第7話
「きゅうー」
「支倉さん、大人気だな。理音、助けてあげたらどうだ?」
理音は園児達に囲まれて目を回してしまったひばりを見て眉間にしわを寄せた。大樹は苦笑いを浮かべて目で理音にひばりを助けるように言う。
「……そろそろ、解放してやってくれ」
「理音、その助け方もどうなんだ?」
「ん? 何かおかしいか?」
理音は大樹が出したひばりへの救援要請に表情1つ動かす事なく、園児の中からひばりを小脇に抱えて脱出する。
「……まぁ、良いか。取りあえず、遊びは中断。夕飯にするから手を洗ってくる」
「ハイです」
「慌てて、転ばないようにな」
大樹は手を叩き、園児達に夕飯の準備ができた事を知らせる。園児達は大樹の言葉に元気よく手をあげると手洗い場に駆け出して行き、大樹は園児達の様子に優しげな笑みを浮かべた。
「……止められるなら、先に止めろ」
「まぁ、気にするな。理音、支倉さんの事を頼んで良いか?」
「あぁ。取りあえず、応接室のソファーに寝かせてくるか」
「そうしてくれ。後は運び方は気をつけろよ」
理音は大樹が園児達を簡単に誘導した様子に小さくため息を吐く。大樹はその言葉で理音を園児達の中に突っ込ませた意味がなかった事に気が付き、苦笑いを浮かべると理音にひばりを任せて、園児達の後を追いかけて行く。
「う、うーん? ……」
「目を覚ましたか?」
理音はひばりを応接室に運ぼうと彼女をお姫さま抱っこに持ち替えた時、ひばりは目を覚まし、ひばりは自分の格好と目の前にある理音の顔に一瞬、固まった。
「理、理音くん、な、何で?」
「ん? ひばりが園児達に囲まれて、目を回していたからな。応接室のソファーまで運ぼうとしただけだ。流石に園児の布団だと小さいだろうしな」
ひばりは頭が処理しきれないようで顔を真っ赤にしながら、今の状況を理音に確認する。理音はひばりを抱きかかえたまま、その質問に答えた。
「そ、そうなんだ……あ、あの、理音くん、下して」
「あぁ。そうだな」
ひばりは理音に感謝しつつも、現状が恥ずかしいようで下して欲しいと言い、理音はその言葉に小さく頷き、彼女を床に下ろす。
「あ、ありがとうね」
「あぁ。気にするな。それなりに楽しめたからな」
「楽しめた? ……理音くんのエッチ!!」
ひばりは理音に頭を下げるが、理音の次の一言に耳まで真っ赤にして、どこからともなくハリセンを抜き取り、理音に向けて鋭い1撃を放った。
「ふむ。昨日も思ったが、胸を押さえつけているせいか、身体の振りにブレがあるな。この状態ではこのハリセンの性能を生かしきれないぞ」
「あれ?」
しかし、ハリセンは理音を打ち抜く事はなく、理音はハリセンが描く軌道を最小限で避けるとまじまじとハリセンを覗き込み、ひばりは手に何も感触が残らない事にきょとんとした表情をしている。
「そうだな……こうすると」
「な、何をするの!?」
理音は1度、ひばりから距離を取り、彼女とハリセンを交互に見ると何か結論が出てようでひばりとの距離を縮めて、神業と言うべきテクニックで彼女からブラジャー抜き取った。その瞬間にひばりからは先ほどとは比べ物にならないくらいの鋭い1撃が理音に向かって放たれ、理音の頭を打ち抜く。
「……ふむ。なるほど」
「へ?」
理音はひばりに打ち抜かれるもすでに興味はひばりから、彼女の手に握られているハリセンに移動しており、ひばりは意味がわからないように見える。
「少し借りるぞ……かなりの業物だ。ここまで完成度の高いハリセンを作る人間がいるとは、しかし、いかんせん、ひばりの体躯には合っていないな」
「あ、あの。理音くん?」
理音はハリセンをひばりの手から抜き取り、彼なりの分析を始め出し、ひばりは今の状況について行けないようで若干、引き気味に理音の名前を呼ぶ。
「ひばり」
「は、はい!?」
「このハリセン、名前を何と言う?」
「な、名前? えーと、『小烏丸』。友達に貰ったんだけど」
理音はひばりの名前を呼び、ハリセンの名前を聞くとひばりは理音がどうしてハリセン『小烏丸』にそこまで興味がわからずに首を傾げる。
「その友人と連絡を取る事は可能か?」
「えーと、ちょっと無理かな?」
「そうか? それは残念だ」
理音は小烏丸の制作者に興味を持ったようだが、ひばりは戸惑いながら首を横に振り、その一言に表情が少ない理音は本当に残念に思っているようで大きく肩を落とした。
「あ、あの。理音くん、どうして、そんなに小烏丸に興味を持つの?」
「ん? ここまでのハリセンを見た事がないからな。ひばりの持つ能力を活かす事が出来る良いハリセンだ。ただ、このハリセンは現状では、ひばりの胸を押さえつけた時に対応できる力がない。解放した時にはそれに耐えきれないようで重心がぶれている……単純に重心をずらすように調整しても良いが。この業物に手を入れるほど俺は野暮ではない」
「そ、そうなんだ?」
理音はハリセン小烏丸にかなりの高評価を付けており、ひばりはそんな彼の様子に若干、引いているのか1歩、後ずさった。
「どうかしたか?」
「な、何でもないよ」
「そうか?」
理音はひばりが引いている事に気が付いていないようで首を傾げるがひばりは何でもないと首を勢いよく横に振った。
「理音、支倉さん、遊んでるなら、こっち来て、夕飯を済ませてくれ……理音、お前は2日続けて何をしているんだ?」
「ん? 2日続けて? あぁ、これか? ふむ」
理音とひばりが騒いでいる声が聞こえたようで、大樹は2人に夕飯を食べるようにと顔を出すが、理音の手の中にあるひばりのブラジャーを見て、慌てて顔を逸らす。しかし、理音は興味が小烏丸に移っていたため、大樹の言葉でその事を思い出したようで自分の視線の先にひばりのブラジャーを移す。
「返して!?」
「あぁ、返すが、先にこっちだな」
「あう」
ひばりは慌てて、理音からブラジャーを取り返そうとするが、理音は彼女の身体に合っていない事を知っているためか、昨日に引き続き、ゆったりとした服を取り出し、彼女の身体にかけるとくすりと笑い、ひばりは理音の表情の変化に視線を逸らした。
「先に戻ってるぞ。飯が冷める前にこいよ」
「わかっている。ひばり、行くぞ」
「う、うん。えーと」
大樹は食堂で園児達が騒ぎ始め出した事に気づき、理音とひばりを置いて戻って行き、理音はひばりの手の上にブラジャーを返すと食堂に移動しようとする。しかし、ひばりはブラジャーを持ったまま、食堂に行けるわけもなく、視線が泳いでいる。
「どうかしたか?」
「あ、あたしは後で行くから、先に行ってて」
「どうしてだ?」
「良いから!!」
「わかった。先に行っている」
ひばりはブラジャーをカバンにしまってから、食堂に行こうとしているようで理音に先に食堂に行くように言うと彼の背中を押す。理音はひばりが何をしたいのかわからないようで首を傾げるも彼女の言葉を聞きいれて食堂に歩いて行く。
「……理音くんって、デリカシーに欠けるよね?」
ひばりは理音の背中を見送った後に、大きく肩を落とすと自分のカバンの元に移動してブラジャーをしまう。