通点がないために首を傾げた。しかし、理音はひばりの様子に眉間にしわを寄せた。
「理音、何をしてるんだ? 行くぞ」
「あぁ」
「ん?」
その時、職員室のドアを開けて1人の青年が理音を呼ぶ。理音はその声に頷いた時、青年は理音のそばにひばりと深月に気が付く。
「あ、あの?」
「ふむ……理音、どっちが彼女だ?」
「……違う」
青年はひばりと深月の顔を覗き込むと1つの答えを導き出したようでニヤニヤと笑う。 理音はそんな青年の反応に眉間にしわを寄せて、青年の言葉を否定する。
「えーと、ボクは弓永深月、理音の幼なじみで、こっちが理音の彼女の支倉ひばりです」
「ち、違うよ!? 深月ちゃんは何を言うの!?」
「いや、そっちの方が面白そうな流れだから」
「そうか。それは良い事を聞いた。理音も恋愛関係に興味がないって顔をしながら隅におけないね」
深月は何か考え付いたようで、青年にひばりを理音の彼女だと紹介し、ひばりは突然の事に驚きの声を上げるが、青年は状況を理解しながらも理音をからかいたいようでうんうんと頷く。
「……深月、ひばりで遊ぶな。タクト、お前もおかしな悪ノリをするな」
「はいはい。わかったよ」
理音は青年を『タクト』と呼び、彼を静止すると青年は理音の反応が面白くないと言いたげにため息を吐いた。
「はじめまして、お嬢さん方、春日拓斗と言います」
「はじめまして、支倉ひばりです」
青年は『春日拓斗』と名乗り、ひばりは慌てて拓斗に頭を下げる。
「理音、この人って誰?」
「胡散臭い詐欺師」
「誰が詐欺師だ」
深月は拓斗が何者かと理音に聞くと理音は迷う事なく詐欺師と答え、理音の答えに拓斗はため息を吐く。
「うん。なんか、詐欺師顔な事は確かだね」
「み、深月ちゃん、どうして、そう言う事を言うの!?」
「ひばり、気にするな。深月が正しい」
深月は拓斗の顔をのぞき込み、理音の言葉を肯定したいようでうんうんと頷き、ひばりは慌てるが理音は気にする事はない。
「まったく、それより、理音、そろそろ行くぞ。時間もないからな」
「あぁ」
拓斗は諦めがあるのかため息を吐くと理音に声をかけて、2人は時間もないようで足早にひばりと深月から離れて行く。
「結局、理音は何してたんだろうね?」
「わからない」
「まぁ、週末に聞けば良いかな? ひばり、教室に戻ろう」
「うん。そうだね」
ひばりと深月は理音が学校にいた理由を聞きそびれたため、2人で首を傾げるも答えが出るわけもなく、2人は教室に向かって歩き出す。
「ただいま。あれ? 何の騒ぎ?」
「葵ちゃん、何かあったの?」
ひばりと深月が教室に戻ると教室では女子生徒が集まり、妙な盛り上がりを見せている。
「えーと、良くわからないんですけど、来週、転校生と先生が来るらしいって噂があって、それがかっこいい男の子だって言うんですよ」
「転校生と先生? ……理音くんと春日さんだったりして」
「いや、流石にないでしょ。理音が今更、学校に通う必要性がないし」
葵から転校生と教師の噂を聞き、ひばりは職員室の前で会った理音と拓斗の事を思い出して苦笑いを浮かべる。深月はひばりと同じ事を少し考えたようだが、流石にあり得ないと思ったようで首を横に振った。
「そうだよね」
「あ、あの。理音君がまた何かをしたんですか?」
ひばりは深月の言葉に頷くがどこか否定しきれないようで苦笑いを浮かべたままであり、理音が先ほどまで学校にいた事を知らない葵は首を傾げる。
「良くわからないけど、さっきまで理音が学校にいたんだよ」
「そうなんですか?」
「うん。それで、春日拓斗さんって言う人と一緒だったんだけど、何をしに来たかは聞けなくて」
「何かあったんでしょうかね?」
ひばりと深月は葵に理音を学園内で見かけた事を話すが葵も理音が学校に来る理由に予想が付かないようで3人で首を傾げる。
「理音君が転校してくるって事はやっぱりないですよね?」
「うーん。流石にあり得ないと思うんだよね。今更って感じもあるし、何より、理音の性格上、時間の無駄って言い切りそうだし。基本的に協調性とかって言葉がもっとも似合わない人間だから学校に来る意味がないし」
「えーと、深月ちゃん、それは言い過ぎじゃないかな?」
葵は理音が噂の転校生ではないかと思ったようだが、深月はあり得ないと首を振り、理音の事をぼろくそに言う深月の様子にひばりは苦笑いを浮かべる。
「で、でも、あのお化け屋敷の洋館の件もありますし、もしかしたらって事もあるんじゃないでしょうか?」
「もしかしたらね……葵、ひばり、理音が制服を着て、学校に通う姿を想像できる? ボクにはできないんだけど」
「そ、そうですね。きっと、私達にはわからない用事があったんですよね」
深月は葵の言葉を聞き、理音が高校に通う姿を想像しようとしたようだが、その姿が目に浮かぶ事はなく眉間にしわを寄せる。葵は深月の言葉に理音の制服姿を思い描こうとするが、深月と同様に思い浮かばなかったようで苦笑いを浮かべた。
「何より、理音本人が嫌がるだろうからね。あいつ、学校に良い印象がないだろうし。そんな事にはならないよ」
「そうかもしれないですね」
深月はこの話はここで終わりと言い、葵は深月の言葉に少し表情を暗くしながらも頷く。
「あ、あの……」
「ひばり、そろそろ、授業が始まるから、席に座ろう」
「う、うん。そうだね」
ひばりは深月と葵の様子に何か感じたようで声をかけようとするが、踏み込んで良いものか悩んでしまったようで言葉を飲み込む。深月はそんなひばりの様子に気づいたようで笑顔を見せると何かを誤魔化すかのように教室の時計を指差す。ひばりは深月の言葉に頷き、自分の席に歩き始める。
「ゴメンね。ひばり、これはきっとボクの口から言って良い事じゃないから」
「深月ちゃん……」
「葵も席に座るよ」
深月はひばりの後ろ姿に小さな声で謝り、葵は深月の気持ちがわかるようで彼女の名前を呼ぶと深月は何事もなかったかのように笑顔を見せる。