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mirror  作者: まあ
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第8話

「どうだ? 美味いか?」


「そうだな。この料理では炭水化物と脂質が多すぎるな。子供の成長を考えると」


「……理音くん、栄養素の話はしてないと思うよ」


 大樹は理音に夕飯の味について聞くが、彼からの回答は質問の答えとは程遠いものであり、ひばりは大きく肩を落とした。


「怜生、これとこれを食後に摂取しておくと良い」


「……はい」


「理音くん、話を聞いてるの!? そして、怜生くんにおかしな物を渡さないで!!」


 理音は足りない栄養素を補わせるためだと言い、怜生に栄養剤を数種類渡す。怜生は素直に受け取るがひばりは声をあげる。


「おかしなもの? 何を言ってる。しっかりと栄養学から、人間が生きるのに必要な栄養素を選んでの選択だ。後は多く摂取した炭水化物と脂質を無駄にため込まないようにする事もできる」


「……お前は本当に何を作ってるんだ」


「理音くん、これってダイエットにも効果があるかしら?」


 理音はひばりが声をあげる理由がわからないようで首を傾げる。大樹はため息を吐くが大樹の母親は理音の栄養剤に興味を示す。


「……母さん」


「そうですね。一定の効果はあると思いますが、栄養剤に頼るよりは、しっかりとした運動とバランスの良い食事でしょう。これはあくまでも補助のためのものです」


「……そして、お前が言うな」


 理音は大樹の母親にアドバイスを始めるが、理音は栄養剤で食事を済ませているためか説得力も何もなく、大樹はツッコミを入れる。


「ん? そうか」


「ねえ。理音くん、栄養学を学んでるなら、食事には栄養だけじゃないって事は勉強してないの?」


「そんなものに興味はない」


「……」


 ひばりは食事には栄養以外にも大切なものがあると言いたげだが、既に家庭の団らんと言う物を捨てた理音には興味などないものであり、理音は淡々とした口調で彼女の疑問を切り捨てた。


「まあ、その辺はゆっくりと行かないとだめだろうな」


「で、でも、怜生くんもいるわけだし」


 ひばりの納得がいかなさそうな表情に大樹は苦笑いを浮かべるも、ひばりは怜生の事を考えて欲しいようで怜生へと視線を向ける。


「お兄ちゃん、ヒロ先生のご飯、美味しいです」


「そうだな」


 ひばりの心配をよそに怜生は理音との食事が嬉しいのか、理音に声をかけながら食事を続け、理音は怜生の言葉に頷く。


「……」


「理音なりに怜生くんの事は心配してるんだよ。ただ、あいつ自身も距離感がわからないんだ。もう少し長い目で見てやってくれないかな?」


「う、うん。そうだね」


 大樹は理音に取っても難しい問題があると言い、ひばりは小さく頷く。


「理音、こっちはもう良いから、そろそろ、支倉さんを送って行ってくれ」


「あぁ。ひばり、帰る準備をしろ」


「う、うん」


 夕食を終えて、後片づけが一段落した時、大樹は時間を確認すると理音にひばりを彼女の自宅まで送り届けて欲しいと言う。しかし、ひばりはまだ理音に送って貰う事に抵抗があるのかぎこちなく返事をした。


「理音、お前は信用がないな」


「何を言っている。医者は信用の塊だ。そんな事はない」


「……理音くんが悪い人じゃないのはわかるんだけどね」


 大樹はひばりが理音を警戒するのは何となく理解出来るため、苦笑いを浮かべるも理音は意味がわからないと首を傾げる。その様子にひばりは申し訳なさそうに言う。


「気にしなくて良い。それに関して言えば、患者にもよく言われる」


「……理音、お前、それは医者として信用されてると言わないから」


「そうか? まぁ、それでも診察や手術に指名されるんだ。それなりに信用はされているんだろう。ひばり、準備はできたか?」


 理音の中の信用には明確な基準がないようであり、大樹は呆れたような口調で言うが理音が気にする事はなく、ひばりに帰り支度ができたかと聞く。


「う、うん。大丈夫だよ」


「行くぞ」


「それじゃあ、支倉さん、また、明日ね」


「うん。理音くん、良いよ。あたし、自分で持つから……お願いします」


 ひばりが帰宅するのに気が付いた園児達はひばりに向かい手を振り、ひばりも答えるように手を振った時、理音は彼女のカバンに手を伸ばす。ひばりは理音の行動に驚いたようでカバンをつかんでいる手に力を込めた。

 しかし、その抵抗は空しくカバンは理音の手に移動し、ひばりは取り戻す事は無理と判断したようで申し訳なさそうに頭を下げる。


「……気にする必要はない。俺は当たり前の事しかしていない」


「理音くんの常識が偏ってるのが気になるね。理音くん、急がないとそろそろ、怜奈さんが怜生くんを迎えに来る時間だよ」


 ひばりが申し訳なさそうにする様子に理音は当たり前の事しかしてないと言い切る。大樹の父親はそんな理音の様子に苦笑いを浮かべると理音と怜生の母親の『前田怜奈』が怜生を迎えに来る時間だと教えた。


「……ひばり、行くぞ」


「う、うん」


 理音は怜奈とは会う気はないようでひばりを急がせ、ひばりは理音と怜奈を会わせた方が良い気はしながらも何も言えないようで小さく頷き、2人は幼稚園を後にする。


「……父さん」


「まぁ、理音くんは本当は怜奈さんの気持ちも気が付いているよ。けど、心が拒絶をするんだ。彼は優しすぎるから、大樹、それはお前が1番知ってるだろ?」


 大樹もひばりと同様に罠にはめてでも理音と怜奈を会わせた方が良いとは思っているようであり、父親へ非難するような視線を向けるが彼には彼の考えもあるようで苦笑いを浮かべる。


「まぁ、わからなくもないんだけど」


「それに怜生くんの前で何かあっても困るだろ。理音くんはクールに見せかけてそうでもないから」


「……まぁ、それに関しては同感かな?」


 大樹の父親は理音の性格を理解しているようで親子の対面はまだ避けた方が良いと答えると大樹は微妙に納得がいかないようで眉間にしわを寄せた。



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